オリンピックで考える、資源循環

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はじめまして!4月より科学コミュニケーターになりました、梶井 宏樹 (かじい ひろき)です!専門は化学です。

皆さん!いよいよ明日からリオ五輪ですね!
梶井は、バドミントン日本代表の試合が楽しみでソワソワしています!(バドミントンのお話は、いつか必ず!)

さて、オリンピックといえば皆さんメダルを思い浮かべると思いますが、東京五輪のメダルを都市鉱山から、つまり私達が廃棄した電子機器(携帯電話など)からとれる貴金属から作ろうという運動があることをご存知でしょうか?(八戸市、大館市、一ノ関市による合同提案など。)

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By Mitch Ames (CC BY-SA 4.0 via Wikimedia Commons)

一般社団法人 サステイナビリティ技術設計機構にある「都市鉱山メダル特設ページ」に、実現可能性などの議論や、金メダルが金100%ではないという豆知識などが併せて載っているので、そちらをぜひご覧下さい。
http://susdi.org/wp/medal/top/

余談ですが、この記事を見つけたとき、とてもビックリしました。

「それ、いつか記事にしようとずっと温めていたネタ!」

悔しがっていると、新聞記者であった先輩科学コミュニケーターの谷に「良くある良くある(笑)」と言われてしましました。しかし、先を越された程度の理由では諦めきれない!

大学の研究室時代に、他の物質ではできないことを容易くやってのける貴金属の能力に感動し、「東京五輪で貴金属をアピールできるんじゃないの?」→「貴金属の会社で現場を体験して伝えよう!」という単純な理由で前職についた分、思い入れが強いのです。

未来館 科学コミュニケーターブログには初投稿となりますが、実際に貴金属リサイクル屋さんの現場で働いた梶井の思いや考えを詰めてお届けします。

【なぜ貴金属リサイクルが必要なのか】

金やプラチナといった貴金属は、身の回りのさまざまなものに使われています。例えば金だと、アクセサリー以外にも、スマホやパソコンなど精密機械の部品や妊娠検査キットといったものにまで用いられています。

(貴金属の用途は、田中貴金属さんのHPに分かりやすくまとまっています。http://pro.tanaka.co.jp/library/element/)

しかし、貴金属の資源量は少なく、リサイクルを行わなければ近い将来、枯渇すると言われています。

貴金属が将来使えなくなると、どんなことが起こるでしょうか。

例えば、未来館には人工光合成という研究分野の展示があります。電気や熱などではなく、太陽光をエネルギー源として、有用なものを作ろうという技術です。

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この展示では未来の燃料の候補である水素を発生させていますが、これにもルテニウムという貴金属が使われています。

量も少なく高価な貴金属を使わずに、有機化合物や資源量の多い金属で代用する研究が行われてはいますが、貴金属にしかできないことは必ずあるでしょう。

つまり貴金属がなくなるということは、今の日常が失われること、そして未来の技術も生み出せなくなることに繋がります。

【リサイクル品って大丈夫なの?】

「金メダルをリサイクルで作るのってどうなの?」と思う方もいらっしゃると思います。私も貴金属リサイクルの現場では、誰の物だったか分からない金歯なども扱っていたので、その気持ちは分からなくもありません。

しかし、化学組成が同じなら同じものです。

金歯から採ってこようが、鉱山から採ってこようが、純度を高めさえすれば金は金です(他の化合物に関しても同じことが言えます)。

いくつかの種類の貴金属では技術が確立しているので、比較的簡単です。例えば金だと、設備さえ整っていれば純度を99.99%にすることが容易に達成可能であり、99.999%にすることもできます。

【作業の危険性】

貴金属をリサイクルする際には、基本的には下図のような古典的な作業を行います。(もちろん貴金属の種類によって違う方法も取りますし、新しい技術も出ています。)

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この作業、環境や作業員への負荷が大きい作業となります。

例えば、王水という濃塩酸と濃硝酸を体積比3:1で混ぜた酸は、金や白金など多くの金属を溶かすことができるので良く用いられます。しかし、溶かす際に酸性雨やオゾン層破壊の一因である窒素酸化物(NOx)が生じるということはあまり知られていません。

また、沈殿させる際に、やはり酸性雨の原因となる硫黄酸化物(SOx)もしばしば出ます。

なので、作業場には危険なガスを吸引したり無毒化する専用の装置が必要となり、作業員はガスマスクなどの保護具が必須となります。

その他にも、一歩間違えれば大事故に繋がる問題がテンコ盛りです(本当にまだまだあります)。

【日本が行うべき理由と責任について】

こうした被害を避ける設備、技術そして知識は、日々の努力や失敗による積み重ねから生まれます。途上国は先進国から学ぶことで、被害を防ぎながら進むことができます。

東京五輪のメダルをリサイクル貴金属でつくろうという今回の運動は、循環共生型社会を目指している日本の考え方や技術を世界にアピールするチャンスです。ですが、それだけで終わって良いのでしょうか。先進国はこれまで、貴金属を貪り、環境を傷めつけながらも技術を発達させてきました。途上国に設備や技術、知識面での協力をし、作業員にも地球にも安全な作業を可能とすること、そして途上国の人々と共に貴金属を使い続けることのできる未来をつくることが、先進国としての日本の責任ではないのでしょうか。

貴金属に限らず、「リサイクル」は今後ますます必要な技術です。しかし、そのキレイな面だけが伝えられがちです。その裏側でどんなことが行われているかを知っておくことも重要だと思います。

人の身体能力の限界を楽しむオリンピックにこのような話を持ち込むのは無粋かなと思いますが、ぜひこの機会に、貴金属やその他の資源循環のあり方を考えてみて下さい。

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