2016年ノーベル医学・生理学賞を予想する①その2 アレルギー反応機構の解明~制御性T細胞編

このエントリーをはてなブックマークに追加

こんにちは!科学コミュニケーターの石田茉利奈です。

ノーベル賞予想ブログ前編 では石坂公成先生の「IgE抗体発見」を紹介しました。
後編では、免疫機構で重要な役割を持つ細胞を発見し、アレルギー治療に大きな希望をもたらしたこちらの方をご紹介します!!!


アレルギー反応機構の解明:制御性T細胞


坂口志文博士
1951年生まれ。大阪大学免疫学フロンティア研究センター(IFReC)教授。

20160907_ishida_01.jpg

(写真提供:大阪大学免疫学フロンティア研究センター(IFReC))



坂口博士が発見された制御性T細胞とは何者なのでしょうか?3段階に分けてご紹介します。

制御性T細胞は
①免疫機構でどんな役割?  
②どのようにして働くの?
③どのような応用が期待されるの?

①免疫機構でどんな役割?
免疫とは「自分ではないもの=異物」を攻撃する仕組みです。攻撃には様々な免疫細胞(T細胞やB細胞)が関わっていました。(詳しい免疫機構についてはこちらのブログを参照)
実はこの免疫細胞たちは完璧ではないのです。完璧ではないとは、どういうことなのでしょうか?
T細胞は誕生した後に「胸腺」という学校のような組織で自分自身の身体を覚え、自分を攻撃するような不届き者は卒業させないようにします。
しかし、「胸腺」にもどうしても不手際があり、教育不行き届きで自分自身の身体を攻撃してしまうT細胞を卒業させてしまうことがあるのです。このT細胞たちが自分自身を誤って攻撃してしまうのです。また、通常のT細胞でも冷静さを失い、攻撃をやめられなくなってしまうことがあります。このような悪さをしてしまうT細胞たちを抑える細胞、 それが制御性T細胞なのです。

②どのようにして働くの?
制御性T細胞は大きく2つに分けられます。「内在性制御性T細胞」と「誘導性制御性T細胞」です。内在性制御性T細胞は胸腺でつくられ、誘導性制御性T細胞は赤ちゃんのT細胞が抗原刺激によって分化誘導されることでつくられます。どちらの制御性T細胞も抗原特異性です。つまり抗原ごとに結合する制御性T細胞が存在しています。しかし、これら2つの制御性T細胞は働き方が違うことが分かっています。

内在性制御性T細胞は働くふりをして働かない細胞です。会社にこんな人がいたらとても困りますが、私たちの身体にはいてもらわないと大変なことになります。
免疫機構の話をおさらいしましょう。異物が身体に入ってくると、マクロファージなどの食細胞がそれを食べ、異物の目印となるタンパク質(=抗原)を掲げ、ヘルパーT細胞に結合し、「こいつが悪いやつだよ!攻撃して!」と伝えます。するとヘルパーT細胞がキラーT細胞やB細胞に攻撃命令を出し、攻撃が始まるという流れでした。
内在性制御性T細胞はヘルパーT細胞に代わり、抗原を通して食細胞に結合しますが、攻撃命令を出しません。すると、ヘルパーT細胞は働く場所が奪われ、攻撃が抑えられるのです。

20160907_ishida_02.jpg図1:内在性制御性T細胞が免疫を抑える仕組み

内在性制御性T細胞は、様々な抗原の中でも自己抗原(自分自身を抗原として差し出したもの)に結合しやすいことがわかっています。そのため、自己免疫疾患(自分自身を攻撃してしまう病気)を発症させないためには内在性制御性T細胞がとても重要です。

一方、誘導性制御性T細胞はインターロイキン10やTGF-βというサイトカインを出して、興奮したヘルパーT細胞の働きを抑えます。アレルギーはたいした敵でもない抗原にヘルパーT細胞が興奮しすぎてしまうことが原因です。そのため、アレルギーになってしまう人は誘導性制御性T細胞の働きが弱いと考えられています。

20160907_ishida_03.jpg

図2:誘導性制御性T細胞が免疫を抑える仕組み

③どのような応用が期待されるの?
制御性T細胞はアレルギーの予防・治療への応用が期待されているだけでなく自己免疫疾患の予防・治療、がん治療、臓器移植への応用も期待され、研究が進められています。せっかくなので、アレルギーへの応用以外もご紹介します。

・アレルギーの予防・治療への応用
アレルギーは花粉やエビなどの異物に対して起こっている反応なので、免疫機構の攻撃相手は間違っていません。しかし、たいした敵ではないのに過剰に攻撃してしまっているというのが問題なのです。そこで、制御性T細胞の働きをコントロールして、アレルギーを起こすタンパク質(アレルゲン)に反応するヘルパーT細胞の働きを抑え、アレルギーを予防したり、治療したりできないかと期待され、研究が進められています。

・自己免疫疾患の予防・治療への応用
 自己免疫疾患とは、免疫機構が自分自身の細胞や組織をあやまって敵とみなして攻撃してしまうことで起こる病気です。関節リウマチやI型糖尿病など様々な種類があり、合計すると人口の約5%が自己免疫疾患に苦しんでいます。
 自己免疫疾患は制御性T細胞の機能異常によって起こると考えられています。制御性T細胞の働きをコントロールし、免疫機構が自分自身を攻撃するのを抑える治療法が研究されています。

・がん治療への応用
 私たちの身体の中では、日々がん細胞が生じていると考えられています。しかし、免疫機構ががん細胞を異物とみなし、攻撃してくれるおかげで、病気としてのがんにはならずに済んでいるのです。がん細胞は、もともとは自分の細胞だったのに、異常な細胞へと変化してしまった細胞です。免疫機構としては、自分なのか異物なのか、判断が難しいところです。実際、制御性T細胞ががん細胞への攻撃を抑えてしまうことが分かっており、がん患者には制御性T細胞が多く存在していることが報告されています。そのため、制御性T細胞の数を減らしたり、機能を抑えたりすることができれば新たながん治療法となるのではないかと期待されています。

・臓器移植への応用
 臓器移植を行う際、もともとは他人の臓器を体の中に入れるわけですから、どうしても免疫機構による攻撃(=拒絶反応)が起こってしまいます。現在は免疫抑制剤を使って対処していますが、あらゆる免疫反応を抑えてしまうので、感染症にかかりやすくなってしまいます。そこで、移植された臓器にのみ反応する制御性T細胞の数を増やしたり、機能を強めたりすることができれば拒絶反応を抑え、臓器移植の成功率を高めたり、現在では拒絶反応が強すぎて移植しにくい例も実施できるようになるのではないかと期待されています。

免疫機構の重要な役割を担っているがゆえに、アレルギーにとどまらず免疫に関わる様々な事例に応用が期待されている制御性T細胞。とても偉大な発見ですね!!


私たち現代人を悩ませるアレルギー。みなさま何かしらのアレルギーに悩まされているのではないでしょうか。アレルギーが起こる仕組みを明らかにした石坂博士、坂口博士。お二人の研究の方向性は違いますが、アレルギー治療への新たな道を開いたお二人が今年のノーベル生理学・医学賞を手にするのではないでしょうか。

ほかにも科学コミュニケーターが今年のノーベル賞予想を挙げています!数々のすばらしい研究を知ることができるとても良い機会なので、ぜひご覧ください!

【参考文献】
・講談社サイエンティクス「好きになる免疫学」
・ブルーバックス「新しい免疫入門」
・ブルーバックス「現代免疫物語beyond 免疫が挑むがんと難病」
・羊土社「もっとよくわかる!免疫学」

2016年ノーベル賞を予想する
生理学・医学賞①その1 アレルギー反応機構の解明~IgEの発見編
生理学・医学賞①その2 アレルギー反応機構の解明~制御性T細胞編(この記事)
生理学・医学賞② 小胞体ストレス応答のしくみを解明
生理学・医学賞③ 先天性難病 根治の可能性を拓く!遺伝子治療
物理学賞① アト秒で切りひらく電子の世界
物理学賞② 移動するのは「情報」!量子テレポーテーション!
物理学賞③  アインシュタイン最後の宿題!重力波の直接観測
化学賞① 分子が分子をつくる!
化学賞② 一条の光できれいな世界を
化学賞③ 薬よ、届け!細胞よ、結集せよ!

※コメントをする際は「ブログへのコメント投稿について」をご覧ください

※「名前」は、ハンドルネームでも構いません

コメントを残す