2018年ノーベル生理学・医学賞を予想する② 腸内細菌が医療を変える!?

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こんにちは!科学コミュニケーターの山川です。

櫛田の予想に引き続き、医学・生理学賞の予想、第二弾!早速予想します!

私の予想は、お腹の中に共生している腸内細菌の解析法を確立し、腸内細菌叢がその人の健康状態などにどう影響をするのかの研究に貢献しているこちらの方です!!!
最大の推しポイントは、病気や体質の環境要因の一つとして、腸内細菌叢が影響を与えていることを科学的に明らかにしたところです。腸内細菌叢研究は今後の医療などを変える可能性があります!

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腸内細菌叢の生理的・機能的な研究
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ジェフェリー・ゴードン(Jeffrey I. Gordon)博士
アメリカの微生物学者
1947年生まれ。
ワシントン大学(セントルイス)所属。
Photo by Dr. Jeffrey I. Gordon

<腸内細菌研究は難しい?>
 最近よく「腸内細菌」という言葉を聞きますよね?とっても身近な言葉になりつつありますが、実はその腸内細菌が何者で、何をしているかについて、現段階でわかっていることはごく一部なのです。なぜなら腸内細菌の研究はとっても難しいから。腸内細菌研究が難しいのには、このような理由があります。

① 数や種類が膨大すぎる!
皆さん、自分のお腹の中にいる腸内細菌の数を想像したことはありますか?お腹の中に細菌がいること自体、あんまり想像したくないですよね(笑)。実は、私たちのお腹の中には約100兆個、約1000種類の腸内細菌が生息していると言われています。ちなみに、私たちの体は約40兆個、200種類の細胞でできているのだとか。...そうです。数でも種類数でも私たちの体の細胞よりも腸内細菌の数のほうが多いのです。このように数も種類も多い腸内細菌を解明していくことは非常に根気のいる研究なのです。

② 培養することが難しい!
飲みかけのペットボトルを翌日まで常温で放置していると、細菌の数がすごいことに...!なんて聞いたことはありませんか?細菌は生息地をあまり選ばず、簡単に増えてしまうというイメージが強いかもしれません。しかし、腸内細菌の培養は実はとても難しいのです。私たちが生きていくには大気中の酸素が必須ですが、細菌の中には酸素を必要としない種類もたくさんいます。中には酸素があると生きていけないという種類もいるのです。私たちの腸内も奥に進むにつれ酸素が少なくなっていく世界なので、腸内細菌の中にも酸素があると生きていけないものが多く存在します。こうした細菌は、空気のあるところでは増えず、研究することができません。他にも、腸内細菌を培養するには腸内のさまざまな条件を再現しなければならず、非常に難しいのです。

③ 関係がとても複雑!
腸内細菌は宿主(腸内細菌を宿している生物)にさまざまな影響を与えていることが徐々に明らかになってきました。また、研究が進むにつれて腸内細菌と宿主は単純に一本線で表せる関係ではないということも明らかになってきました。腸内細菌同士でも影響を与え合い、腸内細菌と宿主の影響も一方向だけではないということがわかってきました。約1000種類の腸内細菌と宿主の関係を解き明かそうとしたらと考えると......やっぱり難しい研究だということがお分かりいただけるかと思います。

<地道な腸内細菌の研究>
 腸内細菌の研究は難しくて大変だとお伝えしてきましたが、そんな腸内細菌の研究にも果敢に挑んできた研究者がたくさんいます。1719年に微生物学の父とも呼ばれるレーウェンフックが自作の顕微鏡でヒトの糞便から腸内細菌を発見したときを起点とすると、腸内細菌の研究の歴史は約300年になります。ですが、解析の準備段階である培養ができるようになり、どんな細菌がいるのか少しずつわかってきたのは、150年以上もたった1880年代に入ってから。1950年以降、培養できる細菌の種類がさらに増えることで、年齢による腸内細菌バランス変化や、長寿や病気と腸内細菌バランスとの関係などが解析できるようになってきました。腸内細菌と宿主の健康との関係が注目されるようになってきたのです。

<培養できない細菌も研究>
長い歴史の中で培養できる細菌も増えましたが、生きた腸を再現することは非常に難しく、培養できない細菌がまだ80%以上を占めています。また、腸内細菌叢の研究では個々の細菌の役割だけでなく、腸内細菌叢全体のバランスが重要視され始めました。そこで培養が難しい腸内細菌も含めて解析するために、ゴードン先生は「メタゲノム解析」という新しい手法を考案しました。
これまでの解析では、腸内細菌を1種類ずつ培養してDNA解析を行い、代謝物を調べていくことで、その腸内細菌の種類や機能を調べていました。しかし、培養できない細菌が大多数を占めていたため、これまでの研究手法で見えていたのは氷山の一角でした。一方で、メタゲノム解析は、腸内細菌一つ一つを解析するのではなく、腸内に住んでいる多様な腸内細菌のゲノム(遺伝情報)をひとつの集合体として解析して、腸内に住む腸内細菌集団が全体としてどんな機能を持っているのかを研究するという手法です。

メタゲノム解析ではまず、糞便から腸内細菌叢のDNA(さまざまな細菌のDNAが混ざったもの)を抽出します。次に、全てのDNAをまとめてどのような遺伝子が書かれているかシークエンス解析します。すると、細菌叢のDNA全体として多く書かれている遺伝子を特定することができます。それによって、腸内細菌叢にどんな種類の細菌が多く生息しているか、どのような機能を持った細菌が生息しているかを調べることができます。
つまり、培養できるかどうかに関係なく、腸内細菌叢内の細菌のバランスと機能を解析できるのです。
そして、メタゲノム解析によって細菌種のバランスや遺伝子の組成の解析が可能になったことから、腸内細菌同士や腸内細菌と宿主の相互作用の解析も可能になりました。
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さらには、たとえば特定の病気の人とその病気ではない人の腸内細菌叢を比較すると、腸内細菌のバランスに違いがあることなども徐々にわかってきました。

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<腸内細菌叢の研究でこう変わった!>
メタゲノム解析が開発されたことで、複雑な腸内細菌叢と宿主の関係が少しずつ明らかになりつつあります。ゴードン先生は、メタゲノム解析と無菌条件でマウスを飼育する方法を組み合わせて、肥満や飢餓と腸内細菌叢の関係を中心に研究しています。
ゴードン先生のグループは、遺伝性肥満マウスと同じ親から生まれた正常体重マウスでは、盲腸での細菌叢で優勢な2つのグループの細菌たちのバランスが異なることを発見しました。注目されたのはファーミキューテス門の細菌とバクテロイデス門の細菌のバランスです。
肥満マウスではバクテロイデス門の細菌が50%少なく、反対にファーミキューテス門の細菌が多かったのです。また、これらの細菌叢を無菌のマウスに移植すると、肥満マウスの細菌叢を移植されたマウスは体脂肪の増加量が高いということがわかりました。さらに、メタゲノム解析を行った結果、肥満マウスの腸内細菌では宿主が消化できない食物多糖類を分解するための遺伝子を多く含んでいることが明らかになりました。そして、糞便中に残されたカロリーを調べても、肥満マウスの糞中カロリーは少なかったのです。これらの結果から、肥満マウスは正常マウスと同じ餌を同じ量食べても、腸内細菌叢の違いによってカロリーを多く摂取してしまうと考えられています。
このように腸内細菌叢の研究が進むことによって、世界的に大問題となっている肥満や飢餓の新しい解決策が見つかるかもしれません。

腸内細菌の研究は世界中で活発に行われており、注目を集めています。そして、これまで原因がはっきりとわかっていなかった数多くの疾患に、腸内細菌叢が関わっているという研究報告が続々と挙がっています。そうしたなかには、食生活とのかかわりが深そうないわゆる生活習慣病だけでなく、特定のタイプのがんなどもあります。

私も腸内細菌研究によって、まだ解明されていない疾患の解明や治療に新しい光がもたらされることを期待しています。皆さんも、アツいアツい腸内細菌叢の研究に注目です!

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【取材協力】
早稲田大学 理工学術院 先進理工学研究科  服部正平 教授

【参考文献】
1.Ley RE et al.,Proc Natl Acad Sci U S A, 102, 11070-11075 (2005)
2.Turnbaugh PJ et al., Nature, 444, 1027-1031 (2006)
3.服部 正平ら, 腸内細菌学雑誌, 21, 187-197 (2007)
4.光岡 知足, 腸内細菌学雑誌, 25, 113-124 (2011)
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