今年のお月見は土星の「月」にも注目しよう!
土星の「月」から学ぶ、物理学と人間関係??

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みなさんはじめまして!科学コミュニケーターの高知尾です。

先日9月15日、土星探査機カッシーニが20年の旅を終え、土星本体に突入する形でその運用を終えました。私はNASAの専用チャンネルで最後の信号が到達する瞬間を見届けましたが、研究者が予想した時刻どおりに徐々に信号が減衰していく様子を目の当たりにして、人類の英知に感動を改めて覚えました。一方で、その計算をするために必要な土星の大気の情報をこれまで得てきたのはカッシーニ自身です。もちろん地球から指令を送ってはいるのですが、そこには自らの最期を自らで決めたカッシーニの意志のようなものを感じてしまいました。

前回はカッシーニの業績を科学コミュニケーターの渡邉が紹介しました。

土星の「月」(=衛星)は62個もあるので全てを紹介することは出来ませんが、今回はその中でも私が面白いと感じたちょっとマニアックでちょっと人間味(?)のある「月」をいくつかご紹介いたします。

ぜひみなさんの推しメンならぬ「推し月」を見つけてみてください。

月の並び.jpg 土星に近い側から右へ「月」の並び

1)ヤヌス&エピメテウス 〜軌道共鳴と夫婦の関係〜

カッシーニの旅の後半で、それぞれ近接撮影したヤヌスとエピメテウス。それが下の画像です。お互いにいびつでクレーターがあるなど、見た目は似ているようです。

Janus_credit.jpg ヤヌス

Epimetheus_credit.jpg エピメテウス

カッシーニ以前から知られていたことですが、この2つの「月」には、太陽系では他には見つかっていないある特徴があります。実は、この2つの「月」は土星の周りをまわる公転軌道を共有しているのです。どういうことかと言いますと、この2つの「月」は、平均軌道半径151,422kmと151,472kmという50kmしか離れていない2つの軌道を、二人で仲良く使っているのです。

たとえばエピメテウスが外側の軌道をまわっていたとすると、ヤヌスはじきにエピメテウスに追いつきます。これは公転軌道の内側ほど速度が速いからです。2つの「月」の大きさは50kmよりも大きいため、ヤヌスがそのままの速度で進むと、エピメテウスを追い越す際に接触事故を起こしてしまうところですが、実際はそうはなりません。ヤヌスとエピメテウスはお互いの間に働く重力によって惹かれあい、それまで乗っていた軌道をそれぞれ離れ、同時にそれまで相手が乗っていた軌道に乗り移るのです。そして、それまでヤヌスがエピメテウスを追いかけていたのが、エピメテウスの方が内側の軌道に移って速度の方が速くなったため、ヤヌスを置いて逃げていくのです。

こうして1組のカップルの軌道交換が完了します。これが4年毎に繰り返されるのです。

人生という同じ道を添い遂げると決めながらも時に衝突しそうになる。毎朝同じ顔を見て、愛しい日もあれば憎らしい日もあるでしょう。でも、最終的にはお互いの影響を受けながら衝突しないようにうまくやっていく道を選び取る。

まるで夫婦のようではありませんか?

みなさんはどう感じましたか?ちなみにNASAのホームページではこの2つの「月」を姉妹と例えていました。人類とは全く関係の無い衛星の営みを身近な関係に例えて眺める。これも宇宙の1つの楽しみ方ではないでしょうか。

ヤヌスイラスト.jpg

2)ディオネ&エンケラドス ~足並みそろうは元気の源~

カッシーニがその旅程で5回のフライバイを経験したディオネ。密度が比較的高く岩石を含む氷が主成分のこの「月」は、カッシーニの探査によって表面に極めて薄い酸素の大気があるらしいことがわかりました。(フライバイは天体の重力を利用して探査機を加速させたり、方向を変える技術です)

Dione_credit.jpg ディオネ

Enceladusstripes_credit.jpg エンケラドス

また、ディオネは、ヘレネとポリデウケスという2つの小さな「月」を常に引き連れています。ヘレネとポリデウケスのいる場所は土星とディオネの間にできた「ラグランジュ点」という位置で、ごく軽い天体ならば、そこに安定して留まっていられます。ディオネとヘレネとポリデウケスは、常に正三角形の位置関係を保ちながら土星の周りをまわっているのです。

また、ディオネにはもうひとつ、他の「月」との間に力学的に深い関係性があります。その相手はエンケラドスです。

エンケラドスはその下に内部海や熱水噴出孔があるといわれ、生命の存在も期待される土星の「月」です。しかしながら、エンケラドスは太陽から遠く、大気温度も絶対零度に近く極めて低温です。なぜ凍てつかずに、地下に海が存在できるのでしょうか。

そこで登場するのがディオネです。ディオネの公転周期は、エンケラドスの公転周期のちょうど2倍で、2つの「月」の最接近が、いつも軌道上の同じ位置で起こります。このような軌道共鳴関係の相棒をもつ「月」の軌道は、より扁平な楕円軌道になるため、公転する間に働く土星からの重力の変化も大きく、天体の変形によってより大きな摩擦熱(潮汐加熱)が生じます。

エンケラドスは、ディオネという軌道共鳴関係の相棒がいるおかげで、多くの潮汐加熱が得られて、地下の海が存在できていると考えられています。

波長が一致しているわけではないけど、2周にいっぺん足並みが揃う。そしてその相棒に生命が誕生するようなエネルギーを生み出すために、無くてはならない存在となっている。土星の「月」の関係は人間関係並みに複雑ですね。

ディオネイラスト.jpg

3)イアペタス ~ツートンカラーの謎~

探査機カッシーニの名前の由来となった天文学者ジョバンニ・カッシーニが1671年にこの「月」を見つけたとき、土星の西側でしか観測できず東側では消えたように見えました。

Iapetus_credit.jpg イアぺタス

その後、ジョバンニ・カッシーニはイアペタスが地球の月のように公転周期と自転周期が同じで、土星に対していつも同じ面を向けている。さらに、土星の東側にあるときに地球から見える面は黒いから見えにくいのだと考えました。

1981年のボイジャー2号によってその説は正しいことがわかりましたが、通りすがりのボイジャーはイアペタスの片面までしか撮影できませんでした。

その後、2007年土星探査機カッシーニが土星周回軌道に入り近接撮影したことで初めて明るい面と暗い面の両方を観測してジョバンニ・カッシーニの予言を裏付けることに成功しました。

この黒い物質は、イアペタスのお隣の「月」であるフェーベにも含まれ、フェーベ由来の有機物ではないかと考えられていますが詳細はまだ謎です。

ジョバンニ・カッシーニが発見した「月」イアペタスは私たちがこれまでに見たことのない「月」の世界を見せてくれました。また、その名を冠した探査機は自らそれを確認しましたが、まだ謎の部分も残っています。この謎は次の世代の研究者の探究心をかき立てています。

イアペタスイラスト.jpg

今回は5つの「月」を取り上げましたが、他にも面白い「月」がたくさんあります。

こんなにも多様で個性的な「月」がどうやって形成されたのか気になりませんか?

このブログのトップの写真をみるとミマスからレアまでおよそ小さい順に並んでいることに気づくかと思います。これが謎の一部を解き明かすヒントかもしれません。

土星の「月」の数が多く多様である理由は諸説ありますが、今回のイベントでは土星の「月」の一部は土星の初期の○○○から生まれたという説を紹介しています。○○○には何が入るのでしょうか。

その答えは是非、日本科学未来館へお越しの上ご確認下さい。

http://www.miraikan.jst.go.jp/event/1708022221777.html

未来館では9月13日(水)〜10月6日(金)まで「中秋の名月 未来館でお月見!2017」を開催しています。本イベントの中では、土星の「月」を取り上げています。カッシーニを始めとした探査によってわかった土星の「月」の多様性とその起源をパネル展示とミニトークでご紹介します。

このシリーズもいよいよ次で最終回です。ラストはカッシーニが最も多くフライバイを行い、着陸機も送られた雨降る「月」タイタンについて、科学コミュニケーターの渡邉がご紹介する予定です。どうぞご期待ください。


参考文献:

NASA/JPL "About Saturn & Its Moons" (URL)

土星系の小型衛星達:内部構造と表層進化 P.271 平田,宮本 (URL) 
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