イグノーベルも予想!オスマウスの涙には、オスらしさを高めるフェロモンが含まれる?!

こんにちは、科学コミュニケーター田代です!
イグノーベル賞に関してさまざまな研究をリサーチしていた時のことです。

こ、これは!!
その時目に飛び込んだのは、

オスマウスの涙には、オスらしさを高めるフェロモンが含まれる」ということを発見した。

という研究。

何っ?!
オスらしさとはどういうことだろう?
オスマウスが泣くといいってこと?
人間も泣けば男らしくなるのかな?
でも昔、「男が泣くな!」と言われたことがあるんですけど...

などなど、妄想しだすと止まりませんね!

とっても惹かれたので、ぜひ先生から直接聞きたい!と思い、
東京大学大学院農学生命科学研究科の東原和成先生にお会いしてきました。
今日は、先生から伺ったお話をキュッとまとめてお届けします。

みなさんは、フェロモンって聞いたことありますか?
同種の個体に働きかけて、その行動や情動に影響を与える作用がある物質のことで、動物の体内でつくられた後に汗や唾液、尿などとともに体外に放出されます。

東原先生らの研究によって、なんとマウスの涙にはESP1というフェロモンが含まれていることが判明。そして、その作用と役割が明らかになったのです!

まず興味深いのは、このESP1が分泌される器官です。

どこだと思いますか?

先生も、はじめは尿とともに放出されているのではないかと推測されていたのだそうです。
ところが顔周辺の分泌腺を調べた時に反応が見つかり、しかも眼窩外涙腺(がんかがいるいせん)という涙腺から分泌されていることが判明。
眼窩外涙腺は人間にはないせいか、その研究は世界的にも例がなく、この発見も偶然のことだったとか!

なぜそんなところからフェロモンが?!と疑問に思い、東原先生のお伺いしたところ、

「顔周辺からフェロモンが分泌されるのは、顔が動物にとって、コミュニケーションの中心になる重要な部分であるからではないか」

とのことでした。なるほどー

このフェロモンはESP1と名付けられました。
研究を重ねた結果、オスマウスのみが持っており、オスが泣く(涙腺から分泌される)ときに、その効果が発揮されることも明らかになりました。

まず異性であるメスマウスに対しては、鼻の中にある鋤鼻器(じょびき)[MT1] に作用してメスの性行動を促進させ、そのオスを交尾相手として受け入れるようになります。つまり、ESP1はオスマウスにとって性成熟の証になっているということです。

種の存続のために重要なフェロモンだったのですね!
残念(?)ながら鋤鼻器は人間では機能していないとされています。

さらに、このESP1はオスマウス同士にも影響を与え、その影響は自分自身も受けるということが明らかになりました。
それは、オスが泣く(涙腺から分泌される)と、相手のオスマウスの攻撃性を高めるという効果です。よく考えたら自分もオスマウスなわけですから、自分の攻撃性も高めてしまうわけです!
何ということだ!

そうして縄張りを争ったり、個体の強さを競っている・・・のかどうかは分かりませんが、このフェロモンによってメスを引き寄せ、オス同士で戦う...。
マウス業界にとっては、これぞオスらしさであり、生存競争のドラマが展開されているのですね。

この一連の研究によって、涙(涙腺)からフェロモンが分泌されるという事実と、他の動物でも涙(涙腺)に何かしらのフェロモンが分泌されているのでは、ということが示唆されました。
そして、このESP1というフェロモンが異性にだけでなく、自身を含む同性にも影響を与えているなど、これまで知られていなかった新たな多くの知見を提供し、フェロモンに関する新しい概念として発表されました。
大発見に感動です!

さて、さいごに気になるのは、同じように人間の涙にもフェロモンが含まれ、何かしらの効果があるのではないか?
ということです。
これについても東原先生に伺いました。

海外の研究者が女性の涙を男性の鼻の入り口に付着させ、嗅がせたところ、性欲が減退したという報告をいそうです。
しかし、この研究だけでは、涙に含まれるフェロモンが影響しているのかどうかは、定かではないとのことでした。

世の中には色々な研究があるのですね。

ユニークな着眼点に加え、多くの新しい知見を見出した東原先生の研究は、笑って、そして考えさせるという、まさにイグノーベルの真髄を見たかのような素晴らしい研究でした!

もう間もなくイグノーベル授賞式。
お忙しいところ快く取材を受けてくださった東原先生もとへ、イグノーベル賞受賞のお知らせが届くことを心より願っています!

イグノーベル賞の発表は日本時間の9月15日(金)朝7時からです!

「進化・生態」の記事一覧