2015年ノーベル生理学・医学賞を予想する③ ゲノムを編集するツールCRISPR/Cas9の開発

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こんにちは。科学コミュニケーターの鈴木啓子です。
ノーベル賞予想をするのは2年ぶり、一昨年はテレビやニコ生で、多くの方に科学の楽しさを伝えられたのが楽しかったのでまた舞い戻ってまいりました。

さて、本日わたしがお伝えするのは、ノーベル生理学・医学賞の予想、  第3弾です!

わたしが予想する先生方はこのおふたり!

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(左)ジェニファー・ダウドナ(Jennifer A. Doudna)博士

   (1964年生まれ) カリフォルニア大学バークレー校

(右)エマニュエル・シャルパンティエ(Emmanuelle Charpentier)博士

   (1968年生まれ) 感染症研究ヘルムホルツセンター

受賞テーマはゲノム編集ツールCRISPR/Cas9の開発です。

なぜこのおふたりを予想したのかを、これから3つの視点でお話していきます。

1. ゲノム編集とCRISPR/Cas9ってなに?
2. それは細菌の研究からはじまった
3. だからこの研究が受賞する、かも?

                                                                                            

1. ゲノム編集とCRISPR/Cas9ってなに?


わたしたちの体はタンパク質でつくられています。このタンパク質をつくる情報は遺伝子と呼ばれていて、ATGCの4文字で表されるDNAという物質でつくられています。
ゲノム編集はこのDNAを、切ったり、つないだり、新しいDNAを入れたりすることです。

彼女たちは、このゲノムを編集するためのツール「CRISPR/Cas9」(くりすぱー きゃすないん)の開発を行いました。
CRISPR/Cas9のはたらきを図付きで詳しく知りたい方は、以前のわたしのブログをお読み下さい(手前味噌で恐縮です...)。

彼女たちが開発する前までにも、ゲノム編集ツールはありました。Zingfinger nuclease(じんくふぃんがーぬくれあーぜ)やTALEN(たーれん)と呼ばれる方法です。しかし、彼女たちが開発したCRISPR/Cas9は、より簡単に、早く、安く、正確にゲノムを編集できちゃうツールなのです。

                                                                                            

2. それは細菌の研究からはじまった


どうやってツールを開発するに至ったのか? 
それは、ゲノムの研究とは一見、縁遠い細菌の研究からはじまりました。

ダウドナ氏とシャルパンティエ氏は、細菌がウイルスから身を守るしくみを研究していました。彼女らは2011年に開かれた科学会議で知り合い、このしくみを解明する共同研究を行うことにしたそうです。
このとき、細菌を研究している研究者たちが注目していたのがCRISPRです。

このCRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat)は、1987年に石野良純教授(現在は九州大学)らが大腸菌のDNAを調べているときに発見した、繰り返し配列(例:CGCGCGCGなどパターン化されたDNAがつづく配列)です。

この配列は、細菌が自分の細胞内に入りこんできたウイルスを攻撃するときに使われ、入ってきたウイルスを記憶しています。そうすることで、外敵から身を守ることが知られていました。でも、どんなしくみが働いているのか、詳しいことは明らかになっていませんでした。

シャルパンティエ氏は、細菌の一種である連鎖球菌では、入ってきたウイルスDNAをCas9(CRISPR関連、という意味)というタンパク質が切ってしまうらしいことに気づいていました。この気づきれをきっかけに、Cas9に注目し、どんな働きをしているのかを調べることにしたそうです。

それで、Cas9について調べていくうちに、わかった、細菌がウイルスから身を守るしくみがこちら!

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ウイルスDNAが細菌に侵入すると、そのDNAを細菌は自分のDNA(CRISPR配列)にウイルスDNAの一部を取り込み、そのウイルスを覚えます。                            

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                                                                  同じウイルスが細菌に再び侵入してきたときには、取りこんでおいたウイルスDNAをガイド役として使って、ウイルスDNAを今度はバラバラにだけするというしくみです。

しかも、一度取り込んだウイルスDNAをガイド役に使うことでするので、その部分を使うことで、正確にウイルスDNAをバラバラにできます。

ダウドナ氏とシャルパンティエ氏は、このガイド役の部分の配列を変えれば、を改良することで、ウイルスに限らず色々いろいろな生き物のDNAを操作できると考えました。
そこで、このガイド役のRNAを改良し、研究者が入れたい配列や、取り除きたい配列を操れるようにしたのが、CRISPR/Cas9です。

2012年の発表以来、簡単に、安く、早く、正確に遺伝子を操作できるので、研究者の間で爆発的に使われるようになりました。

                          

3.だからこの研究が受賞する、かも?

ある遺伝子の働きを知りたいときに、研究者がよく使うツールは遺伝子組換えマウスです。CRISPR/Cas9は、遺伝子組換えマウスをつくるのを、とても簡単にしました。今までは複雑な実験と、何匹ものマウスを犠牲にして初めてできていた遺伝子組換えマウスが、このツールを使うことで、マウス数匹で、安く、短時間でつくれるようになったのです。

また、遺伝病の治療に役立てる研究にも使われています。京都大学iPS細胞研究所の堀田秋津教授らは、筋ジストロフィーの患者さんからつくったiPS細胞にCRISPR/Cas9やTALENというゲノム編集ツールを使うことで原因遺伝子であるジストロフィンの遺伝子変異をし、正常な細胞にすることに成功しました。

このツールを使った治療が病院で気軽に受けられたり、治療薬が販売されたりするまでにはまだ時間はかかりますが、実験動物のつくりやすさや途中でつかわれる細胞の操作が簡単になったことで、従来よりも大幅な短縮が見こめることでしょう。

                                                                                            

その一方で、議論も引き起こされています。

たとえば、先に引用した以前のブログのように、次世代のこどもの遺伝子を編集することも可能になるかもしれません。その時にどう使うのか、というのはわたしたち自身がどのような未来を思い描くのかにつながるはずです。

ノーベル賞を受賞してきた技術は、どれも世界的に大きな影響を及ぼしてきました。

わたしは、今回はきっとこのツールをつくったおふたりが受賞するのではと予想します!

参考:日経サイエンス2015年3月号

皆さまも以下のサイトから予想に参加してください!
ノーベル賞を予想しよう!2015

2015年ノーベル賞を予想する
生理学・医学賞①免疫制御の分子の発見とがん治療への応用
生理学・医学賞②細胞の中のお掃除係
生理学・医学賞③ゲノムを編集するツールCRISPR/Cas9の開発
生理学・医学賞④  Coming Soon!

物理学賞①電気を通す絶縁体!?
物理学賞②あったぞ!太陽系外惑星
物理学賞③  Coming Soon!

化学賞①モバイル機器の原動力を開発した男たち
化学賞②小さな孔から大きな世界へ
化学賞③縁の下の力持ちDNAマイクロアレイ
化学賞そのほか Coming Soon!

今年もその瞬間をニコニコ生放送で中継します。
ノーベル賞発表の瞬間をみんなで迎えよう

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この記事への1件のフィードバック

ゲノム編集は、あと1~2年後くらいの気がする。少なくとも5年以内には硬いでしょう。この場合、第3番目の受賞者として中国人の名前が入るか否かに注目している。特許係争の動向とあわせて。

1985年のノーベル生理学・医学賞はコレステロールの基礎研究。
それから30年後の今年、スタチンの遠藤先生が受賞すると予想している。
あるいはエイズ治療薬で熊本大学の満屋先生がとるかもしれない。
NHKが、なぜか10月8日に彼の番組を放送するし(笑)。
なお、上記のCRISPR/Cas9でエイズ治療も深化した。

あと、がんの免疫療法の可能性もなくはないかと…。
今年のラスカー賞という点で。

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