干潟の泥から電気を取り出す、とな!?

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なんとも怪しげなタイトルから始まりました、今回。

みなさん、どげんね(いかがですか!?)

 

こんにちは。志水です。

今回は私の故郷、熊本のお話を。

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地元・熊本では有名な、味噌にご利益がある「味噌天神宮」。

今回は味噌にも感触が似ている(?)泥のお話です。

 

泥から電気を取り出せる人物が熊本にいるらしい。

そんな情報をくれたのは、同僚の科学コミュニケーター

蒋が昨年訪れたのは、大学の研究成果の見本市「イノベーション・ジャパン2014」。 革新的な手法で新たな価値を生み出す技術(=イノベーション)が紹介されました。

未来館の英語名は「National Museum of Emerging Science and Innovation」。 その名に「イノベーション」という言葉を含む未来館としては、「イノベーション」をチェックしておかなければいけません! (イノベーションに関してより詳しく知りたい方は、松井堀川の記事をごらんください。)

 

それにしても、泥から電気を取り出すなんて、革新的すぎやしませんか...? 聞くところによると、「泥の電池」なるものが紹介されていたといいます。

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こんな感じ?

 

ほんなこつね?(本当だろうか?)

 

これで電気が流れるのだろうか......。

その目で確認せねば!

さっそく熊本に飛びました!(ブーーーン)

 

伺ったのは熊本大学。 熊本大学大学院自然科学研究科の冨永昌人准教授にお話を伺いました。

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まずは「泥の電池」を見せていただきました。

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おー、思いのほか想像と近い!

本当にこれで電気が起きるのか?

 

つづいて先生に見せていただいたのは、干潟の泥が入った約10cm四方のタッパー。 そこに電極となる板(金属や炭素でできているそう)を2枚沈めてあります。

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2枚のうち、1枚は泥の表面すれすれ、もう1枚は泥の中に沈めてあります。

板に導線をつなぎ、モーターに接続すると......

ほんなこつたい!(本当でした!)

モーターが回りだしたではありませんか! (皆様に動画でお見せできないのが心苦しい限り......。)

 

この電気はいったいどこから来るのでしょうか?

 

電気は電子という小さな粒の流れです。 電子が電極や導線を通ることで電気が流れます。

では、「泥の電池」ではどこから電子がやってくるのでしょう?

 

・・・実は、泥にすむ細菌から排出されているのです!

 

どんな生き物も生きていくためには、エネルギーをつくらなければいけません。 もちろん細菌だってそれは一緒。 細菌の中の小さなタンパク質が働いて、栄養となる物質を分解しながらエネルギーを取り出します。

エネルギーを作り出す過程のうち、最後の部分を「電子伝達系」といいます。

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(クリックすると拡大します)

細胞をくるむ膜の中には、たくさんのタンパク質(図のピンク色)があります。タンパク質の上では、電子(図の小さな黄色の丸)が、ある物質から別の物質へと受け渡されていきます。黄色のシールを貼り換えているように描いてみました。このとき、タンパク質のなかでは、水素イオンが細胞の内から外へと送られます。この水素イオンの濃度の差によって最終的にはエネルギーがつくられるのです。

 

私たちが知りたいのは、電子の行方。黄色の電子マークに注目してくださいね。

 

電子は最終的には酸素(図の赤い丸)に受け渡されて、行きつく先は水になります。 (余談ですが、人間がエネルギーを得る仕組みも、細菌と基本的には一緒。人間は酸素が必要なのも、使い終わった電子を酸素に受け渡さないといけないからなのです。)

あらら、電子が酸素に使われて、水になってしまいました。 このままでは、導線の中に電子が流れません。

 

しかーし!

 

細菌の中には、電子を酸素に渡さずにそのまま体の外に出してしまうものいます。例えば、Shewanella oneidensis MR-1という細菌は、膜の表面にあるタンパク質を使ったり、ナノワイヤーとよばれる繊維を外に出したりして、電子を体の外に出していると考えられています(※1)。干潟の泥の中にもそのような細菌がたくさんいるはずです。

そして細菌が上手く電極にくっつけるような環境を整えてやれば、電子を導線に流すことができる、というわけなのです。(ちなみに、導線を通った電子は、反対側の電極で酸素と結合し、水に戻ります。)

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生物の仕組みを上手く利用するためには、工学的な工夫が必要です。冨永先生の研究室があるのは「工学部」。先生は、さまざまな電極の表面やカーボンナノチューブについて研究されてきました。先生ならではの工学的な技術のおかげで、細菌の表面にあるタンパク質から電子が電極にうまく流れるそうです。生物学と工学を組み合わせる技術が今回の泥の電池にもつながったんですね。

 

見せていただいた「泥の電池」では1平方メートルの電極を使うと、約1Wの電気を取り出すことができるそう。今、みなさんがノートパソコンでこの記事をご覧いただいているとすると、15W~30Wの電力を使っている(※2)ので、「泥の電池」でまかなおうとすると、おうちのリビングぐらい大きな電極が必要となってしまいますし、コストもかかります。

冨永先生:「発電をメインに使うのは難しいでしょうが、干潟の細菌の活動を観測したり、下水処理場にいる細菌から余った電子を受け取ることで、細菌の活動を活発にしたりすることが期待されますね。」

干潟にこの電池と観測装置を刺すと、その装置を動かす電気をつくりつつ、電圧の変化から泥の中の細菌のようすまで分かってしまうというわけ。

あるいは下水処理場。細菌から電子をもらえば、細菌の中でどんどん汚れがエネルギーに変わり、下水があっというまに浄化される。そんなこともできるかもしれないのです。

 

電極の工学技術と細菌の知識を組み合わせて、新たなイノベーションを生み出すこの技術。最後に冨永先生はこんなことを教えてくれました。

冨永先生:「学生には『科学』と『技術』をはっきり分けなさいと伝えています。『科学』では解析しやすくするために、条件をこちらの都合に合わせて単純にします。しかし、『泥の電池』のように現場で使うことを考えている『技術』では、まず現場に合わせないといけません。中途半端が一番よくないですね。」

「組み合わせる」と「分ける」。

言葉だけでは相反するように見ゆう2つばってん、どっちもイノベーションには必要だって、こったいね!

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未来館の3階「技術革新の原動力」より。

新しい技術を生み出すには、「組み合わせる」も大事。「分ける」も大事。

 

 

最後に:

微生物を使って発電する試みは「微生物燃料電池」とよばれ、世界中で行われています。ご興味があれば調べてみてください。

例えば(独)科学技術振興機構が発行する「JSTニュース2010年10月号」など。

※1:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4112983/

※2:http://www.microsoft.com/ja-jp/windows/windows-7/guide/setsuden01.aspx

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