生命が存在できる海あり!エンケラドゥスってどんな星?

このエントリーをはてなブックマークに追加


興味深いニュースが飛び込んできました!舞台は、土星の衛星「エンケラドゥス」。その地下にある海のあちらこちらで、熱いお湯が噴き出していることが明らかになったのです。

20150315_tani05.jpg研究で明らかになったエンケラドゥス内部の想像図。
氷の下の海の底に、熱水の噴出口がある(© NASA/JPL)


エンケラドゥスには、液体の水と、有機物があることが分かっていました。そこに、熱水のエネルギーが加わったのです。生命が存在するために必要と考えられるこの3つの存在が、地球以外の天体で実証されたのは初めてのこと。東京大学と海洋研究開発機構(JAMSTEC)、NASA、欧州宇宙機関(ESA)の共同研究です。


生命が存在できる環境の海「ありそう」から「ある!」に変わったのです。


未来館は約2ヶ月前の1月11日、この研究グループの中心メンバーである関根康人准教授(東京大学・地球惑星科学専攻)を講師に招き、サイエンティスト・トークを行いました。「地球外生命を探して -太陽系の"三大名所"をめぐる科学の旅」をテーマに、エンケラドゥスも"三大名所"の一つとして解説していただきました。
(アーカイブ動画はこちら。エンケラドゥスは18分30秒付近から)


この記事では、エンケラドゥスについて関根准教授の研究を交えて紹介し、後半ではイベントを振り返りながら、さまざまな宇宙生命の可能性について考えます。

20150315_tani01.png


【エンケラドゥスってどんな星?】

エンケラドゥスは、土星の周りを回る衛星、言わば土星の「お月さま」です。直径約500km。太陽からの距離は、地球と比べると約10倍。当然、寒いです。表面は、見渡す限りの氷に覆われています。

「静かな氷の衛星」と思われていたエンケラドゥス。しかし2005年にNASAの探査機カッシーニが接近してみると、氷の割れ目から海水が勢いよく噴き出しているのが見つかりました。さらに詳しい分析で、内部に広大な海があることや、海水に塩分、有機物、鉱物が含まれることなどが明らかになりました。

20150315_tani09.png土星の周りを回るエンケラドゥスの軌道(左)と、探査機が捉えた噴出


どうやら、星の内部の熱が氷を融かして水にしているようです。熱源は、周囲の天体からの引力で生じる星のゆがみ、つまり潮汐力で説明できます。「もしかしたら、生命が存在するかもしれない」。そんな期待が膨らむ中、関根准教授たちの今回の研究が始まりました。



【実験室で衛星内部の環境を再現】

「ありそう」を「ある」に変えるために必要だったのは、エンケラドゥスの内部の環境を突き止めることです。

関根准教授たちが注目したのは、海水に含まれていたシリカのとても小さな粒子。噴水の中を通過したカッシーニのデータから、ナノメートルサイズの粒子があることが分かっていました。高温の水にふれて岩石から溶け出した成分が、急に冷やされたときにできる鉱物です。

関根准教授たちは、高温、高圧に耐えられる「圧力鍋」のような容器を用いた実験で、小さなシリカ粒子が生成する条件を確かめました。温度やpHなどの条件を変えながら、数ヶ月から1年にも及ぶ実験を10回以上、繰り返しました。

20150215_tani08.jpg

高温、高圧に耐えて星内部の環境を再現する実験装置(関根准教授提供)


結果、カッシーニが確認したシリカの粒子を生成するためには、①少なくとも90℃以上の高温、②海水のpHが8~10程度のアルカリ性-という条件が必要だとが分かりました。低温では十分なシリカが溶け出さず、水を冷やしても粒子が出てこなかったのです。

また、シリカは時間が経つごとに大きくなる性質があることから、確認されたシリカが生成から数年以内のものであること、つまり、海底の熱水の噴出口はおそらく今もあるということが分かりました。

生成物から、反応が起こった時の条件を確かめる。それはちょっと強引に例えるならば、カラリと揚がった天ぷらが見つかった時に、それが何度くらいのどんな油で揚げられたのか、繰り返して実験しながら確かめていくような考え方かもしれません。しかも見つかった天ぷらの衣がサクサクの"揚げたて"であることも分かった、といったところでしょうか。



【地球の深海と似ている?】

こうして、生命が存在するために重要と考えられる液体の水、有機物に加えて、エネルギーの源となる熱水の噴出口があることが分かりました。

これは、地球の深海と共通点が多い環境です。太陽光はほとんど届きませんが、海底火山のようなところから噴き出す熱水からエネルギーを化学合成する微生物をはじめ、エビやカニなどからなる生態系が確認されています。

20150315_tani10.png地球の深海にある熱水噴出口(左)と、その周辺に生息するユノハナガニ


エンケラドゥスにもエビやカニがいる、と言うにはまだ早いかもしれません。それは、生命が進化できるこの環境が、どのくらいの期間持続しているか分からないためです。それでも、「地球に原始生命が誕生した頃のような"生命のスープ"はあるのでは」と関根准教授。地下の海へ潜水艇を直接送り込むのは難しいですが、"スープ"は幸いにも空高くまで噴出しています。新たな探査機による詳しい成分分析や、サンプルリターンへの期待が膨らみます。


関根准教授は未来館でのイベントでも、エンケラドゥスを詳しく解説してくれました。そして、ひとつの問いを投げかけました。


「地球のような海と、エンケラドゥスのような海。   

   宇宙ではどっちがメジャーなんだろう?」

20150315_tani02.JPGのサムネイル画像未来館でエンケラドゥスについて解説する関根准教授=2015年1月11日



【太陽型、地熱型。どっちの海がメジャー?生命は?】

みなさんは「海」というと、どんな景色をイメージするでしょうか?海水浴や釣り、サーフィンを楽しんだり、船に乗って水平線を眺めたり。多くの方は、青く広がる大海原を想像するのではないでしょうか。

しかし、広い宇宙で考えてみると、私たちにとって常識の海は、必ずしも多数派ではないのかもしれません。表面に海が存在するためには、熱すぎても寒すぎてもダメ。地球以外の太陽系内でその条件を満たすのは、はるか昔の火星くらいと考えられています。

これが星内部の熱に依存する海ならば、太陽から遠く離れていても、存在できることになります。実際、エンケラドゥスだけでなく、木星の衛星のエウロパやガニメデ、カリストなども地下海の存在が有力視されています。
(ガニメデで、こんなニュースもありました)


20150315_tani07.png

そして、「どちらがメジャー?」という問いは、生命にも当てはめることができます。

私たち人類が植物の光合成に頼って生きているように、地表付近の生物は太陽のエネルギーで生きています。しかし、エンケラドゥスの地下の海、もしくは地球の深海のようなところで、光に頼らず地熱からエネルギーを得る生命の方が、宇宙では存在できる場所も多いのかもしれないのです。

さらに、水以外の液体が表面や地下に広がる星の存在を考えると。(例えば、土星の衛星「タイタン」の表面にはメタンの湖があります)。広い宇宙には、私たちが想像することもできないような生命の世界があるのかもしれません。


「豊かな水とエネルギーを地表で得ている私たちのような生命は、宇宙ではレアな存在なのかもしれない」
と、関根准教授。その言葉から私が感じたのは、宇宙生命のさまざまな可能性と、私たちにとって唯一無二の地球環境のありがたみでした。



【 「未知をさぐる」 から 「存在に迫る」 時代へ】

2015年の春は、木星がよく見えます。夕方から深夜にかけて、空高くでとても明るく輝いている星です。また、エンケラドゥスの主星である土星はさそり座の近くにあり、真夜中に昇ってきます。その周りを今も、カッシーニ探査機が飛行しています。

20150315_tani06.png

カッシーニに続く探査機は・・・?


そして、太陽系外の天体に目を向ければ、夜空にたくさん輝いている恒星の周りを回る惑星も次々と見つかっています。

広い宇宙にはどんな環境があり、どんな生命が存在するのでしょうか。関根准教授からみなさんへのメッセージで、この記事を締めたいと思います。


「地球外生命探査は、未知の世界に思いを馳せて知ろうとする時代から、候補天体を詳しく調べて生命の存在に迫る時代に移りつつある。次世代を担う若者たちとともに、研究を進めていきたい」。

------------------------------------------

サイエンティスト・トーク
「地球外生命を探して -太陽系の"三大名所"をめぐる科学の旅」
動画アーカイブはこちら

講師:関根 康人氏 (東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻 准教授)

開催日時:2015年1月11日(日) 15:00~ 

開催場所:日本科学未来館 1階 コミュニケーションロビー

参加人数:216人

※イベントではエンケラドゥスのほか、かつて地表に水があったとされる火星と、水以外の液体(メタン)の海が地表にあるタイタン(土星の衛星)を、生命が存在する可能性がある"三大名所"として紹介しました。

------------------------------------------

今回のニュースについてのリンク

東京大のプレスリリース

ネイチャー掲載ページ(英語)

NHKニュース

------------------------------------------

※コメントをする際は「ブログへのコメント投稿について」をご覧ください

※「名前」は、ハンドルネームでも構いません

この記事への2件のフィードバック

関根先生のサイエンストークを聞くことができなかったので、この記事は大変嬉しいです。
エンケラドゥスについて、マスメディアの解説はいまいちで理解しきれてませんでした。エンケラドゥスがタイタンのメタンの海より、はるかに生命誕生の可能性が高いことがよくわかりました。
原始的な生命が今誕生しているかもしれない…、と思うとワクワクします!

はらぺこラッコさま
エンケラドゥスのニュースが入り、関根先生のトークがとてもタイムリーなものになったので、喜んでいただけるとこちらも嬉しいです。

エンケラドゥスとタイタンはタイプが大きく異なるので、生命誕生の可能性を比較するのは少々難しいかもしれません。
ただ現時点で、タイタンが「液体のメタンで生きられる生物がいるとすれば」という、言わば条件付きなのに対して、エンケラドゥスは「水中で生きる原始生命が存在できる環境がある」と言い切ることができます。タイタンよりもエンケラドゥスに存在するかもしれない生命の方が、想像しやすいのは確かです。

未来館では5階常設展示にあるVRシアターでも、地球外生命体をテーマとしたコンテンツを毎日上映しています。また、このブログ記事をごく簡単に要約したポスターも、フロアに掲出する予定です。未来館に足をお運びいただき、こちらもお楽しみいただければと思います。

コメントを残す