梶田先生の監修展示で分かる! ノーベル物理学賞2015 スーパーカミオカンデとニュートリノ

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 目に見えない素粒子の世界も、
  未来館の展示を見れば
   イメージが湧くかもしれません。

2015年のノーベル物理学賞のテーマは、「ニュートリノに質量があることを示す、ニュートリノ振動の発見」。日本人が選ばれたのは嬉しいけれど、肝心の研究内容が、ちょっとこれ、難しいですよね。

そんな時は、まず、イメージを膨らませること。実はここ、未来館には、今回の研究に大きく関わった「スーパーカミオカンデ」の展示があるのです。

20151009_tani18.jpg梶田先生のノーベル賞受賞を受けてにぎわうスーパーカミオカンデの展示

しかも監修者は、ノーベル賞を受賞した梶田隆章先生(東京大学)ご本人。せっかくですので、この展示を使って、ノーベル賞の内容をご説明いたします。未来館の展示を見に来た気分を、少しでも味わってもらえたらと思います。



もくじ

・最小スケールの「世界」をさぐりに

・ニュートリノは3兄弟の"幽霊"

"幽霊"を捕まえるスーパーカミオカンデ

・見えない光をイメージしよう

・梶田先生が"兄弟"を見分けたら...

・まだ誰も知らない世界へ

【最小スケールの「世界」をさぐりに】

スーパーカミオカンデの展示は、日本科学未来館(東京・お台場)の5階常設展「世界をさぐる」の一角にあります。

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常設展5階「世界をさぐる」へ




「世界をさぐる」の「世界」というのは、私たちの宇宙を含む「すべて」。ミクロの世界から、生命、物質、地球、そして宇宙までさまざまなスケールで、科学的な理解を深めていくエリアです。梶田先生らが研究している「ニュートリノ」は、最小スケールの「世界」として紹介しています。



【ニュートリノは3兄弟の"幽霊"

ニュートリノは、これ以上分けることができない基本粒子である「素粒子」のひとつです。

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物質→原子→原子核・・・と分けていくと、
これ以上分けられない「素粒子」に。ニュートリノもこの仲間

そしてニュートリノには、「電子型」「ミュー型」「タウ型」の3種類があります。

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物質を構成する素粒子の仲間であるニュートリノは3種あります

ニュートリノは遠い宇宙から飛んできたり、太陽で生まれたり、大気で発生したり。そこら中に大量にありますが、見えません。そして、「いろいろなものをスルスルと通り抜けてしまう」という性質があります。たとえば、1秒間に100兆個ものニュートリノが、人の身体を突き抜けています。

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宇宙や大気で発生するニュートリノ

これは、電気を帯びていないため。ほかの粒子とくっついて物質をつくることはなく、自由に空間を飛び交っているのです。電気的にニュートラル(中性)なことは、名前の由来にもなっています。

ニュートリノは小さくて、見えなくて、捕まえたくてもすり抜ける。「電子型」「ミュー型」「タウ型」3兄弟の"幽霊"のような素粒子なのです。





"幽霊"を捕まえるスーパーカミオカンデ】

そんな"幽霊"たちを観測する施設が、スーパーカミオカンデです。さぁ、本物の建設でも主導的な役割を果たした、梶田先生の監修展示が見えてきました。

まずはこちら。ゆるやかな曲面の壁に、丸い大きな電球のようなものが埋め込まれています。

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スーパーカミオカンデの一部を実物大で再現した展示

スーパーカミオカンデの一部を実物大で再現した、大型の展示です。本物は直径と高さがいずれも約40mの円柱型。想像してみてください。展示のこの曲面がこのままぐるりと円を描き、高さも10階建てのビルくらいあると思うと、かなりの大型施設です。

全体像は、こんな感じ。

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スーパーカミオカンデの紙の模型。補助展示として置いています

円柱型の施設が山の地下にあるのは、邪魔なノイズになる粒子が入ってくるのを防ぐため。ニュートリノのなんでもすり抜ける性質を利用し、ニュートリノしか入ってこれない地中深くに作ったのです。

そして、すり抜けるニュートリノを何とか"捕まえる"ために。本物の施設の中は、純水で満たされています。大量のニュートリノがすり抜けていきますが、施設が大きいため、ごくごくまれに(1日に15回くらい)、通過中のニュートリノが水の粒子とぶつかります。

その時にほんの一瞬だけ、極めて弱い光(もちろん目には見えません)が放たれます。このわずかな光を観測するのが、光電子増倍管です。

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弱い光をとらえる光電子増倍管

壁、床、天井の一面に埋め込まれ、合計1万個以上。丸い電球のようなものの正体は、超高感度の光のセンサーだったのです。

スーパーカミオカンデは、光センサーで埋め尽くされた円柱形の"プール"。"幽霊"を捕まえるための、巨大な地下施設です。





【見えない光をイメージしよう】

では、10分の1サイズの模型で、スーパーカミオカンデの中からニュートリノの観測をイメージしてみましょう。本来ならば水で満たされてて立ち入れない施設の中で、本来ならば人の目には見えない光を見るのです。

真っ暗な円柱形の空間は、10分の1サイズの光電子増倍管に囲まれています。しばらくすると、円が広がっていくように、光電子増倍管が青く光りました。

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ニュートリノと水の反応で広がる光のイメージ。
実際の光はずっと弱く、一瞬なので、目には見えません

これは、ニュートリノと水の反応で放たれた光が広がり、光電子増倍管が反応したイメージ。しばらく見ていると、光の広がり方にはいくつかの種類があるようです。





【梶田先生が"兄弟"を見分けたら...】

実際の観測では、この光の広がり方の違いから、ニュートリノの種類や飛んできた方向などを分析しています。

ここで、モニター映像の展示から、「電子型」と「ミュー型」のニュートリノの観測データを見比べてみましょう。

円柱型のスーパーカミオカンデの展開図で示されます。点の一つ一つが光電子増倍管、つまり光のセンサーを表し、反応したタイミングで色分けしています。

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スーパーカミオカンデによるニュートリノの観測データ

電子型(左)に比べ、ミュー型はリングが太くハッキリしているのが分かるでしょうか。よく似た"兄弟"の違いは、こうして見分けるのです。

梶田先生たちは膨大な観測データから、地球の大気で発生するニュートリノの「電子型」と「ミュー型」の割合が、理論的な予想と異なることを突き止めました。これが、今回のノーベル物理学賞につながった功績です。

もう少し詳しく(ただしざっくり)説明すると、大気ニュートリノは「ミュー型」「ミュー型」「電子型」の3個がセットで発生すると分かっていました。とすれば、地上でも「ミュー型」対「電子型」が2対1で観測されるはずなのですが、実際は「ミュー型」が少なかったのです。特に地球の裏側から届いたニュートリノに「ミュー型」が少なく、長い距離を進む間に"変身"していると考えられたのです。(10月13日追記)

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梶田先生による大気ニュートリノの観測で、
特に地球の裏側から届いたうちの「ミュー型」の割合が、
発生時よりも小さくなっていることが分かりました。

そして、同時受賞のA.マクドナルド先生の観測や、その後の実験結果なども合わせ、3種類のニュートリノは飛行中に別の種類に変身することが分かりました。これが、「ニュートリノ振動」。それまで「ゼロ」とされていたニュートリノの質量があることを示した、大発見だったのです。

(詳しいサイエンスは、こちらの解説記事をご覧ください)
2015年ノーベル物理学賞発表!「ニュートリノ振動の発見」で梶田隆章博士ら





【まだ誰も知らない世界へ】

あちらこちらを飛び交っているニュートリノに、質量があると分かった今。最小スケールの素粒子の世界から、宇宙全体までのすべてについての、新たな理論を組み立てる必要が生まれました。「ニュートリノには質量がない」という前提で組み立てられた理論では、世界のあちらこちらに矛盾が生じてしまうのです。



物理学は、この世界の自然法則を説明する学問。



では、こうして理論をひとつずつ積み重ねていった先には、何があるのでしょうか?

それは、宇宙の誕生についてかもしれないし、

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私たちが今ここに存在することができる理由についてかもしれないし、

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また新たな、そしてやっかいな謎を発見することになるのかもしれません。

20151009_tani15.jpg最初に紹介した素粒子には、その「反粒子」があり、
さらに「超対称粒子」の存在も予想されています



純粋科学。私たちの生活に、すぐに役立てられる研究ではないかもしれません。でも、私たちの世界をもっと知ってみたくありませんか? ワクワクしませんか?

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展示を監修していただいた際の、
梶田先生のインタビュー映像もご覧いただけます

梶田先生はノーベル賞受賞直後の記者会見で、「私は宇宙や自然がどうなっているのか、という好奇心でやってきた。若い人たちにも、好奇心を大切にして進んでほしい」とおっしゃっていました。

この記事が、そして未来館での私たちの活動が、その一助になればと思っています。

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