2016年ノーベル物理学賞!「トポロジーのメガネ」で見えた物体の新しい世界

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ノーベル物理学賞2016年受賞者と受賞理由が発表されました!
その受賞理由はこちら!

トポロジカル相転移と物質のトポロジカル相の理論的発見

ノーベル財団の発表によると、固体物理学における20世紀の最大の発見とも言われています。

なかなか理解しがたい(書いている私もきちんと理解できていないので苦しい...)のですが、がんばって今回の受賞が何だったのかを伝えます!

◆トポロジカルとは?
まずは受賞理由に2回も登場する「トポロジカル」という言葉から説明します。
関連用語の「トポロジー(topology)」は、「位相幾何学」などと訳される数学の一分野です。

そして、トポロジカルな視点で世界を見ると、面白いものの見え方をします。
例えば、下の図のような感じ。

20161004_amemiya12.png

「ボール・マグカップ・ドーナツ・8の字型のもの」の4つが書かれた紙を見るときに、トポロジカルな視点で見るための"メガネ"をかけると、「0・1・1・2」という
数字が見えてきます。
では、「ボール→0、マグカップ→1、ドーナツ→1、8の字型→2」となるのは何でしょう?
答えは、物体の穴の数です。
穴の数は、物体を連続変形(伸ばしたり曲げたりするのはOKだが、切ったりつなげたりするのはNG)させている間は変わりません。だから、マグカップとドーナツは同じ1なのです。

このように、トポロジーの世界でものを見ることができる、いわば「トポロジーのメガネ」をかけてみると、実際に見えている世界とは異なる見方や区別の仕方ができるようになります。

◆2次元や1次元では何が起こる?
ところで、私が2015年にノーベル物理学賞の候補として予想した「トポロジカル絶縁体」というものがあります。(トポロジカル絶縁体のブログはこちら

トポロジカル絶縁体とは、表面だけは電気が通るけれど、物体の内側は電気が通らないというものです。
まるでハイチュウのように、表面と内側で性質が違う面白い物体です。

20161004_amemiya_31.png

なお、このトポロジカル絶縁体自体は2005年に存在が提唱されたものなので、今回受賞された3名の研究者が直接取り組んだというものではありません。ただ、この例に代表されるように、普段私たちが目にしている「3次元」の物体では考えもしなかったことが、「表面」や「ものとものが接している境界」といった「2次元」で起こるということが、「今では」わかってきています。

...そうなんです。つまり、今回受賞された3名のうち、サウレス博士・コステリッツ博士が論文を発表した1970年代になるまでは、2次元のことや、さらに低次元である1次元の性質は、あまりわかっていなかったのです。

(編集注:コメントでいただいたように、当初の原稿は誤解を招く表現があったため、もとの文章を削除し、直上の2つの段落「なお、このトポロジカル絶縁体自体は~あまりわかっていなかったのです。」に書き改めました。同時に図も1枚、削除しています。コメントでのご指摘、ありがとうございました。10月11日11時)


◆そこで、2次元や1次元を見るための「メガネ」を発見した!
ここで登場するのが、今回受賞された方々です。

2次元や1次元のものの性質を見るために、新しいトポロジーメガネを発見したのです!


いやいや、メガネって、形を数字に変えるあの1種類じゃないの?

と思われるかもしれませんが、実はこのトポロジーメガネには様々な種類があるのです。

さきほどの「ボール→0、マグカップ→1、ドーナツ→1、8の字型→2」という例では
「穴がいくつ空いているか」

を見るためのメガネでしたが、今回受賞した研究では、

「渦がどこにどのくらいあるのか」

を見るためのメガネです。
このメガネを使って、「低い温度と高い温度で性質が異なる」物体の2次元の世界を見てみましょう。
すると、下の図(クリックで拡大)のように、渦の位置や巻き方を見ることができます。


20161005_amemiya11.jpg

青い方が「低い温度の時」の渦で、赤い方が「高い温度の時」の渦を表しています。
青い方では2つの渦がペアになっているのに対し、赤い方では渦が一つずつバラバラになっています。
メガネを使う前は、「どうして低い温度と高い温度で性質が異なるのかわからない」状態だったのですが、メガネを使うと、「渦の位置が変わっている!」とわかります。

この「渦」は、2次元の世界に存在する電子が持つスピンによるものです。
この「渦の位置」や「向き」を知ることで、「物体の性質(たとえば電気伝導性)」を知るきっかけになるのです!

(10月5日午前11時ごろ、渦の図をノーベル財団のものに差し替え、関連文章を修正・追記しました。当初の図と説明に、不正確・不十分な点があったためです)

◆今回受賞された方
今回受賞されたのは、この方々です。

20161005_amemiya13.png

(左から)
ワシントン大学(シアトル)のデイビッド・サウレス (David J. Thouless) 博士。1934年生まれ。
プリンストン大学のダンカン・ホールデン(Duncan Haldane)博士。1951年生まれ。
ブラウン大学のマイケル・コステリッツ(Michael Kosterlitz)博士。1942年生まれ。
 ※写真提供は順に Trinity Hall, University of Cambridge / Princeton University, Office of Communications, Denise Applewhite / Brown University

この方々の研究によって、いままで考えることができなかった「2次元や1次元のものの性質がどうなのか」を判断する方法が確立されたのです!
その方法に基づいて、現在様々な研究が進められています。それらは「トポロジカル物体」と言われており、たとえば次世代の超省電力なデバイス、薄膜の超伝導体、そして量子コンピューターにも役立つと期待されています。

...ちなみに、このトポロジーという考え方は、もともとは物理学ではなく、数学の世界で使われていた手法です。
数学の手法を、物理の世界に応用したというのが、この研究すばらしいところの一つ。
画期的な考えを導入することで、私たちの未来につながる、物質の新しい世界観を開いたのです。
(10月5日20時ごろ、一部を追記しました)

最後に、電話で解説をしていただきました、放送大学教授の岸根順一郎先生、ありがとうございました。

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関連記事へのリンク

※受賞発表後、さらに勉強を重ねた物理学賞チーム(通称ぶつりーず)が、2016年ノーベル物理学賞の受賞内容をより詳しく、より正確に、よりわかりやすく、連載ブログで解説しています。

【ぶつりーずブログリレー】
「わかった」への相転移

①ブログリレーでもう一度解説します
http://blog.miraikan.jst.go.jp/topics/20161108-2016.html

②2次元での相転移を説明したKT転移
http://blog.miraikan.jst.go.jp/topics/20161110-2kt-2016.html

③1次元ではもっとすごい相転移が起こる Coming Soon

④量子ホール効果をトポロジー Coming Soon

【速報】2016年ノーベル物理学賞はトポロジカル相転移の研究で3人に
http://blog.miraikan.jst.go.jp/topics/201610042016-9.html

2015年ノーベル物理学賞を予想する① 電気を通す絶縁体!?
トポロジカル絶縁体についての記事です
http://blog.miraikan.jst.go.jp/topics/201509162015-1.html

2014年ノーベル物理学賞を予想する② スピンを操るあの方!
希薄磁性半導体における強磁性の特性と制御に関する研究についてです
http://blog.miraikan.jst.go.jp/topics/201409172014-1.html

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この記事への8件のフィードバック

なるほど、少し、なんとなく、分かるような気がして、うれしくなりました。

渦の話になってさっぱりわからないです。いきなり見えると言われても。

今回の授賞理由は2次元KT転移とHaldange conjectureです。トポロジカル絶縁体とは直接の関係はありません。貴HPの記述は誤解を招ますので、正確な表現に改められた方がよいと思います。2015年の授賞予想と近いためにその記述と関連付けたいというお気持ちは分かりますが、このような誤解を招く表現を個人のHPではなく未来館のサイトで行われることはお止めになった方がよいと思います。Nobel財団の公式発表全文をお読みになられましたでしょうか?

大学で物理を学びながらサイエンスコミュニケーターとしても活動している者です。
小学生の頃から通っていた科学未来館からやや不正確な記事が出たことを少し残念に思っています。
サイエンスコミュニケーションは難しい情報をそぎ落としてわかりやすく、面白く伝える仕事だと思いますが、不足はあっても不正確ではいけないと思います。

ある研究者さんもおっしゃっているのですが、今回の受賞理由は
コステリッツ、サウレス→コステリッツ・サウレス転移の発見
サウレス→整数量子ホール効果とトポロジーの関係の発見
ハルデーン→ハルデーン予想の発見
なのでトポロジカル絶縁体は基本的には関係ありません。
トポロジカル絶縁体について触れるなら、記事の最後に回して最近ではこういう現象、物質についての研究がある、程度に止めるべきです。
整数量子ホール効果とハルデーン予想は難しすぎるので、コステリッツ・サウレス転移のみに絞ったのは別に良いと思いますが。

限られた時間の中で解説記事を書かなければならないのは大変だと思われますが、影響力のある機関なのですからもう少し正確な記事にしていただきたいです。

アッベーさん、コメントありがとうございます!そう言って頂けると、物理学チーム全員で一生懸命書き上げた甲斐があります。今回の受賞テーマについての活動はこれからも続けていきますので、またよろしくお願いします。

柳田 和彦さん、コメントを頂きありがとうございます。
このブログを書いたあとで、私たちも勉強と取材を重ねたので、「渦とは何なのか、相が変わるとはどういうことなのか」など、もう少し詳しく説明するブログを現在執筆中です。公開後によろしければ、そちらをご覧ください。

ある研究者さん、ある学生さん、コメントを頂き誠にありがとうございます。
トポロジカル絶縁体の取り扱いに関して、私たちの理解が十分でなかったため、誤解を招くような書き方になってしまいました。そこで、ご指摘頂いた内容を踏まえ、3名の研究者とは直接の関係がなく、あくまで一つの研究例であることを伝えられるように文章を修正いたしました。ご教授頂きましてありがとうございます。
ある学生さんが仰った「サイエンスコミュニケーションは難しい情報をそぎ落としてわかりやすく、面白く伝える仕事だと思いますが、不足はあっても不正確ではいけないと思います」という言葉に、非常に心打たれました。まさにその通りだと思いますので、このブログを執筆後取材した内容を整理し、受賞理由の3つのテーマ(KT転移・整数量子ホール効果とトポロジーの関係・ホールデン予想)それぞれを再度ブログにしたためようと思っております。よろしければ、そちらもご覧頂き、コメントをちょうだいできればと思います。

3,4はいつごろ掲載されそうですか?がんばっていらっしゃると思います。1,2は大変わかりやすいものでしたね。

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