生命がすめる条件ってなんだろう?太陽系の外の恒星、トラピスト-1の惑星から考えてみる

皆さん、こんにちは!科学コミュニケーターの渡邉です。

皆さんは、地球以外にも生き物がいるかもしれないという話をどう思いますか。別の言い方をすると、この宇宙に生命がすめるような天体はどのくらいあるのでしょう。

実は地球以外の生命のお話は単なるSFの話ではなく、すでに天文学や地球惑星科学の真面目な研究対象になっています。例えば太陽系の中でも、木星の衛星エウロパ、土星の衛星エンケラドゥスの氷の表面の下には、地球の深海に近い環境の海があります。

太陽の光が届かない地球の深海には、熱水噴出孔(海底火山のようなところ)から噴き出す熱水からエネルギーを作り出す微生物をはじめとして、陸上や海の表面と全く異なる生態系を持つ生き物がすんでいます。そして、その熱水噴出孔は地球の生命が誕生した場所の有力候補の一つです。エウロパやエンケラドゥスにも熱水の環境がありそうだと考えられています。そのため、これらの衛星を今後詳しく探査することで、地球外の生命の存在や地球の生命誕生のヒントを探れるのではないかと期待されています。

(エンケラドゥスの生命探査に関して、谷のブログ記事がございます。是非ご参照ください。)

それでは、太陽系の外の惑星(系外惑星)はどうでしょう?発見された数は2017年4月7日現在で3600個以上。この中で、地球のように生命を育める可能性のある星は一体どれだけあるのでしょうか?液体の水の存在しうる条件がよく話題になりますが、それは中心となる恒星の温度と距離で単純に決まるわけではありません。

こんな質問を投げかけてみたのには理由があります。それは、2月23日にNASAから、

「太陽系の外にある恒星、トラピスト-1の周りに、地球とほぼ同じサイズの惑星を7つ発見した」

と発表されたからです。

トラピスト−1は地球からおよそ39光年離れています。みずがめ座の方角ですが、温度が低くて小さいため(赤色矮星)、暗すぎて肉眼では見えません....残念!トラピスト-1の周りにある惑星を、スピッツァー宇宙望遠鏡や、ESO(ヨーロッパ南天天文台)の地上望遠鏡によって見つけることができました。

実は、今回見つかった7つの惑星うち3つが、「ハビタブル・ゾーン」の中にあります。ハビタブル・ゾーンとは、仮に惑星に"水"がある場合、それが液体の水として存在できる軌道の範囲を表しています。例えば太陽系だと、地球はこのようにハビタブル・ゾーンの中に入っています。

少なくとも私たちが知っている生命にとって液体の水は必要不可欠のため、液体の水がありそうというのが生命を宿す惑星を探す目安になると、研究者たちは考えています。

なお、太陽系の外でハビタブル・ゾーンの中に惑星が発見されたケースは今回が初めてではありません。3月17日現在発見されている系外惑星の中で、およそ50個が、ハビタブル・ゾーンの中にあると確認されています。太陽系に一番近い恒星、プロキシマ・ケンタウリのハビタブル・ゾーン内にも惑星があることが、2016年8月に発表されています。

今回発見されたトラピスト-1の惑星と太陽系の惑星を並べて比べてみると...

太陽系と比べるとハビタブル・ゾーンはトラピスト-1にかなり近いですね。見つかった全ての惑星が太陽系の水星よりも内側にあります。これは、トラピスト-1の温度がおよそ2300℃と、太陽の温度、約5500℃と比べてかなり低いからです。恒星は一般的に、温度が低いと赤くて暗く、温度が高いと青白く明るく輝きます。

しかし、ハビタブル・ゾーンの中にある3つの惑星が、必ず生命が生存できる環境を宿しているかと言われたら、そうとは言い切れません。ハビタブル・ゾーンはあくまでも地球を太陽の近く、または遠くにもっていったらどうかという話を、太陽系の外の星に当てはめて考えているだけです。仮に地球をトラピスト−1からちょうど良い距離に置いても、今の地球の環境と同じになる保証はありません

それは、どうしてでしょう?惑星に生命がいるかどうかは、中心の恒星からの距離だけでは決まらず、色々な要素が複雑にからみ合って決まるからです。地球の例をとっても、およそ40億年前に海、すなわち液体の水ができましたが、当時の環境は、地上に生命のあふれる現在の環境とはほど遠い状態でした。また、火星もハビタブル・ゾーンに入っていますが、現在の火星表面からは海は失われてしまいました。

生命が生存できる惑星を探す手がかりとして、科学者たちはどんなことに着目しているのでしょうか?系外惑星の分野で研究をしていた立場として、私なりにまとめていきたいと思います。

永久に終わらない昼と夜!?

トラピスト-1のハビタブル・ゾーンの中の惑星の大半は、トラピスト-1に対してずっと同じ面を向けている可能性があります。私たちの身の回りでも、同じ顔しか見せない天体がありますね。それは地球の衛星、月です。地球と月は、お互いに引き合う力を及ぼしあっています。月は地球に引っ張られる力によって変形し、完全な球ではなく、地球の方向に少し伸びた球になります。これが安定した公転をするところに落ち着いた結果、月の自転周期(月自身が1回転するのにかかる時間)が公転周期(地球の周りを1周する時間)と一致し、同じ面を向けるようになりました。つつくと揺れるけど、次第に起き上がって動きが止まるダルマをイメージしていただけると、想像しやすいかと思います。同じことが、惑星と恒星の間でも起こります。この効果は、惑星が恒星から近いほど大きくなります。

トラピスト-1のような温度が比較的低い恒星では、ハビタブル・ゾーンが恒星からかなり近くなります。ということは、このような恒星の周りのハビタブル・ゾーン内に惑星が見つかっても、同じ面を中心の恒星に向けている可能性がある、ということです。昼はずっと昼のまま、夜はずっと夜のまま。地球みたいな一日がなくて、昼の半球は灼熱、夜の半球は酷寒の環境になってしまいます。恐ろしい環境ですね...

ただ、昼と夜の境界付近はちょうどよい温度に保たれることは十分考えられます。また、大気や海がある場合は昼の半球から夜の半球にかけて、大きな大気や海の流れが起こり、昼の半球で受け取った熱をある程度は夜の半球へと受け渡してくれると予想されています。そうすると、昼も夜も大きな温度差がなくて、生命にとってそこまで過酷ではない環境になるかもしれません。

そもそも水がないカラカラの惑星!?

どの恒星も、生まれた頃は、このフレアが活発です。そんな時期には、惑星の水を分解して逃がすような紫外線、X線がたくさん出ています。トラピスト-1のような赤くて暗い恒星の場合は、そのフレアが活発な時期が長かったと言われています。そうすると、惑星の水もどんどん分解されて、宇宙空間に逃げていくと考えられます。つまり、温度が低くて暗い恒星の近くを回っている惑星は、水のない干からびた状態である可能性が高いのです。

生命の進化という点では有利?

今まで、温度が低くて暗い恒星のまわりにある惑星では、生命の存在には不利な点をあげてきました。しかし、逆に有利な点もあるのです!それは、赤くて暗い恒星ほど、恒星の寿命が長いということです。

太陽系の話に戻りましょう。太陽と地球ができたのは今からおよそ46億年前。細菌のようなシンプルな生命体はおよそ38億年前には誕生したと考えられていますが、複雑なからだのしくみを持つ多細胞生物が生まれたのは、ほんの6億年前。地球の誕生から実に40億年もかかっているのです。

細菌のような目に見えないサイズの小さな生命体ならばともかく、私たちが生き物と聞いてイメージするような生物を他の惑星に求めるのなら、惑星の年齢が地球と同じくらいかそれ以上であることが一つの目安となります。系外惑星の年齢を直接調べることはできないので、恒星の年齢が目安になります。そして、恒星の年齢は赤くて暗くて温度の低い星の方が長いのです。

今までの考えをまとめると、地球のような惑星を探すには、温度が高すぎず(青白い)、低すぎない(赤い)恒星の周りを探すのがいいかもしれません。

惑星の質量も影響する

上の3つは中心の恒星の性質の違いが、生命生存可能な星を持つかどうかで大事だという話でした。実は、恒星だけではなくて、惑星の質量も大事です。

軽い惑星だと、重力が十分でなく、大気を引き止めておくことができません。水素などの軽いものほど宇宙空間に逃げやすくなってしまいます。

それだけではありません。軽くて小さい惑星には磁場はない可能性が高いと考えられています。惑星の磁場は惑星中心部にある液体の金属である「核」が対流することによって生じます。この惑星の磁場は、中心の恒星からくる風が大気をはぎとるのを防いでくれます。

しかし、軽くて小さい惑星は冷えやすく、いずれ惑星内部の対流が止まってしまいます。つまり磁場がなくなって、大気がたくさんはぎ取られてしまうということです。現に、地球のおよそ半分の大きさの火星は、地球と比べると0.6%の大気しかありません。これは、一説では冷え切っておよそ40億年前に磁場がなくなったことが原因と考えられています。

大気の成分はとても重要!

地球がどんどん暖かくなってきているというニュースは、最近よく耳にしますね。その原因となる温室効果ガス(二酸化炭素など)を私たち人間が多く出し続けていることが原因です。しかし、その温室効果ガスも、ある程度ないと、今の地球は温暖な気候を保てられなかったはずなのです。もし温室効果ガスがなかったら、地球の平均気温は、単純計算ではマイナス18℃になっているからです。

宇宙で次々と見つかっている太陽系以外の惑星にもそのような温室効果ガスが存在するかどうかが分かれば良いのですが、現状として、大気の成分が調べられている系外惑星は限られています。今回発見されたトラピスト-1の周りの惑星も、一番近いbとcの大気が、木星のような水素ガス主体の大気ではない、ということが分かっているだけで、詳しいことはまだよくわかりません。

どの要素が大事なの?

いろいろご紹介しましたが、ほかにも、惑星に存在する水の量、自転軸の傾き、離心率(軌道が円形か細長い楕円か)、大気や海の流れ方などなど、生命生存可能な惑星の条件はとてもたくさんあります。(実は私は、この中で自転軸の傾きと大気の成分に着目して研究していました。)

なんかややこしいですね。つまるところ、その要素が多すぎて、個々の惑星に関して踏み込んだ議論がまだできる段階ではない、というのが現状です。

なので、その不確定要素をつぶしていくために、今後いろいろな観測を行っていくわけです!今回の発見で面白いポイントは、同じ恒星の周りを周っている岩石でできた惑星同士の環境を、今後観測を通して比べられるようになる点だと、私個人として思います。

太陽系の水星も金星も火星も、地球と同じ岩石惑星でありながら、環境は全く異なります。トラピスト-1の惑星たちは太陽系の惑星たちと似た環境を持っているのでしょうか?それとも、全く違う素顔を見せてくれるのでしょうか。それはこれからさまざまな観測結果を組み合わせてみて、初めて分かると期待されます。

型破りな系外惑星

系外惑星が最初に発見されて22年、観測の技術が発達していくのにともなって、太陽系にはないさまざまな姿の惑星が発見されてきました。恒星のすぐ近くを周る木星サイズの惑星「ホット・ジュピター」、地球よりも重い岩石惑星「スーパー・アース」、楕円の軌道で恒星に極端に近づいたり遠ざかったりを繰り返す「エキセントリック・プラネット」などなど、たくさんあります。それに伴って、私たちがもっている惑星の常識が次々と破られてきました。もしかしたら、これからの観測でもっと、私たちの知らない新しいタイプの惑星が発見されるかもしれません。

そんないろいろな惑星の素顔を明らかにするために、2018年にNASA(アメリカ航空宇宙局)がある望遠鏡を宇宙に打ち上げます。その名は「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」、略称JWSTです。(編集部2019年2月追記:打ち上げは延期になりました。文末の注をご参照ください)

このJWSTのミッションの一つに、今までよくわからなかった地球サイズの系外惑星の大気を調べることも含まれています。このJWSTは、温室効果ガスがあるかだけではなく、生命の間接的な指標になりうる大気(メタンなど)も調べます。JWSTに関して、次の小熊のブログで詳しく紹介いたします。

今までの惑星科学者の目標は、どんどん新しい系外惑星を見つけることでした。しかし、これからは太陽系の惑星と同じように、系外惑星の個性を探っていく時代になりつつあります。JWSTを始めとする望遠鏡の成果を追いながら、新たな世界観が開ける瞬間を感じてみてはいかがでしょうか。


2019年2月追記
この記事の公開後、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の打ち上げは2021年以降に延期になりました。

参考文献

・The Extrasolar Planets Encyclopaedia (http://exoplanet.eu)

・Planetary Habitability Laboratory (http://phl.upr.edu/projects/habitable-exoplanets-catalog)

・Adams, Fred C., Gregory Laughlin, and Genevieve JM Graves. "Red dwarfs and the end of the main sequence." Revista Mexicana de Astronomia y Astrofisica Conference Series. Vol. 22. 2004.

・Gillon, Michaël, et al. "Temperate Earth-sized planets transiting a nearby ultracool dwarf star." Nature 533.7602 (2016): 221-224.

・Gillon, Michaël, et al. "Seven temperate terrestrial planets around the nearby ultracool dwarf star TRAPPIST-1." Nature 542.7642 (2017): 456-460.

・Kasting, James F., Daniel P. Whitmire, and Ray T. Reynolds. "Habitable zones around main sequence stars." Icarus 101.1 (1993): 108-128.

・Kervella, Pierre, et al. "The interferometric diameter and internal structure of Sirius A." Astronomy & Astrophysics 408.2 (2003): 681-688.

・Kopparapu, Ravi Kumar, et al. "Habitable zones around main-sequence stars: new estimates." The Astrophysical Journal 765.2 (2013): 131.

・Leconte, Jérémy, et al. "3D climate modeling of close-in land planets: Circulation patterns, climate moist bistability, and habitability." Astronomy & Astrophysics 554 (2013): A69.

・Shields, Aomawa L., Sarah Ballard, and John Asher Johnson. "The habitability of planets orbiting M-dwarf stars." Physics Reports 663 (2016): 1-38.

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