MERS。韓国では、今・・・

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アンニョンハセヨ~。

科学コミュニケーターのキムです。


中東呼吸器症候群(以下、MERS(マーズ))が韓国に上陸。

そして、感染が日に日に拡大しており、死者も出ているというニュースが連日大きく報道されています。


こちらは、6月11日までの韓国でのMERSの感染者数の推移を表したものです。

感染者数が日に日に増えていっていることが一目にわかると思います。

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早速、私は、韓国にいる友人の二人に連絡をしてみました。

二人の反応は意外と冷静沈着なものでした。

2人ともマスクはしていないそうです。

1人の住まいは感染者の出ていない都市なのですが、もう1人はソウル近郊の在住(日本でいうと、東京と神奈川くらいのイメージです)。

それでも、マスクをしていないのかと驚きましたが、ちょっと咳をしたりすると、まわりの人がハッとしたように見る様子ではあるようです。

マスクしなくて、大丈夫なのか??!!と外にいる人間としては、すごく心配になります。


ということで、今日は、以下の点について、書きたいと思います。

MERSとは、何?

なぜ、今、韓国で流行しているの?

韓国政府の対応は?

日本にくることはないのか?

                 

◆ MERSとは、何?

MERSは、2012年にサウジアラビアで初めて検出されたウイルス性の感染症です。

原因となるウイルスは、Middle East Respiratory Syndrome Coronavirus (MERSコロナウイルス)と呼ばれるものです。

2003年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS(サーズ))の原因となった病原体もコロナウイルスの仲間ですが、SARSとMERSは異なる病気で、ウイルスも仲間とは言え、違う種類のものです。

20150612_kim_02.jpg 出典:Wikipedia commons  

MERSコロナウイルスに感染してしまうと、発熱、咳、息切れ、下痢などの症状があらわれます。特に高齢の方や糖尿病、慢性肺疾患、免疫不全などの疾患のある人では重症化する傾向があります。

今回の韓国での流行が始まる前までは、死にいたる確率は約40%と高率でしたが、現在の韓国では感染者122人で、亡くなった方は9人となっています(6月11日発表)。治療中の方がまだ大勢いるために、最終的な死亡率は確定できませんが、40%ほど高率にはならないかもしれません。新しい感染症が出現したときには、最初は高率だった死亡率がだんだん下がっていくのが、よく見られる現象だからです。最初は重症化した患者さんだけが病院で治療を受けるので、死亡率も高くなります。(文末の編集管理人による注をご覧ください)

しかし、その感染症の存在そのものが知れわたると、症状の軽い人も病院に行って診断を受けたりします。もともと症状が軽いわけですから、快復する可能性も高く、死亡率は下がっていくわけです。(実際には、感染しても症状がごく軽いために病院に行かない人や症状もまったく出ない人もいるはずです。また、ウイルス自体が変異して、激しい症状を引き起こさなくなる可能性ももちろんあります)

とはいえ、命にかかわるような感染症であることは間違いなく、さらにMERSに対するワクチンや確立した治療法は現在はありません

中東地域に居住または渡航歴のある人、またはMERS患者との接触歴のある人において症例が継続的に報告されていますが、人がどのようにMERSに感染するのかも、まだはっきりわかっていません。

中東のヒトコブラクダからMERS患者と同じウイルスが分離されていることから、ヒトコブラクダがMERSウイルスの感染源動物の一つであるとされています。   

                                                                                                                                                                                  

◆なぜ、今、韓国で流行しているの?

この流行は、たった一人の68歳の男性から始まりました。

この男性は、4月18日から5月3までに、バーレーン→アラブ首長国連邦→バーレーン→サウジアラビア→バーレーン→カタールと中東各国を訪問しました。5月4日に帰国し、その6日後に発症しました。

4カ所の病院をまわりましたが、症状が治まらず、4つ目の病院でMERSの検査を行った結果、陽性だったため、隔離されました。

発症してから隔離されるまで10日間かかっています。

その間に、看護していた妻、同じ病室の患者、医療関係者、同じ階の別室にいた患者に次々に感染が広がってしまい、そして、2次感染者が別の病院に転院し、転院先でまた医療関係者などの3次感染者を出しました。

こうして病院を中心にMERSがどんどん拡大し始め、現時点で韓国国内感染者数は、100人を超えています。

20150612_kim_03.jpgのサムネイル画像


しかし、MERSコロナウイルスは、空気感染はせず、飛沫感染するとされていて、その感染力は、低いとされてきました。

専門家によると今回の感染拡大のスピードは、異常とも言えるそうです。

では、なぜ、今回は感染者が急速に増加してしまったのでしょうか?

その原因として、以下の可能性が指摘されています。

1.韓国国内でウイルスが変異した??

2.最初の感染者が多くのウイルスを持っていた??

3.密閉した病室内でウイルスが循環した??


<ウイルスが変異した可能性>

ウイルスが変異した可能性を検証するために、韓国ウイルス学会、アメリカ疾病管理予防センター、オランダ医科学研究センターなどの国内外の研究機関が協力して、患者から採取したウイルスの遺伝子配列を調査しました。

その結果、今回の韓国のウイルスは、2012年に採取し、保管していたMERSウイルスとは99.55%、最近のサウジアラビアのMERSウイルスとは99.82%一致していました。

この数字からすると、ウイルス変異の可能性は否定されたと考えてよいでしょう。


<最初の感染者が多くのウイルスを持っていた可能性>

科学誌Scienceに載った記事では、サウジアラビアでの過去の例を挙げ、今回の韓国の最初の患者は、症状が重い時期にも隔離措置がとられなかったことが原因ではないかと推測しています。

サウジアラビアの患者の研究では、症状が重くて集中治療室に入っている患者と集中治療室ではないMERS患者の呼気を比較しました。症状の重い集中治療が必要な患者の方が、呼気に含まれるウイルスの量が多かったのです

今回の韓国の最初の感染者は、診断されるまでに時間がかかり、症状が重くなるまで、つまり呼気にウイルスが多いときにも隔離されていなかったことが、感染が広まった原因ではないかと指摘しています。

しかし、その証拠を見つけることは難しく、まだはっきりとわかりません。

Scienceの記事はこちら


<密閉した病室内でのウイルスが循環した可能性>

最初の感染者がいた病室は、換気口やエアコンが作動してなく、密室に近い状態になっていました。

そして、唾液が飛ぶとは考えにくい高さにある病室のエアコンフィルターからウイルスが発見されています。

これらの事から密閉空間でウイルスが循環し、それが感染を広げた可能性が指摘されています。

しかし、こちらの可能性も証拠が不足しており、今のところ結論を下すことはできません。


◆ 韓国政府の対応は?

初期対応が不十分であったと朴槿恵大統領も認めたように、韓国の保健当局はMERSの感染力は低いとして、迅速な対応を怠ってしまいました。これが感染拡大を招いてしまった最大の原因だということは、言うまでもありません。

なぜ、迅速な対応がしなかったのか?

その理由の一つに、韓国では、MERSが「法定感染症」で指定されていなかったということが挙げられると思います。

「法定感染症」とは、国が責任を持って対策・管理が行うという指定のされた感染症ですが、MERSは、この法律で定められた感染症リストに入っていなかったのです。

日本でも同じような法律「感染症法」というものがあります。MERSに関しては、日本においても今年の1月に指定されたばかりなのです(制定は昨年11月、施行が1月)。

MERSは2012年に初めて診断された感染症で、新しいウイルスなので、その危険性について認知度がまだまだ低かったかもしれません。

韓国政府は、今回のMERSは、病院を中心に感染が拡大したことから、6月7日に感染者が発生または経由したすべての医療機関24ヶ所の名称と患者が滞在した期間を公表しました。

そして、公表された医療機関にその期間に訪れた人に対して、症状が出ても、医療機関を訪問せず、自宅で待機し、自治体のコールセンターやインターネットで申告するように要請しています。

申告した人については医療スタッフが自宅に訪問し、健康状態を確認、病院訪問履歴の確認などの問診を実施し、症状が疑われた場合には臨時隔離病院へ移送し、検査を実施します。

症状がない場合でも、病院を訪問した日から14日間は自宅で隔離措置を行います。

というのも、MERSの症状は感染してから2日から14日の間にあらわれ、症状があらわれる前には、感染力はないと言われているからです。

さらには、自宅待機を要請された感染者や感染の疑いのある人が旅行に出かけたり、ゴルフに行ったりする例が相次いで発覚したことから、韓国政府は、電話に2回以上出なかった場合に限り、携帯電話の全地球測位システム(GPS)を通じて追跡を行っています。


そして、今、韓国の市民の間では「MERS拡散MAP」というものが注目を浴びています。ニュースサイトでもよく取り上げられています。

政府の医療機関の名称公表とは別に、独自でMERS拡散MAPを作成し、情報を日々更新するウェブサイトを立ち上げた人がいます。

こちらは、6月11日00時時点でのMERS拡散MAPです。

20150612_kim_04.jpg出典:MERS MAP

主に首都圏を中心に広まっていることがわかります。

赤点は、感染者が出た地域、緑は、感染・発病しながらも完治した人がいる地域、グレーは、一次検査で陽性だったものの陰性とわかった人がいる地域です。

このMAPは、政府が公表した情報に加えて、全国の国民の情報から日々更新されていました(11日に更新終了となりました)。

どういうことかと言うと、このウェブサイトいつでも誰でも書き込みができるようになっていたのです

たとえば、「いつ、どこの病院にMERS感染者が発生した」とか、「いつ、どこの病院に移送された」とか、「いつ、どこの病院で検査した結果、陰性もしく陽性だった」とかの情報が書き込めたのです。

もちろん、うその証言やデマが心配ですよね。

その防止策として、書き込んだ人は、必ずメールアドレスと自分のfacebookのIDを入力し、書き込んだ人を追跡できるようにしているそうです。

一つの書き込みに対して何人ものの証言を集める機能も付いていて、5回以上うそであると告発されたものに関しては削除します。現在の韓国ではネットなどでデマを流した場合には罰せられることもあり、これもデマなどの一定の抑止力にはなっています。

このサイトは、6月3日に開設され、2日間で2回にわたりサーバーを増設し、これまでに500万人にのぼる人がアクセスしているそうです。韓国の人口は約5000万人ですから、いかに多いかがわかります。

このMAPは、韓国の全国から寄せられる書き込みからなりたっているので、信憑性には懸念があります。

投稿者にそのつもりはなくても、デマの拡散器になりかねない危険性があります。名指しされた病院では、大混乱が起きているかも知れません。

しかし、多くの市民が国からの公式発表だけでは安心できずに、このサイトにアクセスをしていることも事実です。

もし、感染症が全国に拡大していて、不安な日々を送っているとしたら、みなさんはどうしますか?

情報の共有が、みんなの安心につながるかも知れません。

みなさんはどのようにお考えでしょうか?


◆日本にくることはないのか?

日本海が間にあるとはいえ、お隣の国で流行している感染症に不安を感じている方も多いのではないでしょうか。

日本にMERSが入ってこないためには、やはり空港などの水際対策が大事ですね。

厚生労働省は、韓国での感染拡大を受け、検疫など水際対策を強化しています。

韓国に滞在した人に対して、38度以上の発熱や咳などの症状がある場合、空港で検査を行います。

症状がない場合は帰国してから2週間にわたって健康状態の報告が求められています。

WHOからのアドバイスでは、糖尿病、腎不全、慢性肺疾患、免疫不全の人は、MERSコロナウイルス感染で重篤化するリスクが高く、農場、家畜小屋のある地域を訪れる場合に動物に近づかないこと、特にラクダとの濃厚接触することを避けることを挙げています。

そして、何より大事なのは、熱や咳が出るのはMERSだけではないということです。

みなさん、日頃からバランスの良い食べ物と十分な睡眠をとって、さまざまな感染症に備えることが大事!!だと、私は思います。


参考


1.厚生労働省HP

http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/mers_qa.html

2.厚生労働省検疫所

http://www.forth.go.jp/topics/fragment1.html

編集管理人による注
当初、感染者122人と死者9人から死亡率は低いという表現をしていましたが、治療中の方がまだ多くいることから、この段落を一部、書き改めました。大変失礼いたしました。詳細は、コメント欄にある「ねこ」さまからのご指摘、およびそれに対する詫摩からの返信をご覧ください。

  

                 

            

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この記事への2件のフィードバック

MERSの死亡率についてですが完治が15人、死亡16人であれば致死率は50パーセントを超えている計算になるのではないでしょうか?
分母に治療中で結果のわからない患者数をいれるのは正しくないのではないでしょうか。。

ねこさま

このブログの管理人(編集)をしている詫摩と申します。
本日、火曜日は休館日につき、金は休みとなっているので代わりに対応させていただきました。

ご指摘をありがとうございます。

たしかに、治療中の方を分母に含めるのは、正しくないですね。
本文の一部を修正いたしました。
間違った情報を直すことができ、まことにありがとうございました。

6月16日の発表ですと新たな感染者4人と死者3人が追加され、これまでに韓国でMERSに感染したと確認された人は累計で死者19人を含む154人となりました。

また、先週までの(12日まで)韓国からの公式発表には、治療中の方々の容態に関する情報が含まれていなかったのですが、現在治療中の方が118人、うち16人は容態が不安定とされています。

最終的なMERSウイルスによる致死率は、治療中の人がいなくなるまでは数字が確定しないので、記事にあるように1割を切ったともいうのは明らかな誤りですが、治療中の118人の方の中にはこれから快復する方もいるはずで、現時点で5割としてしまうのも、また違うのではないかと思います。


誤りをご指摘いただいたことを、繰り返し、御礼申し上げます。
引き続き、よろしくお願いいたします。

詫摩雅子

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