考えてみよう!光格子時計で重力波を検出できる?できない?

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こんにちは!科学コミュニケーターの坪井です。

高知尾が予想していた重力波が、ノーベル物理学賞を受賞しましたね!ノーベル財団による発表を生中継していた未来館のニコニコ生放送でも大変盛り上がりました。

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私が予想していたのは、光格子時計
前日に発表された生理学・医学賞の受賞テーマが体内時計だったため、「時計つながりで来るかも?!」と思いましたが、来年以降に期待したいと思います!

さて、その光格子時計の予想ブログに、とても鋭い質問をいただきました。


質問です。重力の強さにより、時間の進み方が変わるとのことですが、この精密な光格子時計で時間の進み方のズレを検出することで、そのズレ方の違いを検出して、重力波の検出には使えないのでしょうか?



「光格子時計で重力波を検出できるのか?」というご質問です。

高知尾とともに、他の科学コミュニケーターや知人の研究者の意見も聞きながら考えてみたら、頭をぐるぐるさせる面白い議論に発展しました。

これは、コメント欄の返信では書き切れない!!

ということで、この記事では、私たちが、何をどうやって何を考えて、どういう結論にいたったのかをご紹介します。
(あくまで私たち科学コミュニケーターがわかる範囲で考えたアイデアであって、必ずしも正しくお答えできてないかもしれないことを、ご了承ください。突っ込みも歓迎します)

 

 

結論から言うと...「原理的にはできそう!」です。

はて、「原理的には」...?
どういうことか、詳しくお話していきましょう。


■ そもそも重力波はどうやって検出されている?

科学コミュニケーターブログの中でもこれまで何回か触れていますが、重力波望遠鏡LIGOは、重力波をレーザー干渉計によって空間のゆがみとして捉えることで検出に成功しました。

空間のゆがみとは、このようなイメージ。

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円が縦横に伸びたり縮んだりしていますね。このような変化するゆがみが、画面から飛び出る方向、もしくは、画面の奧へ行く方向に進むのが重力波です。LIGOなどのレーザー干渉計では、垂直に交わる2つの方向を走る光の距離を比べて、重力波を捉えます。

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例えば、上のイラストのように真上から重力波が来た場合、どちらか一方の方向で距離が伸びると、他方では縮みます。このように、2つの経路を走った光の距離の差を使って、空間のひずみを検出しています。具体的には、2つの光の走った距離がずれると、光の干渉により干渉縞というものが現れます。

レーザー干渉計ではその干渉縞の発生から空間のひずみを検出するという原理を使って、感度を大幅にアップさせているのです。


■ 時間のゆがみから重力波を捉える!

光格子時計に話を戻しましょう。
空間のゆがみを捉えられるのがレーザー干渉計ですが、光格子時計で捉えられるのは時間のゆがみです。重力波は「時空間のゆがみの伝搬」ですから、別の見方をすれば時間もゆがみます。

2つの光格子時計を離れた場所におけば、もう一方の時計に比べて「時間が速く進む」か「時間が遅く進む」かを調べることができます。つまり、光格子時計は、レーザー干渉計とは別のアプローチで重力波を検知できるかもしれないのです!ワクワクしてきました。

重力波は発生源から四方八方に広がり、すべての物体を突き抜けて伝わるため、地球上のどこに置いても重力波の影響を受ける時計と受けない時計を配置するのは難しそうです。しかし、重力波は秒速30万kmという、高速とはいえ有限の速さで空間を伝わっていくので、AとBの2つの光格子時計を十分離れた場所に置くと、A地点とB地点での重力波の到着時間がずれます。到着時間がずれれば、時間が速く進んだり遅く進んだりするタイミングもずれるので、このAとBの時間の進み方の差を捉えて重力波の到来を検知できそうです!

20171011_tsuboi_03.PNGどのように時間の進みの差を捉えるかというと...。
そもそも光格子時計は、特定の原子が吸収もしくは放出する光の波が振動する数を数えて時間を測ります。その光の振動は、常に一定のリズムだからです。つまり、AとBの2地点で光が振動した数を比較することで、時間の進み方の差を捉えられます。

下のイラストのように、A地点の光格子時計の中の原子から出る光が5回振動した間に、B地点では4回振動したとしたら、A地点のほうが時間のすすみが速いとわかるのです。

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■ 現在の光格子時計で精度は足りる?

時間が速く進んだり、遅く進んだりをするような時空のゆがみは、重力波以外ではなかなか起こることではありません。
ということは、最低2つの光格子時計があれば、重力波を検知できる...?!

やったぁああああああーーーーーー!!!

と、諸手を挙げて喜びたいところですが、まだ待ってください。

原理的に可能だとしても、現在の光格子時計の感度で足りるのかを確認しましょう。
重力波は、質量をもつ物体が軸対象でない動きをすれば発生しますが、その大きさはごくごく微小です。ブラックホールという、とてつもなく巨大な質量をもつ物体が生み出す重力波でさえ、地球で観測するときには減衰してかなり小さくなってしまうため、LIGOのように大型で高精度な装置がないと観測できません。そのごくごく微小な時空間のゆがみを現在の光格子時計が捉えられるのかは、重要なポイントなのです。

例えば、重力波による時間のひずみが、LIGOが初観測に成功した重力波による空間のひずみと同じ、10-21だと仮定します(本当に空間と時間が同じ程度ひずむのか、すみません、確認できていません。もし詳しい方いたらぜひ教えてください...!)。

その重力波の1周期が1000秒だとすると、時間のずれは...。

    10-21 × 1000 (秒) = 10-18 (秒)

これは、光格子時計の精度と同じです。
つまり、1000秒という長い時間かけて時空間を一回グニャリとひずませるような重力波が地球に降り注げば、現在の光格子時計の感度でも、原理的にはギリギリ捉えられそうです。

ちなみに、LIGOが観測できる重力波の周波数は100 Hz周辺です。これは、周期でいうと0.01秒程度。逆に、先ほど仮定した周期1000秒は、周波数でいうと0.001 Hz。つまり、光格子時計を使えば、LIGOなどでは観測できない低い周波数帯の重力波を観測できそうです。速く振動する(周波数が高い)重力波は捉えられないものの、ゆっくりと振動する(周波数が低い)重力波は、光格子時計の得意分野になるのです。

 

 *

 

以上のことから、光格子時計による重力波検出は、原理的には可能そうだと私たちは考えました。

ただし、原理的には可能であっても、実際に検出しようとすると技術的なハードルが数多く立ちふさがるだろうと思います。

一つだけ取り上げると、光格子時計の安定性のハードルがあります。現在のレーザー干渉計で捉えられる大きさの重力波をつくる天体現象は、1年に一度ほど。貴重なタイミングを逃さないためには、光格子時計が安定して長期間動き続けることが必要です。2016年8月のJST・東大・理研の共同プレスリリースによると、光格子時計は3日間の連続稼働が実証されています。今後、年スケールで安定して稼働するようになれば、重力波の検出器になりうることでしょう。これは、光格子時計を地殻変動のセンサーとして使う際にも当てはまるハードルです。

 

皆さんは、私たちの考えを聞いてどのように思われたでしょうか?

研究者は、この何十倍・何百倍も精緻な考えで、新しい発見や発明のためのアイデアを日々練っているのかと思うと、そのすごさを感じずにはいられません。
「こうしたらもっと精度よくできるかも!」「こんなハードルもあるかもね」「いやいや、その考えは間違ってるでしょう~」など、良かったら皆さんの考えを聞かせてくださいね!

 

 

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この記事への4件のフィードバック

周期が1000秒の天体現象ってどんなものが理論的に予想されるんだろう...
検出できる宇宙空間の範囲と、その中で事象が起こり得る頻度に興味があるなぁ...

こんにちは。ご参考まで、専門的かもしれませんがこんな論文が出版されているようです。私も専門家ではないので詳細はわからないのですが…。
Gravitational wave detection with optical lattice atomic clocks
S. Kolkowitz, et al. Phys. Rev. D 94, 124043 (2016)
https://journals.aps.org/prd/abstract/10.1103/PhysRevD.94.124043

Yutakaさま

コメントありがとうございます!
直接的な回答でなくて申し訳ありませんが、高知尾がどんな天体現象だったら現在の光格子時計で観測できそうなのか、ざっくりと1例を計算してみたところ、
「1億3千万光年先(10/16に発表された中性子星の合体と同じ距離)にある、600太陽質量の天体2つから、1000秒周期の重力波がやってきた場合」だそうです。
宇宙は広いといえども、本当にどんな現象なのか、私には予想もつきません…。

K さま

論文のご紹介、誠にありがとうございます!
大変参考にさせていただいております!!!!

実際に論文上でも検討されているかと思うと、ワクワクしますよね。未来館の常設展示の中には、自分の願いを科学技術で叶える方法を考える場所があるのですが、新しい科学技術の新しい使い方を想像するのは、楽しいなぁと来館者の方とお話しながら常々感じております。

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