理解できなくても、分かったこと、感じたこと
 ~2016年ノーベル賞を振り返って~

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物理学者が頭の中で解明している世界は、 
 とてつもなく難解で不思議だと知った−−。


それを「分かりたい」という強い気持ちと、
 それが自分の中にある理由に気付いた−−。


化学者の「本気の遊び心」感じ、
 敬意を込めて「バカですね」と言いたくなった−−。



2016年のノーベル賞発表から約2ヶ月。

私たち科学コミュニケーターは、未来館のフロアで、ブログ記事で、ニコ生放送で、受賞内容を「伝える」活動に取り組んできました。


20161105_tani01.jpg 物理学賞を解説する科学コミュニケーターの坪井(筆者撮影)



だいぶ落ち着いた今、振り返ってみると。

私たちがサイエンス以外の部分にも、心を動かされたことに気付きました。


それを、みなさんともシェアしたい−−。


物理学賞を3年連続で担当しながら難解なテーマに手も足も出せず、同僚の奮闘を見守るだけだった谷が、だからこそ感じたことをまとめます。



【難しかった物理学賞】

物理学賞のテーマは、「トポロジカル相転移と物質のトポロジカル相の理論的発見」でした。


「物体表面の2次元の"渦"という概念は、観測や実証がとても困難。でも、数学的に明確な構造がある」。発表直後の電話取材で伺った専門家の言葉に、理論物理の途方もない奥深さが垣間見えます。



その日のドタバタぶりは、坪井が書いた記事の通り。リーダーの雨宮が、当日中にやっと書き上げた解説記事も不十分な点が多く、修正や追記を重ねることになりました。

追加取材や議論を重ね「今度こそ」と臨んだ約1週間後のニコ生放送も、「自分は分かったつもりになっていたのに、伝えるのがこんなに難しいとは」と、雨宮。視聴者に理解度を尋ねたアンケート結果は、なかなか厳しいものでした。


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ニコニコ生放送「誰でもわかる 今年のノーベル賞 ~生理学・医学 物理学 化学賞~」より
http://live.nicovideo.jp/watch/lv274717162
(プレミアム会員はタイムシフト視聴が可能です)


【理解できなかったからこそ、分かったこと】

ただ、正直言ってね、
こんな難解なテーマ、30分そこそこの説明で、
十分に説明したり、理解したりするの、相当難しいと思うんですよ。


でもね、
こんな、ちょっとやそっとじゃ理解できない不思議な世界がある−−。
そんな世界を、頭の中に思い描いて、解き明かしていく科学者がいる−−。
その世界は、空想なんかではなく、私たちの世界の一部である−−。

そう分かっただけでも、
私はこの物理学賞に関わって良かったと思ったんです。

何か少し、世界を見る目が豊かになる気がしたからです。


【人それぞれの中にある気持ち】

何を感じるのかは、人それぞれ違うことでしょう。



諦めの早い(あまり良いことではありませんが)私は、先に書いたとおり、世界を見る目が少し豊かになるような気がしました。 そのインパクトは、自分より物理に明るい同僚たちがこんなに頑張っても難解だったからこそ、より大きくなりました。



一方で、頑張った1人である坪井は、自分に中にある「分かりたい」という強い思いと、根底にある「分かったら、心の底から湧き上がるような感動に出会えるような気がするから」という気持ちに気が付きました。

「わかりたい」の原動力〜物理が専門でない私のノーベル物理学賞2016〜
http://blog.miraikan.jst.go.jp/talk/201610072016-11.html

坪井が科学コミュニケーターとして今、「伝える」活動の原動力としているこの感情は、科学という「世界をさぐる」学問の根源的な動機にも重なるでしょう。



「面白いなとか、不思議だなとか、難しいなとか、それを感じること自体が人類に与えられた特権」。ノーベル賞解説のニコニコ生放送でMCを担当していただいたタレントの黒田有彩さんも、放送後に気付きをツイートしました。

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黒田さんのtwitterより



その「特権」を原動力としている科学者たちに憧れたり、敬意を覚えたりする方もいるでしょう。



もしくは、「やっぱり、もっと分かりやすい世界のほうが楽しいな」と感じる方がいても、それはそれで大事な気付きだと思うのです。



【科学者の世界観や営みから】

細胞の自食作用を酵母の研究で解明した、大隅良典博士の受賞に盛り上がった生理学・医学賞チーム。リーダーの浜口は、大隅博士の「私にはまだ酵母に聞きたいことがある」という言葉にも感銘を受けました。「まだ分からないことがある」「酵母に教えてもらう」という尽きない好奇心と謙虚さを感じたのです。



「分子マシンの合成と設計」がテーマとなった化学賞チーム。受賞内容を紐解くほどに疑問が膨らみました。ナノサイズの分子でできた四輪駆動車やエレベーター。「誰が乗れるの? そもそも何のためにこんな研究を?」。凄いのは分かるけれど、活用も応用も難しいのです。

至った結論は、「この人たち、絶対に自分が楽しんでいるよね」「『できた、できたよ!』とか言ってそう」「それが、化学のという世の中に存在しなかったものを生み出す学問の原動力なんだ」。

20161105_tani07.png ノーベル化学賞の類似例として志水が紹介した「ナノプシャン」


ニコ生放送でリーダーの伊藤は、化学者たちの「本気の遊び心」が「変な分子」をつくったことを強調。志水も類似例として、イグノーベル賞候補に考えていたヒト型分子を紹介しました。「心の底から、バカですね」。MCの黒田さんの一言は、「つくりだす」ことに真っ直ぐな化学者たちに対する、最大級の敬意を込めた褒め言葉でした。




20161105_tani06.jpg 私たちにも、一人ひとり異なる気付きがあったノーベル賞でした
10月13日 ニコニコ生放送「誰でもわかる 今年のノーベル賞」終了後に



そして物理学賞チームは今、「もっとちゃんと分かりたい」「分かった感動を共有したい」という思いで、受賞内容を詳しく解説する連載記事に、あらためて取り組んでいます。

「わかった」への相転移① ブログリレーでもう一度解説します
http://blog.miraikan.jst.go.jp/topics/20161108-2016.html



【あなたは何を感じますか?】

サイエンスを理解できることは重要です。

でも時に、サイエンスを理解しようとして、
結果、たとえ理解できなかったとしても。

サイエンスを取り巻く部分に気付き、学べる何かが、
あると思うのです。

それは、
科学者たちの「営み・姿勢」や「世界観」だったり、
自然科学の果てしない奥深さだったり、
自分の中にある気持ちだったり。


12月10日は、ノーベル賞の授賞式。

今年のノーベル賞を振り返って、どんなことを感じますか?


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