小惑星探査機OSIRIS-REx 打ち上げ成功!

お久しぶりです、科学コミュニケーターの小熊です。

9月8日に、フロリダのケネディ宇宙センターからの探査機OSIRIS-RExの打ち上げを関係者席で見る機会を得ました。

打ち上げはアメリカ東部時間19時5分だったのですが、朝からお祭り騒ぎでした。フロリダで打ち上げを見られるなんておそらく一生に一度の経験なので、打ち上げ前後も含めてご報告します!

11:00 チェックイン
関係者証とお土産(ミッションの説明書、ロゴのバッジ、ワッペンなど)をもらいました。わくわく!

11:30-12:30 ブリーフィング(説明会)
会場は満員。ミッションに関わった研究者たちが今回のミッションを説明してくれます。彼ら自身がとても興奮しているのが伝わってきました。最後は皆で"Go ATLAS, Go O-REx!"とコール。期待が高まります!
(OSIRIS-RExはATLAS V(アトラスファイブ)というロケットで打ち上げられました。「OSIRIS-RExだと長くて言いにくいのでO-RExで!」だそうです。)

15:30 バスで打ち上げ見学会場に移動
なんとこのミッションに関わった研究者が添乗してくれました。道すがら、説明と質疑応答タイム。なんて贅沢!
セキュリティーゲートを抜け、映画で見たことのある建物の横を通り(探査機をロケットに積み込む場所だそうです)、見学会場へ。

ケープカナベラルの発射場は......あれ?思ったより遠い......ロケットも全然見えない......

18:40 打ち上げ15分前
見学会場にはOSIRIS-RExのロゴ入りのTシャツを着ている人も。ケネディ宇宙センターのお土産屋さんで売られていたものでしょう。アメリカ国歌の斉唱までありました。会場の雰囲気はまるでサッカーの試合会場のように盛り上がっています。

天候もこの上なく良好。会場のスピーカーからは管制室の音声が流れてきます。各担当者が順に「Go」を出し(これも映画のよう!)、いよいよ打ち上げです!!

19:05 打ち上げ!
打ち上げ時刻は予定時刻通り。会場でも一緒にカウントダウンをします。カウントがゼロになり、「Go OSIRIS-REx!」の実況の声。大声援が上がります。

最初に見えたのは明るいエンジンの炎と白い煙。管制室から中継される音はスピーカーから聞こえてきますが、ロケット本体からの音はまだこちらに届きません。無音なまま滑るように昇っていきます。

30秒ほど遅れて轟音が響いてきました。体に空気の振動が伝わってくるほどの激しい音です。

一直線に宇宙に向かうロケットの作る雲、ロケットロードが伸びていきます。

会場は大歓声!人が乗っているわけでもなく、火星や木星でもなく小惑星か......という気もしますし、数あるミッションのひとつにすぎないとも思っていましたが、アメリカでは大変な盛り上がりでした。

私も初めて打ち上げを見て、感動のあまり足が震えました。もし、これが自分の関わったミッションだったらと思うと......!

19:30 帰りのバス
打ち上げが終わると、案外そそくさと帰ります。帰りのバスに添乗してくれた研究者が「打ち上がるまで本当に心配でした」と言い、ほっとした顔をしていたのが印象的でした。打ち上がっても軌道に乗るまで(その後もですが)何があるかわかりません。1週間前に近くの発射場でスペースXのロケットが爆発したということもあり、本当に気が気ではなかったと思います。何年もかかって準備をした探査機を無事に送り出し、まずは一区切りです。最後に"Congratulations!"と彼と握手をしてきました。

さて、遅くなりましたが、OSIRIS-RExミッションとは・・・

Origins Spectral Interpretation Resource Identification Security - Regolith Explorer
「小惑星からレゴリス(表面の砂や石)を取ってきて調べる」ミッションです。

地球近傍の小惑星ベンヌに2018年8月に到着、2020年にレゴリスサンプルを採取し、2023年9月にサンプルを入れたカプセルを地球に持ち帰る予定です。アメリカにとっては初めての小惑星サンプルリターンミッションです。

ん?なんだか聞いたことあるぞ・・・そう、我らが日本の探査機はやぶさ、はやぶさ2の類似ミッションです。アメリカが日本のミッションの後を追ったのは初めての例です。しかし説明では、はやぶさの名前は全く出ず、あくまでも「彗星のサンプルを持ち帰ったスターダストミッションをもとに」と言っていました。NASAのプライドでしょうか......少しくらいはやぶさを紹介してくれてもいいのに......)

はやぶさもOSIRIS-RExも目的は共通しています。太陽系の最初の頃がどうだったのか、太陽系の天体はどうやってできたのか、生命は地球にどうやって誕生したのかを解明することです。

小惑星は太陽系の初期の頃から変成していない、つまりその天体ができた当時の状態をそのまま保持していると考えられます。太陽系ができた頃、天体同士が衝突・合体を繰り返して大きな天体が作られていきました。最初は小さな塵同士の衝突から、小石くらいのサイズになり、岩石の塊になり、小惑星サイズになり......という過程を経ています。衝突が起こると、熱が発生し、天体をドロドロに溶かしてしまいます。地球のような大きな天体は、衝突・合体を何度も繰り返し、一度全部溶けてから固まったので、形成された当時の状態からは変わってしまっています。なので、太陽系の"Origin"を知るためには、小惑星に昔の手がかりを探しにいく必要があります。

ベンヌは炭素、つまり生命のもととなる物質を多く含む小惑星でもあります。地球の水の起源を探るはやぶさ2ミッションと併せて、太陽系の歴史、地球生命の誕生の歴史を解明する手がかりが得られるかもしれません。

はやぶさ2についての志水の記事も改めてぜひご参照ください。(リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)

私はこれから7年間、OSIRIS-RExのニュースが入るたびに、今日の打ち上げを思い出すのでしょう。いいニュースを楽しみに待ちたいです!

Go OSIRIS-REx!

補足1 「OSIRIS-REx」「ベンヌ」の名前について

OSIRIS-RExは前述した長い名称から頭文字を取ったものですが、
OSIRIS:冥界の神オシリス
REx:ラテン語で王(ティラノサウルス"レックス"がベンヌを食べようとしているミッションロゴもあります。)

合わせて「冥界の王」という意味になります。なぜこんな物騒な名前に?これは小惑星ベンヌが地球に衝突する可能性が比較的高く、地球に死をもたらすかもしれない、といったところに由来しているそうです。(2番目のS、"Security"はこれに関わっています。)

「ベンヌ」はエジプト神話の不死鳥の名前で、オシリスの魂だとも言われています。英語ではベヌーと発音しているように聞こえました。

天体の名前は神話に由来しているものがたくさんありますが、上手く関連づけられていておもしろいですね!

補足2 ところで、はやぶさ2は今どこに?

こちらのサイトで見られます→http://www.hayabusa2.jaxa.jp(リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)
2014年12月に打ち上げられたはやぶさ2は、小惑星リュウグウに着々と近づいています。2018年にリュウグウに到着、サンプルを採取し、2020年にサンプルを入れたカプセルが地球に帰ってくる予定です。

参照:https://www.asteroidmission.org(リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)

写真は全て小熊撮影

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