食物アレルギーを予防できる?!

こんにちは!科学コミュニケーターの石田茉利奈です。

未来館に入社してからアレルギーに興味津々の私に、12月国立成育医療研究センターから驚きのニュース (https://www.ncchd.go.jp/press/2016/egg.html)(リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)が入ってきました。
その名も「離乳期早期の鶏卵摂取は鶏卵アレルギー発症を予防することを発見」

つまり、決められた条件に従えば卵アレルギーを予防できるということです。

卵アレルギーといえば子どもの食物アレルギーの中で最も頻度が高いもの。そんな卵アレルギーを予防できるなんて!すごい!・・・ただ、アレルギー治療はとても繊細です。やり方を間違えてしまえば命取りになることもあり、自己判断は禁物です。今回の研究成果のポイントを詳しく見ていきましょう。

以下の3点にまとめて、お話していきたいと思います。
①アレルギーはなぜ起こる?
②食物アレルギー治療の背景
③今回の発表の内容と注意点

①アレルギーはなぜ起こる?

アレルギーは免疫の過剰反応です。免疫とは私たちの体に備わる外部からの敵をやっつける仕組み。免疫が病原菌やウイルス、がん細胞などをやっつけてくれています。しかし、花粉や食品などの脅威ではないものに対しても、やっつけようと頑張ってしまうことがあります。それがアレルギーなのです。

②これまでの食物アレルギー治療の背景

食物アレルギーの原因となりやすい食べ物は子どものときから避けた方が良いと思っている方も多いのではないでしょうか。実は、この説は現在有力視されていません。
むしろ、近年はアレルギーの原因となりやすい食べ物を食べていた子どもの方が食物アレルギーになりにくいのでは?という報告が挙がるようになりました。

(参考:Randomized Trial of Peanut Consumption in Infants at Risk for Peanut Allergy. New England Journal of Medice 2015年;372号:803-813ページ)

生後6~11ヶ月の赤ちゃん640人を対象にし、一方のグループには少量のピーナッツを週3回以上食べさせ、もう一方のグループにはピーナッツを一切食べさせませんでした。4年後、ピーナッツを食べていたグループのアレルギー発症率は3.2%、食べなかったグループは17.3%という結果がでました。

また、違う角度からの食物アレルギーに対する興味深い報告も挙がりました。「食物アレルギーは皮膚から起こる可能性がある」というものです。皮膚のバリア機能がうまく働いていないと、異物が皮膚から侵入します。毎日食べ物などの異物が入ってくる胃腸では、異物に対して免疫は寛容ですが、皮膚に侵入してきた異物に対しては厳しくすぐ攻撃します。

もう少し免疫の内情を詳しく見てみましょう。
免疫にはたくさんの細胞が関わります。攻撃を進めるアクセル役の細胞たちや攻撃を止めるブレーキ役の制御性T細胞がいます。(制御性T細胞についてくわしく知りたい方はこちら→2016年ノーベル医学・生理学賞を予想する①その2 アレルギー反応機構の解明~制御性T細胞編
この細胞たちは異物の顔を覚えることができます。ですが、異物と出会う場所によって状況が変わるのです。
皮膚で異物と出会う場合は、アクセル役の細胞が積極的に顔を覚えます。一方、胃腸で異物と出会った場合、ブレーキ役の細胞も異物の顔を覚えてくれるのです。

これまでの話を踏まえると、
① 絶対敵だと思われてしまう皮膚から食べ物が侵入しないようにする
② 皮膚から侵入する前に、胃腸を通してブレーキ役の細胞に食べ物の顔を覚えさせる

の2点を実施すると食物アレルギーを予防できるかもしれないのです。

③今回の発表内容と注意点

アトピー性皮膚炎を発症している生後4ヶ月までの赤ちゃんにアトピー性皮膚炎の治療を徹底的に行いつつ、0.2g~1.1gという少量のゆで卵粉末を与えたグループと代わりにカボチャ粉末を与えたグループを比較しました。その結果、ゆで卵を食べていたグループは8割も鶏卵アレルギー発症率が下がったのです!

(参考:Two-step egg introduction for prevention of egg allergy in high-risk infants with eczema(PETIT): a randomized, double-blind,placebo-controlled trial. the Lancet 2016年12月号)

今回の発表から、
① 皮膚をきれいに保つ
② 早期に食物アレルギーの原因となりやすい食べ物を取る
という2点を正しい方法で行えば、多くの人を悩ませる食物アレルギーを予防できるかもしれないということが分かりました。

この実験を行った先生方もこの発見をきっかけに子ども達のアレルギーを減らしていけるのではないかと期待に胸を膨らましていました。
私たちに身近なアレルギー。予防や治療が当たり前の時代がいつかやってくるのでしょうか。これからの医療の進歩に期待ですね!

※注意事項※
冒頭でも紹介しましたがアレルギー治療はとても繊細です。紹介した実験でも安全に行うためのいくつもの方法が取られています。(与える卵の状態や量、子ども達の状態など)
そのため、食物アレルギー予防策は自分自身で判断して行わず、必ず専門医の相談に乗って行うようにしてください。とくに、すでに卵アレルギーを発症している場合は、自己判断でお子さんに卵を与えることは避けましょう。

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