2015年ノーベル化学賞を予想する番外編 化学賞の予想は難しい

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タイトルでいきなり弱音を吐いている、ノーベル化学賞担当リーダー松浦です。

主張したいことなので、もう一度言います。

ノーベル化学賞の予想は難しい。

え?ノーベル化学賞チームの田中伊藤の3人が予想していたじゃない?って?

ええ。しましたとも。この人たちに受賞してほしいなぁ、と本気で思っております。

じゃあ、なぜ弱音を吐いているのか、と。聞いてくださいます?

大きく言うと、2つの理由で化学賞の予想は難しいと私は思っています。

① 化学と呼ばれる学問は幅広い

広辞苑によると、「化学」とは「さまざまな物質の構造・性質および物質相互の反応を研究する、自然科学の一部門のこと」です。正直、範囲が広すぎて訳がわかりません。

松浦は工学部化学系出身ですが、大学時代の授業のタイトルを思い出しただけでも、有機化学、無機化学、分析化学、生化学、物理化学、化学工学、表面化学、電気化学・・・

...はぁ。(ため息)

生化学って、生理学・医学賞の範囲じゃん?とか、物理化学って物理と化学とどっちなのよ?とか思いませんか。

実際、化学賞を受賞するだろう!と思っていた方が、昨年の青色LED研究のお三方のように物理学賞を受賞されたりすることもあります。松浦は昨年ブログにはしませんでしたが、リサーチの時点では赤崎先生のお名前を挙げていましたし、田村は2013年に化学賞受賞候補の対象としていました。2012年の化学賞の受賞テーマである「Gタンパク質共役体」は、生理学・医学賞だって、何の違和感もない。今回の伊藤の予想も、生理学・医学賞じゃ?と言われればそんな気もしてきてしまう...むむむむむ。

② 化学賞には受賞分野の規則性がない

物理学賞のように、物性→宇宙→物性→素粒子→物性...となんとなく規則性があると言われていたりすれば、まだなんとなく「あたり」がつけられるのですけども、その規則性もまったくないのが化学賞。過去45年の化学賞受賞者のリストを作り、受賞内容を眺めてみたのですが、まーーったくわからない、というのが正直なところ。。。

というわけで、ノーベル化学賞受賞者の予想はとっても難しいのです。

しかし、今年もがんばって予想しました。色々調べましたとも。

せっかくなので、今日は化学賞チーム4人が調査した結果を全部ご紹介!

化学チームとして受賞するであろう3グループをイチオシ!するまでに、私たちがどうやって調査しているのか、も含めてご紹介したいと思います。

調査は基本的に自由。自分が詳しい分野を攻める人もいれば、ノーベル賞前哨戦と呼ばれる国際賞の受賞歴から調べる人もいれば...大切なのは、アルフレッド・ノーベルの遺言通り「人類のためにもっとも貢献し」ていると思われる人を探すことです。また、社会に役立ったその業績を最初に発見・発明した人であることも意識します。

そんな調査を経て、田中伊藤がご紹介した方々を選んだわけですが、今回の調査段階でリストアップされてきた人たちもダイジェストでお送りします。

☆リチャード・ラーナー(Richard Lerner)

「抗体触媒」を作る方法を開発したアメリカの化学者で76歳です。「抗体」とは生体内に侵入してきた物質に反応して作られるタンパク質のこと。一方、触媒とは化学反応の速度を速めたり遅らせたりする物質のことで、生体内の酵素も一種の触媒です。ラーナーは、この「抗体」が「酵素」と同じような働きをすることができることを1986年に初めて示しました。ヒトやマウスの体内には膨大な抗体のレパートリーが存在するので、この「抗体触媒」の作り方があれば、テーラーメイドな触媒分子の設計が可能となります。抗体触媒は新しい触媒として、有機合成化学だけでなく、生命工学や医学などへの応用も期待される存在というわけです。

アレクサンダー・パインス(Alexander Pines)

アメリカの化学者で70歳。これまで液体でしか測定できなかったNMR分光法を、固体でも測定できるようにしました。NMR分光法とは、一定の磁場をかけることで分子の構造やその運動状態などの性質を調べる方法のことです。液体では測定できなかった、高分子や固体状態の分子の挙動を調べることができるので、新材料合成の幅を広げました。

☆ハリー・グレイ(Harry Barkus Gray)

79歳のアメリカの化学者。酸化還元反応など、電子が移動する反応のことを電子移動反応と呼びます。田中が紹介したリチウムイオン電池など、電池の中で起きている反応はまさに電子移動反応です。その電子は数Å(※)程度の近距離しか移動しないと考えられていました。しかし、グレイは3nm(※)以上離れていても電子が移動する反応があることを発見しました。このことは、タンパク質内の電子移動の解明にも貢献しており、光合成などの理解を深める基本となりました。

※1Å(オングストローム)=1000万分の1cm、1nm(ナノメートル)=100万分の1cm

☆飯島澄男/遠藤守信

日本の化学者のお二人。飯島氏がカーボンナノチューブを発見、その構造を決定しました。遠藤氏はカーボンナノチューブの存在とその成長モデルを初めて示した後、量産技術を開拓しました。カーボンナノチューブは、炭素でできたとても細いチューブ。細くて強いので、半導体などに応用される新しい材料として期待されており、宇宙エレベーターを実現するのに必要な軽さと強さを持っていると言われていたりもします。一方で健康への懸念も指摘されている存在です。

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カーボンナノチューブの模型(未来館にアリマスヨ)

☆アレン・バード(Allen J. Bard)

アメリカの化学者で81歳。走査型電気化学顕微鏡(SECM)の開発をしました。顕微鏡は小さなものを見るための装置で様々な種類がありますが、このSECMは観察する化学物質に電圧をかけて、その際に発生した電流を測定することができるので、細胞の呼吸量なども測定できます。

☆鄧 青雲(Ching Wan Tang)/城戸淳二

有機発光ダイオード、所謂「有機EL」と呼ばれる発光材料を開発したお二人。この有機ELは発光効率も高く、また形状がフレキシブルであることから、次世代超薄型ディスプレイとして期待されています。未来館の今のGeo-Cosmosは、有機ELパネルでできています。

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初期はLED、今は有機EL...

☆ジョージ・ホワイトサイズ(George M. Whitesides)

アメリカの化学者で業績は多岐に渡ります。最近、特に有機分子の自己組織化法によるナノ材料開発で大きな貢献をしています。自己組織化とは、ある分子や原子が自ら集合・整列し、求める構造を自然に形成することをいいます。有機分子の自己組織化法は、有機分子と金属など異種物質で構成される材料の生成や、有機分子による集積回路の製造などへの応用が期待されています。

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いかがでしょう。駆け足でお送りしてみました。

こんな感じで、チームメンバーがそれぞれの「推し研究者」を持ち寄り、あーでもないこーでもない、と議論を重ね、最終的にこの人たち!と決めたのが、John B. Goodenough/水島公一/吉野彰Edith M. FlanigenStephen P. A. Fodor/Patrick O. Brown、の3グループだったわけです。

最初にも書いたとおり、化学は範囲が広く、傾向もまったくわかりません。ダイジェストを見ていただいてもわかるとおり、メンバーの予想も(毎年恒例なのですが)混迷を極めておりました。

さてさて、今年こそ予想が当たるのか?

それとも、今年もやっぱり難しかった!となるのか。。。

ノーベル化学賞の発表は10月7日(水)18時45分(日本時間)。

発表前後は、ニコニコ生放送で私たちがバタバタする様子を放送、その日の夜には受賞内容をブログでお知らせ。次の日にはフロアのミニトークで受賞内容をみなさんにご紹介していきます。

お楽しみに!

皆さまも以下のサイトから予想に参加してください!
ノーベル賞を予想しよう!2015

2015年ノーベル賞を予想する
生理学・医学賞①免疫制御の分子の発見とがん治療への応用
生理学・医学賞②細胞の中のお掃除係
生理学・医学賞③ゲノムを編集するツールCRISPR/Cas9の開発
生理学・医学賞④輸血の肝炎問題を解決に導く  

物理学賞①電気を通す絶縁体!?
物理学賞②あったぞ!太陽系外惑星
物理学賞③  宇宙には膨大な秘密がある

化学賞①モバイル機器の原動力を開発した男たち
化学賞②小さな孔から大きな世界へ
化学賞③縁の下の力持ちDNAマイクロアレイ
化学賞 番外編 この記事です。

今年もその瞬間をニコニコ生放送で中継します。
ノーベル賞発表の瞬間をみんなで迎えよう

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