aniani号外「覆される性の常識」

このエントリーをはてなブックマークに追加

くまこバーン!(扉をあける音)ふくいさん!聞きましたか、今年のイグノーベル賞!

ふくい:聞きました。トリカヘチャタテの"性器の大発見"。詳しい説明は、イグノーベル賞チームの書いた記事をご覧いただきたいですが、まあ、要はメスに陰茎がついていて、オスに膣がある、と。外部形態をとりかえっこしちゃった虫の話ですね。

くまこ:そう!これはaniani号外モノですよ!!

 

20170918_kumagai01.jpg

 

★★メンバー★★
くまこ(熊谷香菜子): ウミウシ好きの科学コミュニケーター。みんなウミウシだったら平和なのにな。
ふくい(福井智一):アフリカ帰りの科学コミュニケーター。 サバンナに帰りたい。
あきこ(髙橋明子):不動産物件の間取り図が好きな科学コミュニケーター、もちろん生物も好きです。

 

■アレのあれこれ

ふくい:トリカヘチャタテの何が面白いかって、ほとんどの動物でオスはメスを獲得するために闘争や求愛行動でオス同士の激しい競争をし、メスは優秀なオスを厳しく選ぶのに、トリカヘチャタテでは立場が逆になってるんですね。それが立場だけじゃなくて、交尾器の形まで逆転している。

イグノーベル賞で、しかも"アレな話"ということでイロモノ的な扱いを受けているかもしれませんが、これはガチでスゴイ発見ですよ!

くまこ:そうですよ!我々はアレな話だからって盛り上がってるんじゃないんですよ!

ふくい:この立場と交尾器の逆転がどのような進化的プロセスで起きたのか考えるとコーフンして夜も眠れませんよ!

あきこ:生殖器は、生物学にとって重要な要素ですからね。ずっとこれの形を追いかけている研究者だってたくさんいます。

ふくい:ええ、まさしくこれが種が分かれる「鍵」になっているわけですから。

 

くまこ:鍵といえば、オサムシですね。詳しくはぶっちーがこちらで記事にしていますが、大きさが似ていて分布の近い2種のオサムシを見てみると、オスの交尾器についている「交尾片」とそれが収まるメスの「膣盲嚢」の形が全然違うんです。まさに「鍵」と「錠前」です。同種じゃないとうまく交尾できません。

あきこ:昆虫達は交尾器でいろんなことをしていますよね。例えば、カワトンボの仲間のオスは、交尾器についているフックみたいなものがついてます。これで先に交尾したオスの精嚢(精子の入った袋)をメスの生殖器から掻き出します。哺乳類みたいに精液だと掻き出しは難しいけど、袋だから可能なんですねー。

くまこ:オスは大変ですね。

20170918_kumagai02.jpg 

 

ふくい形態だけでなく様式が面白いやつも多いです。トリカヘチャタテはメスがオスから栄養を吸い取りますが、ショウジョウバエは、オスが交尾の時に、栄養どころか毒を含んだ精液を送ります。この毒は他のオス由来の精子を殺す作用があるのですが、メスの寿命をも縮めてしまいます。

くまこ:そんなぁ。メスが早く死んじゃったらオスだって困るでしょう!

ふくい:卵を産むと毒も一緒に排出されるので、毒には「いいから早く俺の子供だけ産め」というメッセージが込められていると解釈されています。

くまこ:うわ、さすがだわ。

 

あきこ:カタツムリも似たようなことがありましたっけ。

ふくい一部のカタツムリは雌雄同体、すなわち一匹でオスでもありメスでもあります。なので交尾では互いの精子を交換するのですが、ここでズルをするのです。雌雄同体だけど、卵を産むのは高いコストがかかる。同じコストをかけるのなら、オスとして数打った方が多くの子孫を残せるので、受け取った精子を溶かしてしまい、自分では産卵しないというズルをするのです。

くまこ:でも渡した相手だって精子を溶かしちゃうでしょ?そうしたら子は生まれなくなっちゃう。

ふくい:そうです。これでは困るので、自分の精子だけは受精させるために、「恋の矢」と呼ばれる炭酸カルシウムで出来た槍を相手に突き刺して粘液を送り込みます。すると相手は精子を分解しにくくなり、無事自分の子孫を残すことが出来るのです。

くまこ「恋矢(れんし)」ですね。うーん、なんかすごい無駄なことをしているような......

あきこ:もし恋矢が出現していなかったら、カタツムリ全滅だったじゃないですか(笑)

ふくい:しかも、恋矢は自分の精子の受精を助けるだけじゃなくて、相手の寿命も縮めるんですよ。

くまこ:うわ、またしても嫁殺し!

ふくい相手が別の個体と交尾する前に死んでしまえば、結果として自分の子孫の数を増やせるから、と考えられています。

 

くまこ:ふーん。でも、ウミウシだって色々あります、負けちゃいませんよ。

ふくい:なんの対抗意識ですか......

くまこaniani創刊号で語りましたけれど、生殖器を相手に突き刺したあと、ちぎって相手の体内に置いていくやつがいます。傷つくのはオスの側です。とはいえ、ウミウシは雌雄同体だからどちらも自分のをちぎるんですが。

ふくい:あぁ、タコにもそういうのがいますね。タコは8本ある腕のうち右の第3腕が交接腕といって、交接(タコの交尾は交接と呼ぶ)のとき、精子が詰まった袋=精莢(せいきょう)を、この交接腕を使ってメスに受け渡しますが、アミダコというやつは、精莢を渡した交接腕を切ってメスの体内に残していくそうですね。

あきこコガネグモの中にも、生殖につかう腕を切ってメスの体内に残していくやつがいますね。

くまこ:むむっ!......じゃあ、メス側の受け取り口がちゃんと開いていなくて、「だいたいこのへん」って感じで脇腹に適当に突き刺して精子を送り込んでいくってのはどうですか!ウミウシの中にはそういうのもいます。

あきこ:雑なことするなぁ。

 

ふくい:殺伐とした話が続いていますが、平和的(?)な例もありますよ。実は、鳥の多くはペニスを持っていません

くまこ:ん?じゃあどうやって交尾するの?

ふくい:鳥の多くは糞尿の排泄、交尾、産卵をすべて「総排出口」と呼ばれる穴を通じて行います。交尾は雌雄の総排出口を合わせて精液を受け渡すだけで、固定する装置が何もないのです。だから、雌雄がちゃんと合意しないとうまくいきません

あきこ鳥は両親が協力して子育てする種が多いことも、交尾の様式に関係しているのかもしれませんね。

 

☆☆美しい写真で、一旦、目を休めましょう☆☆

20170918_kumagai03.jpg

(アフリカのヘビクイワシのつがい 撮影:ふくい)

 

 

■性のあれこれ

あきこ:「性の常識が覆された」とか言いますけど、生物界を見渡せば、人間の常識感覚がいかに狭いかって話ですよ。

くまこ:そうそう。爬虫類は生まれる時の温度で性別が決まるし、環境で性転換するっていうものもいっぱいいるし。

クマノミは、群れで一番大きな個体がメス、次点がオス、残りは未成魚っていう構成が決まっていて、メスがいなくなると次点だったオスが性転換をしてメスに昇格。未成魚の中から1匹が成熟してオスになるんだよね。

ふくい:「ファインディング・ニモ」では冒頭でカクレクマノミのお母さんがいなくなっちゃうんですよね。

くまこ:ええ、カクレクマノミも一番大きな個体がメスです。だから......いや、もう説明しませんよ。

あきこ:リアルに考えるとややこしいストーリーになりますね......まあ映画が生態に忠実である必要はないですから。

 

くまこ:ええと、他にもね、オキナワベニハゼっていう、3cmくらいの小さなハゼは、一夫多妻のハーレム型で暮らします。その集団は、一番大きな個体がオスで、あとはみんなメスです。このハーレムからオスを取り除くと、次点の個体がメスからオスに性転換をします。

あきこ:オキナワベニハゼは、ハーレムをつくるから大きい方がオスなんだ。

くまこ:そう。そして面白いのはこの後。性転換が起きてオスが現れた後、再び一番大きかったオスをその集団に入れると、どうなるか。......さっきオスになったやつが、メスに戻ります!

ふくい:変幻自在!

くまこ:しかも変化が早い!30分で行動が変わって、生殖腺も5日~10日で変われるそうです。オスだのメスだの、そんなものは状況に応じて変えればいいんですよ。

 

ふくい:雌雄を戦いで決めるものもありますね。海に住む扁形動物(プラナリアの仲間)のヒラムシは雌雄同体なんですが、交尾の時はお互いのペニスを剣のように振るって戦います。負けてペニスを刺されてしまったヒラムシは、雌として産卵します。文字通り雌雄を決める戦いですね。

くまこ:同じ雌雄同体でも、ウミウシは戦うことなく穏やかに精子を交換しあいます。タイミングが合えば、三つ巴にもなりますよ。オスの器官とメスの器官が離れているアメフラシの仲間なんて、チェーン状にもなれます(くわしくは創刊号を見てね)。もはやオスとかメスとか関係ないんです、他者さえいればいい。

 

あきこ:オスとメスだけとは限りませんよ。もっと小さな生物たちに目を向ければ、ミドリゾウリムシは4つ性別があるし、テトラヒメナは7つですよ。オスとメスなら異性に出会う確率は50%だけど、ゾウリムシなら75%、テトラヒメナなら86%です。出会いのチャンスが広がりますね。

 

ふくい:うーん、そう考えると、人間は考慮することが多すぎて、実に面倒な生き物ですね。人間の方こそ常識はずれかもしれない。

あきこ:ほんとですよ。広い生き物の世界を見渡せば、人間の常識なんてちっぽけなもんです。

くまこ:人間の中だけ考えたって、人によって持っている常識感覚は違うしね。大部屋にいながら大声でこんな話をしている私たちの常識感覚も、どうなんだ、という気がしないでもありません。

......いやぁ、今年のイグノーベル賞は本当に、"人々を笑わせ、そして考えさせてくれる"いい研究でしたね。

 

ふくいあきこ:いい研究でした!

 

20170918_kumagai04.jpg(大部屋で語り合うチームaniani)

 

※コメントをする際は「ブログへのコメント投稿について」をご覧ください

※「名前」は、ハンドルネームでも構いません

コメントを残す