未来の動物園・水族館②〜動物園や水族館の役割をみんなで考える〜

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みなさん、こんにちは!!動物園から未来館へと転職してきた男、ぶっちーです!

動物園では、主に両生類や爬虫類の飼育展示と保全、普及活動を行っていました。
OHBUCHI20150917-02.JPGイボイモリEchinotriton andersoniの観察をしているところ。

OHBUCHI20150917-01.jpgイボイモリは、日本の固有種で絶滅危惧種です。天然記念物にも指定されているため、許可なく捕獲・飼育はできません。



9月から同僚のにいやんこと、科学コミュニケーター新山と動物園や水族館の未来について考えるブログを始めました。第一回はこちら 。イルカ問題の経緯について書かせていただいきました。


さて、8月9月はイルカ漁が解禁されたり、マレーグマが死亡した北海道の動物園に改善勧告が下ったりと、動物園水族館業界に関連することがたくさんありました。そんな中、本日2回目となるブログでは動物園の意義について考えてみたいと思います。




そのために私と、イルカ好きで専門は医療生命薬学の新山、そして元・千葉市動物公園職員で現在は大学で動物園動物学研究室をひらいておられる並木美砂子 教授の3人で議論をしました。

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テーマは、

1:イルカ問題について。なぜイルカを捕獲してはいけないのか。

2:動物園や水族館の役割とは?

のふたつです。

1については初回のブログに詳細を載せましたが、簡単におさらいします。

1の捕獲禁止理由は、

「苦痛を与える方法で捕獲した動物を展示すべきではない」というWAZA倫理規定の苦痛を与える方法に、追い込み漁が該当するというものでした。

しかしながら、WAZAは追い込み漁そのものや追い込み漁で獲ったイルカを食すこと、つまり我々日本人のイルカ食文化を否定しているわけではないことは忘れてはいけません。

食べるために行う捕獲方法と、捕獲後の心身の健康を考慮した捕獲方法というのは異なって然るべきなのかもしれません。特にイルカの場合は高度なコミュニケーションに支えられた社会構造を持ち、記憶能力も高い動物です。ですから、社会構造の破壊、つまり仲間や家族を殺された記憶は飼育後も残るのかもしれません。

また、実際に捕獲されたイルカの記憶の有無によらず、「そのような歴史(体験)を背負わされたイルカを展示に用いて、野生動物の普及活動を行うことはナンセンス」といった趣旨のご意見が並木教授からもあり、とても印象に残っています。

では、そもそも「2:動物園や水族館の役割」とは何でしょうか?次に示すのは、石田戢『日本の動物園』(2010年)の図をもとに私が作成し、並木教授、新山とともに完成させたものです。

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これに対して、私自身の飼育展示係の体験から感じた現状や課題はこうです。

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点線と灰色の文字に表現した部分は、まだまだ達成されているとは言い難い部分です。ですが、現場を中心に何とかしたいという想いは強く感じられる部分でもあります。特に、保全や研究については、私のいた動物園では外部の研究者や学生を受け入れ、動物園内外での研究を始めておりました。今後、これらが充実してくれば、そこから得られる様々な野生動物や自然界のしくみ、つまり生物多様性の科学的知見も得られようになることでしょう。例えば、アクアトト岐阜で、飼育下のメコンオオナマズの絶食期間が、実は自然界で餌となる藻類が生えない時期と重なる可能性を明らかにしました。これは、飼育してみたからこそ、わかった知見です。この研究は、2012年度の日本動物学会 論文賞を受賞しています。

娯楽については、人々の「生きた動物を見たい」などの思いは動物園に来れば満たされるという意味合いでは達成されていると思います。しかし、「触りたい」とか「イルカなどのショーを見たい」「食事風景を見たい」など、人間の欲望のままに助長しすぎないよう、動物福祉(Animal Welfare)の考え方が必要になってきます。つまり、動物の心身の健康に配慮しているかどうかです。実は、追い込み漁がNGな理由もここにありますが、詳細は次回以降に書きたいと思います。

いずれにせよ、全体的に役割が達成できていない理由として、以下の2つが大きな課題となっており、「まだまだ」の部分の改善が加速していないのではないかと私は思っています。




【運営システムに課題あり?】

日本の動物園は県立や市立、町立など地方自治体の1部署で運営されている場合がほとんど。その場合、動物そのものも帳簿上は基本的には備品と同じ扱いになってしまいます。また、飼育担当職員も事務系職員と変わらず、人事異動も激しく、動物の担当替えもよくあります。さらには、動物園外との、場合によっては動物飼育とは無関係の部署との異動もあり得ます。管理職クラスもその例外ではありません。また、担当する動物の引継ぎ期間も非常に短いです。1週間程度で引き継がねばなりません。

飼育スタッフが「動物の飼育管理」「教育普及」「保全」など複数種の業務を一手に担っている園がほとんどです。欧米の動物園では、博士号を持ったキュレーターの下に、飼育専門スタッフ(キーパー)、教育普及スタッフがおり、保全は別部署になっている例も少なからずあります(サンディエゴ動物園など)。


【予算・交渉など、業務として地方自治体の範疇を超えている?】

動物園の役割には野生動物の導入・維持、さらには国内外の希少野生動物の繁殖と保全活動などがあり、いずれも多大な予算が必要です。国内の公営動物園のほとんどが入園料でまかないきれない分を税金で補填しています。特に、海外の希少野生動物の保全ともなるとさらなる予算に加えて、海外の動物園との連携、あるいは原産国の研究者や国立機関との交渉など、そもそも地方自治体の判断を超えた日本と諸外国との交渉の場面が多々出てきます。国立の動物園であれば、外国との連携を(少なくとも判断の面では)スムーズに行えるようになると思いますが、日本には国立の動物園はまだありません。




上に書いたような課題はありますが、日本の動物園のほとんどは税金で成り立っているのですから、上記のような事案は、納税者でもあるみなさんの声こそが大きな原動力となってよりよいものへと変わっていくものだと私個人は思っています。



さらに私は、「動物園水族館来園者」が得られるものは、以下のように年齢層や職種などによってさまざまな可能性が含まれていると思っています。また、来園者は個人ではなく、企業など組織を指す場合もあるでしょう。

【0歳から小学生くらいまで】

◆動物との間接・直接的な触れ合いによるさまざまな刺激

◆動物の気持ちになってみるという意味での「擬人化」がもたらす、他者理解の経験




【幅広い年齢層】

◆動物による癒し効果

◆視覚、触覚で楽しむ動物娯楽

◆デートスポット・家族サービスほか来園者同士のコミュニケーションの場

◆生物多様性の生涯教育




職種別に想定されるもの】

◆写生、デザインインスピレーション(デザイン業界など)

◆研究(研究者、学生など)

◆課外授業(学校に限らず広く教育業界など)



今回、動物園水族館の目指すべき役割と現状について書かせていただきましたが、みなさんは、次のことについて、どのように感じ・思い・考えていますか?

・これまで持っていた動物園・水族館のイメージや役割

・大渕、新山のブログを読んで頂いて変わった動物園・水族館のイメージや理解

・動物園や水族館に行く理由、行かない理由

・あるべき姿の動物園・水族館

その他にも、動物園や水族館、イルカを含む野生動物の展示や入手方法に関して意見や感想がございましたら、コメントいただけるとにいやん&ぶっちーはうれしいです。またいただいた意見は、未来館の科学コミュニケーション活動に活かすとともに、並木教授ほか関連分野の方々とシェアしてゆきたいと考えております。

ぜひ、みなさんからのご意見・ご感想、お待ちしております。






【追記】

テレビ番組「どうぶつ奇想天外!」でおなじみだった故・千石正一さん(動物学者)が、私のいた動物園の出版物に「動物園の動物は自然界からの親善大使」と寄稿してくださり、その親善大使の通訳・広報になりたいと、伝えるプロ・科学コミュニケーターになりました。私の夢はいつか科学コミュニケーターのいる動物園を創ることです!その参考にも、みなさんのご意見をいただきたいです。

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写真は、動物園勤務時代に、オオサンショウウオ展示前でその生態や特徴について解説をしているところ。iPadを動物園内でいち早く導入して、体の細かな構造も拡大してご覧いただけるようにしてみました。




【謝辞】

初回に引き続き、本ブログ執筆にあたり、帝京科学大学 アニマルサイエンス学科 動物園動物学研究室の並木美砂子教授にたくさんのご助言・ご意見をいただきました。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。

※コメントをする際は「ブログへのコメント投稿について」をご覧ください

※「名前」は、ハンドルネームでも構いません

この記事への10件のフィードバック

こんにちは。
非常に興味深い話です。
が、正直近未来での状況変化は難しいと思っています。
が!!
①動物園、水族館を許認可制にする。
②許可必須項目に「博物館」を設ける⇒必然的に教育委員会部署に移管
③展示(飼育繁殖)、保全・保護研究、教育の分野に専門スタッフを配置する
ここまでは、動物園・水族館位置づけの問題解消

①小学校の総合学習・理科、中学校、高校での生物の時間で博物館を活用することの完全義務化
ちょっと過激ですが、ちょっとずつ、ちょっとずつ、前進できれば…と思っています。
中山間地域の小学校が地元の自然や文化を保全するための試みに協力することも、一つの方法ではないかと思います。

科学コミュニケーターのいる動物園、それが「フツー」になる日がきっとくるって思います!そして、それは「おわり」ではなく「はじまり」です。科学に愛を。そして愛にも科学を。そのコネクションを大事にしていきたいですねー。フレーフレー、ぶっちー。

ぶっちーさん、こんにちは。
動物園職員の方は、それぞれに世話をする動物が決まっていて、
専門職として働いているのだと思っていたので、驚きです。
頭の良い動物だと、飼育員さんは担当動物との信頼関係を築くだけでもかなり苦労されるとの話を聞いたことがあります。
広範囲の部署を渡り歩くのは人的資源の問題もあるのだとは思いますが、
それぞれの専門職に徹した方が結局は動物にもストレスを与えないし、
仕事も効率的で経済的に進むでは?と思います。

科学コミュニケーターさんや専門の研究者から生物の進化や生態、
さらに地球外生命体に発展したサイエンストークが聴ける動物園・水族館。
そんなところって、動物の曲芸よりとっても面白そうだし、飽きなさそう!
日本科学未来館の隣に出来たらいいなぁ...

未来の動物園について思うこと2つ。

ひとつはもっと身の回りの生き物に対して敏感になる。動物園にいかなきゃ動物が見れないなんてことはないんだから。身の回りの動物にもっと面白さを感じるようになれば、動物園の見方も変わると思う。

二つ目はやっぱり野生下の動物を見せるべき。なんで映像じゃなくて生身の動物を見たいのかっていったら、やっぱり情報量なんでしょうね。自然界に仕掛けたカメラから臭いや息づかい、予想外の行動など、本物と見分けがつかないリアルな立体映像が送られてくるならそれでもいいような気がします。

そして動物園は「見せ物」の場所ではなく、種の保全研究施設として機能すればいいなあと思います。

もしもしカメ・レオンさま

ご意見をありがとうございます。現在、国内では日本モンキーセンターのみが「登録博物館」の動物園であって、それ以外は博物館相当施設などですね。登録博物館になることで、教育委員会に移管されるメリットは大きいかもしれません。博物館ではないが、教育委員会管轄の姫路市立水族館などは展示ほか教育普及に力を入れていてとても好きです。
しかし、教育委員会直下におくために博物館にするというのは少し抵抗がございます。博物館も博物館でクリアしなければならない問題が山積しているからです。ここでは長くなるので記しませんが、近年、新規国立自然史博物館を設立しようという運動が活発になってきておりますので、「国立自然史博物館」で検索してきますとたくさん記事がかかってきます。

教育委員会が最適かどうかはともかく、シンクタンクを置くというのはとてもよいと思います。ありがとうございます。

並木先生

ありがとうございます!!自然界からの親善大使たる動物園動物園の通訳になれるよう邁進いたします。今後とも、おご指導ご鞭撻、お力添え、どうぞよろしくお願いいたします。

Yutakaさま

コメントをありがとうございます。私は上野動物園にいましたが、上野ではゾウについてだけは担当者の異動がほとんどありませんでした。それは、ゾウが死亡事故にもつながる大型獣であり、またゾウも担当者を覚え、人によって態度を変えるからです。また、私のいた両生爬虫類係については「行きたくない」希望を出せる唯一の部署でした。どうしても、爬虫類や両生類を生理的に受け付けない飼育員もいるのです。しかしながら、それ以外の動物種については異動は激しかったです。また、事務系出身の職員がいきなりクマの担当になったことさえございました。さらには、上野動物園・多摩動物公園・井の頭自然文化園・葛西臨海水族園の都立4園間での異動もよくあるくらいです。
私も異動の激しさにYutakaさんと同じ疑問抱き、上司に質問したこともありましたが、回答としては、「業者等との癒着を防ぐため、都職員は動物園にかかわらず定期的に異動を行う」と言われました。そういうお役所的考えのもとに運営されているのが、「動物園」なのです。

科学コミュニケーターがいる動物園に賛同いただき、ありがとうございます!!!とても励みになります。未来館そばに出来たら、私も助かります笑。新しい動物園構想にむけて邁進いたします。

かえるのかーちゃんさま

ひとつめのご意見はきっと「センス・オブ・ワンダーを磨け」ということだと思うのですが、大賛成です。それを磨く場のひとつとして、動物園が位置づけられるようになるとよいかもしれません。ただ、動物園動物を見に来る方々というのは、ライオンだったりキリンだったりゾウだったり、いわゆるスター動物を見に来たいのであって、そこら辺にいるアリやダンゴムシやハトととは違うのだと思います。そこのギャップは埋めてゆきたいです。ライオンを見てすごい!おもしろい!と感じるのと同じくらい、野良猫を観察してもおもしろい!と思えるようなセンスを磨ける場としての動物園があるといいですよね!

ふたつめですが、「動物をみる」というのは、実は視覚以外の五感全部を使って「観る」だと思うんです。なので、生きている動物じゃないと感じられないモノってたくさんあるはず。それこそが、まさに五感すべてにくる情報ですね。自然界に仕掛けたカメラというのが、自分で仕掛けたものであるならば、かえるさんの意見に賛成です。カメラを最適位置に仕掛けるのにも五感を使うからです。他人が撮った映像だと、先の五感情報量がガクッと減ります。できれば、フィールドミュージアムな動物園を作って、来園者が五感で考えてカメラを仕掛けるとセンス・オブ・ワンダーがすごく磨かれるかもしれません。

そして、おっしゃる通り、そろそろ名実ともに動物園は「見世物小屋」の範疇を脱却すべきと思います。種の保存施設としては試行錯誤で動きつつありますが、ただ、野生動物をストックしておくといった施設にはならないよう願っております。
それは、長期ないし累代飼育によって、ゆるやかに野生動物を家畜へと変質させる行為だからです。
自然環境を含む生物多様性の理解のための、種の保存研究施設になることを望んでおります。

失礼いたします。
興味を持って拝見させていただきました。
賛同することもりだくさんです。ぜひ今後も建設的な意見を期待しております。

当方は生物の展示に関わっている者です。
先日お客さんから展示手法について耳の痛い投書がありました。当方は以前から時代錯誤と問題点を指摘し、上層部に改善を求めていましたが、黙殺され続けていました。

当該の投書があり、ふたたび追及すると、またもや逃げ腰というか「サービス低下につながる」「以前からあったコーナーだからなくせない」などと今までと同じような言い訳を繰り返し、埒が開かない状況が続いています。


見世物小屋的な発想で、「お客さんが喜ぶから」「来館者増が第一だから」という管理サイドの思考停止がひどいです。他園・館で改善されているケースを見てくださいと言っても、生返事で改善が見込める様子はありません。

来場者の意識を変える取り組みと平行して、管理サイドの意識変革も重要です。園・館内部において歪んだ状況を全体会議等で議論し、如何に管理サイドをうまく巻き込んで改革しなければと感じます。

しかし、内部との対立構造が解消されるのは、本当に難しいとため息がでる日々です。

Fさま

貴重な現場でのご体験かつ、おっしゃりづらいであろう事例をあげていただき恐れ入ります。ありがとうございます。

Fさまのように問題意識を持ち、勇気を持って行動を起こしておられても、組織の風潮や雰囲気につぶされてしまうというのはとても残念に思います。

「見世物小屋的発想」から、動物園業界はいい加減に脱却せねばならないと私は思っています。実態としては見世物小屋なのに、野生動物の保護と言っているのはとても滑稽な気がします。「お客様が喜ぶ動物の見せ方」を追求しすぎたとき、野生動物は野生動物ではなくなるからです。

それでなくても、野生動物を飼う・累代飼育してゆくということは、ゆるやかに形態や行動を家畜化していっていることに気づいていない動物園が多いです。その自覚があって、それを逆手にとって教育普及に活かせているのならまだよいのですが。動物園の飼育職は畜産系出身の方が多く、生態学・進化学的発想のある方が少ないので無理もないのかもしれません。

見世物小屋的な需要があるのであれば、元より家畜動物で事足りるのはないだろうか?と思ってしまいます。その方が入手も維持も、来園者と接触させることも容易です。また、動物側のストレスも少ないです。

Fさまのおっしゃるとおり、管理サイドと現場間の意思統一は非常に重要であること、そしてそれがこの業界では特に難しいことに強い共感を観世時に得られません。せめてたたき上げが管理サイドにいたり、ないしは野生動物の専門家が運営方針にコミット出来る形でシンクタンクとして存在できるとよいなと思っております。

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