大量絶滅の謎を突き止めろ!チチュルブクレーターの海洋掘削!

このエントリーをはてなブックマークに追加

 恐竜を含む地球上の75%の生物種が絶滅した白亜紀末(約6600万年前)の大量絶滅。30年に及ぶ科学論争を経て、この絶滅は巨大隕石の衝突によるものだとする「巨大隕石衝突説」が多くの支持を得るようになりました。しかし、隕石がどのような環境変動をもたらし、どのように生物が絶滅したのかはまだ謎が残っており、科学者は今も挑み続けています。4月5日からメキシコ・ユカタン半島沖で行なわれている海洋掘削プロジェクトは、まさにその最前線。科学者は何を解き明かそうとしているのでしょうか?

20160527tsuboi_01.jpgJOIDES RESOLUTION Websiteより (http://joidesresolution.org/node/4536)

こんにちは!

この4月に未来館に来ました、坪井 淳子(つぼい じゅんこ)と申します。
大学では「どういう力をかけたら、どういう岩の割れ目ができるのだろう...?」と、地震を引き起こす断層のでき方について研究していました。構造地質学という分野です。
そんな私が今とても注目している研究プロジェクトがあります。

それは...、
メキシコ・ユカタン半島にあるチチュルブクレーターの海洋掘削プロジェクトです!

 チチュルブクレーターは、6600万年前の巨大隕石の衝突によって作られました。「巨大隕石の衝突」と聞いてピンと来た方もいらっしゃるかもしれません。この隕石衝突は、恐竜を含む多くの生物種を絶滅させた白亜紀末の大事変としてよく知られています。

20160527tsuboi_02.jpg

(左)今回の海洋掘削プロジェクトのロゴマーク、(右)掘削地点
ECORD Websiteより (http://www.eso.ecord.org/expeditions/364/364.php)

 では、大量絶滅の原因が隕石だとわかっているのに、なぜ今、この海洋掘削プロジェクトを行うのでしょうか?

隕石衝突による環境変動の詳細はまだわかっていない

 隕石が衝突した場所の周辺のみならず、全球規模で大量絶滅が起こったのは、全球規模で激しく環境が変動したからです。衝突により巻き上がった塵が地球を覆うと、太陽光が届かなくなります。光合成を行う植物が枯れ、食べものを失った草食動物が減少し、その草食動物を食べる肉食動物が減少し...というように食物連鎖が破壊します。
 しかし、実際に起きた環境変動が、大量絶滅を引き起こすのに十分な規模だったのかはわかっていません。「隕石衝突によって、どれくらいの規模の環境変動が、どれくらいの期間続いたのか」を知らねばならないのです。そのために、衝突時のエネルギーを見積もる必要があります。遠い過去の事変ですが、手がかりはあります。衝突時にできたクレーターです。「クレーターがどう作られたのかを解き明かすこと」。これが、今回の海洋掘削プロジェクトの大きな目標の一つです。

謎を解き明かす鍵となるチチュルブクレーター

 隕石衝突の規模が違うと、クレーターの作られ方が違うことがわかっています。直径200km近いチチュルブクレーターと同規模の大型クレーターとして、カナダのサドベリー隕石孔と南アフリカのフレデフォート・ドームがあります。しかし、どちらも陸上にあり、風雨による浸食で、構造が削られたり、変形したりしています。一方で、チチュルブクレーターの一部は海にかかっています。隕石衝突以降に堆積した層に覆われており、あまり浸食されていません。チチュルブクレーターそのものが、チチュルブクレーターの形成過程を明らかにする調査が行える、地球上で唯一の場所なのです。
 「大量絶滅の謎を解き明かしたい!」
 科学者たちの熱い願いを実現すべく、2016年4月5日からこの海洋掘削プロジェクトが始まりました!

いざ、ユカタン半島沖で掘削!

 プロジェクトは、国際深海科学掘削計画(IODP)という国際的な科学研究協力の枠組みの中で実施されています。2006年頃から提案され、今回やっと実施に漕ぎ着けました。海洋底の掘削に必要な巨大な掘削船や多くの研究者、巨額の予算が、IODPによる厳密な審査によって認められたのです。
 今回の掘削では、ヨーロッパの特定任務掘削船Lifeboat Myrtleが活躍しています。未来館に模型があるJAMSTECの地球深部探査船「ちきゅう」とともにIODPで活躍している掘削船で、浅い海域での掘削に長けています。ユカタン半島から30 km沖の水深17 mの地点で、写真のように、船体を3本の足で海底に固定し、海底下1500 mまで掘っていきます。陸上でチチュルブクレーターを掘削したことはありましたが、海洋での掘削は今回が初めてです。

 20160527tsuboi_03.jpg(左)ヨーロッパの特定任務掘削船Lifeboat Myrtle、(右)掘削した岩石試料を見て議論する科学者たち
(JOIDES Resolution Facebookより, ESO outreach Facebookより)

そして、ついにクレーターに到達!!

 4月下旬、Lifeboat Myrtleから地球の深部へと伸ばしたドリルピット(岩石を掘削する先端のドリル)が、ついにチチュルブクレーターに到達しました!海底下670 mから採取した岩石には、隕石衝突によって破砕されたであろう花崗岩のかけらが含まれていたそうです。また、海底下620~670 mから採取した岩石には津波堆積物や隕石衝突の衝撃でつくられた角礫岩が見られ、これらの岩石の層に隕石衝突時の環境を探る鍵があると科学者たちは期待しています。現在も掘削作業は順調に進み、6月初旬までに1500 mまで掘削する計画です。
 採取された岩石試料は、ドイツ・ブレーメンにある保管施設に運ばれ、今回乗船した科学者は9月にそこで再集結します。どこでどんな岩石があったかを細かく記録した後、岩石試料は科学者に割り振られ、詳細な分析・研究が開始されます。

科学者の飽くなき探究心

 この隕石の衝突時には、地球規模の影響があったと考えられています。衝突箇所のメキシコ湾にほど近い、キューバで堆積した地層の実物標本が未来館にあります。隕石衝突によって終わった白亜紀と次に始まった第三紀の境界部分を含むことから「K/T境界」と呼ばれる地層標本(*1)です。

20160527tsuboi_04.jpg地球深部探査船「ちきゅう」(左)とK/T境界の実物展示(中央)
(5F常設展示「世界をさぐる」フロンティアラボにて)
*1 ちょうど、白亜紀(ドイツ語で"Kreide")と第三紀(英語で"Tertiary")の境目に位置する地層のため、それぞれの頭文字をとり、K/T境界と呼ばれています。現在は、第三紀始めの地質年代区分の名称が古第三紀("Paleonege")に改められたことから、K/Pg境界と呼ばれることが多くなってきました。このブログでは展示の表記に合わせ、K/T境界と呼びます。

 未来館では2001年の開館当時からK/T境界を展示していますが、このプロジェクトに代表されるように今この時にも、科学者は未開の謎に挑み続けているのです。
なんだか熱いロマンを感じませんか?

 未来館には様々なバックグラウンドを持った科学コミュニケーターがおり、それぞれが得意分野の最新情報をフォローしています。
未来館にお越しの際は、是非私たちに声をかけてください。
日々進化し続ける科学、まさに「今」起きている科学者たちの挑戦...。
それらに触れることで、あなたの心が躍る体験にきっと出会えるはずです。


参考(すべて英語)
ECORD
http://www.ecord.org/
JOIDES Resolution
http://joidesresolution.org/
Science
http://www.sciencemag.org/news/2016/05/scientists-hit-pay-dirt-drilling-dinosaur-killing-impact-crater
http://www.sciencemag.org/news/2016/03/scientists-gear-drill-ground-zero-impact-killed-dinosaurs

※コメントをする際は「ブログへのコメント投稿について」をご覧ください

※「名前」は、ハンドルネームでも構いません

コメントを残す