2018年ノーベル化学賞を予想する② ほしいものは折りたたんで作る!DNAオリガミ

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こんにちは!科学コミュニケーターの鈴木です。
田中の化学賞の予想に引き続き、化学賞の予想、第2弾!早速予想します!

私の予想はDNAオリガミ!DNAを材料として好きな形をつくり、機能を持たせるという新たな化学の分野を創り上げたこのお二人です!


DNAオリガミ技術を利用したDNAナノテクノロジー分野の創成


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(左)
アメリカの化学者、ネイドリアン・C・シーマン(Nadrian Charles Seeman)博士
1945年12月16日生まれ。
ニューヨーク大学所属。
1982年にDNAを人工的に組み上げて構造体を作るDNAナノテクノロジーの基礎となる研究結果を発表。
写真提供:ネイドリアン・C・シーマン博士
(右)
アメリカの生物工学・コンピュータ科学者、ポール・W・K・ロザムンド(Paul W.K. Rothemund)博士
1972年3月14日生まれ。
カリフォルニア工科大学所属。
DNAを折りたたみながら任意の形を作る手法「DNAオリガミ」を2006年に開発。
写真提供:ポール・W・K・ロザムンド博士 (Courtesy of Patrick W. McCray)

※シーマン博士は「DNAを自在に操り、微細な構造を作る」というDNAナノテクノロジーの考え方を創り出しました。DNAオリガミという言葉はロザムンド博士が創り出しています。

※ロザムンド博士はDNAオリガミ(英語ではDNA Origami)というネーミングに少し引っ掛かりを感じているようです。ori-DNAなどの方が良いのではないかなとおっしゃられてました。

 

■1. 折り紙と化学

皆さんは折り紙で遊んだことはありますか?

正方形の紙一枚から、鶴・飛行機・うさぎ・クラゲなどさまざまな形を作ることができます。

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この折り紙の特徴は化学と少し似ています。化学では周期表にある元素を組み合わせながら新しい物質を作ります。折り紙も化学も、正方形の紙や元素など決まった原料から、さまざまな特徴を持つ新しいものを創作するのです。

そして、化学者は元素ではなくDNAを原料とする新しい創作方法を見つけました。それが「DNAオリガミ」です。

 

■2. DNAを使った折り紙のやり方

DNAというものは皆さんもどこかで聞いたことはあるのではないでしょうか。DNAは生物の設計図となっているひも状の分子です。A, T, G, Cという四種類の塩基と呼ばれるユニットが一直線上に並んだ構造をしています。

そんなDNAに化学者が注目したのには以下のようなDNAの特徴があったためです。

  1. 1. 四種類の塩基がいつも決まったペアを作り、組み上がりを予測できる。
  2. 2. DNAの構造についての研究の蓄積がある。
  3. 3. 短めなDNAは簡単に合成ができる

この特徴を利用してDNAサイズの小さい構造(ナノ構造)をうまく作り上げようとした最初の化学者、それがシーマン博士です。シーマン博士はDNAで好きな長さの棒状の形を作り、それを使って足組を作りました。1982年のことです。シーマン博士は、この方法を発展させることで三次元のナノ構造を作れるだろうと予想しました。

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人工的に作ったナノ構造は使い道が非常にたくさんあります。例えば、メタマテリアルのアレイ構成(2013年ノーベル賞を予想する!~物理学賞その3~)、自己組織化によるタンパク質構造解析(2016年 ノーベル化学賞を予想する① 分子が分子をつくる!)、また科学コミュニケーターの伊達による今年のノーベル物理学賞の予想などです。

この最初の研究から20年以上経った2006年、ロザムンド博士はDNAからさらに自由に形を作り上げる方法を開発しました。(文献2)それは、形の骨格となる長い1本のDNAと、折り目やのりの役割をする短いDNAを組み合わせる方法です。

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この方法を使うことで、ロザムンド博士は棒や平面などの単純な形だけでなく、ニコニコマークや世界地図などを作れることを実証しました。

さらに、2009年にはハーバード大学のウィリアム・M・シー博士の研究をきっかけに三次元の好きな形を作れるようになりました。(文献3)

しかし、化学者はただ形を作れば満足というわけではありません。さらに機能も持たせようとします。こうしてDNAオリガミに機能を追加し始めたことで一つの分野として発展し始めました。ここからは、世界中の化学者が達成したその発展をご紹介しましょう。

 

■3. DNAオリガミ化学の発展

素材としてのDNAの利点は、生物学の分野での長年の研究の蓄積がある点です。好きな順番で塩基を並べられるだけでなく、タンパク質や酵素、金属などを一緒に絡ませることもできます。また、DNAのように自動的に形を組み上げる性質があれば、DNAでなくてもよく、RNAも使えます。

※ RNA(リボ核酸)は細胞内でDNA(デオキシリボ核酸)からタンパク質を作るために用意されるDNAのコピーのようなものです。DNAとは構造が少しだけ違います。これらの要素を組みと次のようなこともできるわけです。

 

(1)開け閉めできる箱

ハーバード大学のジョージ・M・チャーチ博士は2012年にDNAオリガミで、分子レベルの箱を作り上げました。(文献4)

箱には蓋がついています。しかし、ただの蓋ではありません。「アプタマー」という鍵穴が付いています。アプタマーは特定のカギ物質とだけ結合することができます(ここはタンパク質を利用しています)。それを利用して、カギ物質が存在する場所まで閉じたまま箱を運び、特定の場所でだけ開くようにできるわけです。

これを利用すれば、例えば、体の中の病気の箇所にだけ薬を放出する「薬箱」ができます。病気以外の場所ではこの薬箱が開かないので病気でない箇所にはダメージがないのです。

20180902_t2-suzuki_05.jpg DNAオリガミで箱を作るだけでなく、開け締めするダイナミックな動きをも追加できることが示されました。さらに2016年には、DNAオリガミ箱を利用して、なかにタンパク質を閉じ込め、その構造を解析することにミュンヘン工科大学のヘンドリック・ディーツ博士とケンブリッジ大学のショース・H・W・ヒアーズ博士が成功しました。(文献5)タンパク質の構造解析は昨年2017年のノーベル化学賞のテーマにもなったほど重要な解析技術です(【詳報】2017年ノーベル化学賞クライオ電子顕微鏡法の開発!)。

 

(2)反応解析チップ

DNAオリガミは好きな形を作りつつ、好きな物質を結合して捕まえておくこともできます。

それを利用して、京都大学の遠藤政幸先生と杉山弘先生は2010年にDNAと酵素の反応を直接観察することに成功しました。京都大学 物質-細胞統合システム拠点iCeMSニュースリリース

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DNAオリガミに機能を追加していくだけでなく、他の物質の機能を調べることもできるということが示されたのです。

DNAオリガミを利用した解析法はさらに広がりを見せています。2017年にはイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校のナラヤナ・R・アルル博士がDNAの塩基の配列をひとつずつ読み取るデバイスを作り上げています。(文献6)塩基の配列を読んでいく技術はDNAシーケンサーの要となる部分です。DNAシーケンサーについては、科学コミュニケーター森脇による、ノーベル賞予想ブログをご覧ください。

 

(3)DNAオリガミを"作らせる"

好きな形や好きな機能が作れるDNAオリガミ、皆さんであれば次は何をしようと考えるでしょうか。

DNAオリガミは生物の細胞のなかにある物質を原料として、形と機能を作っていく技術です。

では、細胞の中でこのオリガミを作ることはできないか──化学者は、こう考えました。

まず化学者は、生体内でDNAのコピーのようなものとして作られるRNAに注目しました。RNAは必要なときに必要な断片が作られるので欲しいパーツを作らせやすいのです。細胞内でのRNAオリガミと呼ぶべきこの研究は、2011年にパリ第5大学のアリエル・B・リンドナー博士とハーバード大学のパメラ・A・シルバー博士によって初めて報告されました。(文献7)RNAはタンパク質と結合する性質があるので、RNAを折りたたむことで欲しいタンパク質を一点に集め、もともとの機能をより高めることに成功しました。

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その後、2016年にはマサチューセッツ工科大学のクリストファー・A・フォイクト博士によってDNAオリガミが生きた大腸菌内で作られています。(文献8)これによって機能のあるDNAオリガミを生物に大量に作らせることができると期待されます。

DNAオリガミが生体内でも使われるようになってきました。それによって細胞内の機能を強化した生物を生み出したり、生物にDNAオリガミ製品を大量に作らせたりする技術が整ってきているようです。

 

■4.化学とDNAオリガミ

DNAオリガミ、いかがでしたでしょうか。

この1、2年の間にDNAオリガミでできることが非常に増えてきました!

化学者からしてみれば、DNAは原子に匹敵する新たなパーツといったところでしょうか。

原子を組み上げる化学のイメージとはまったく異なるDNAオリガミ。化学の可能性を大きく広げたこの分野を最初に切り開いたたネイドリアン・C・シーマン先生、ポール・W・K・ロザムンド先生の業績こそ、ノーベル化学賞にふさわしいのではないでしょうか?

 

■5.参考文献

(1)"DNA Origami: Scaffolds for Creating Higher Order Structures", Fan Hong, Fei Zhang, Yan Liu and Hao Yan, Chemical Reviews 2017, 117, 12584-12640.
URL: https://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/acs.chemrev.6b00825
DNAオリガミの成果をまとめた2017年の論文です。

(2)"Folding DNA to create nanoscale shapes and patterns", Paul W. K. Rothemund, Nature 2006, 440, 297-302.
URL: https://www.nature.com/articles/nature04586
ロザムンド博士がDNAオリガミを発表した論文です。

(3)"Self-assembly of DNA into nanoscale three-dimensional shapes", Shawn M. Douglas, Hendrik Dietz, Tim Liedl, Björn Högberg, Franziska Graf and William M. Shih, Nature 2009, 459, 414-418.
URL: https://www.nature.com/articles/nature08016
シー博士がDNAオリガミの三次元化を発表した論文です。

(4)"A Logic-Gated Nanorobot for Targeted Transport of Molecular Payloads" Shawn M. Douglas, Ido Bachelet and George M. Church, Science 2012, 335, 831-834.
URL: http://science.sciencemag.org/content/335/6070/831.long
チャーチ博士が開け閉めできるDNAオリガミ箱を発表した論文です。

(5)"Design of a molecular support for cryo-EM structure determination", Thomas G. Martin, Tanmay A. M. Bharat, Andreas C. Joerger, Xiao-chen Bai, Florian Praetorius, Alan R. Fersht, Hendrik Dietz and Sjors H. W. Scheres, Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 2016, 113, E7456-E7463.
URL: http://www.pnas.org/content/113/47/E7456.long
ディーツ博士とヒアーズ博士がタンパク質を解析するDNAオリガミ箱を発表した論文です。

(6)"DNA Origami-Graphene Hybrid Nanopore for DNA Detection", Amir Barati Farimani, Payam Dibaeinia and Narayana R. Aluru, ACS Applied Materials & Interfaces 2017, 9, 92-100.
URL: https://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/acsami.6b11001
アルル博士がDNAを読み取れるDNAオリガミデバイスを発表した論文です。

(7)"Organization of Intracellular Reactions with Rationally Designed RNA Assemblies", Camille J. Delebecque, Ariel B. Lindner, Pamela A. Silver and Faisal A. Aldaye, Science 2011, 333, 470-474.
URL: http://science.sciencemag.org/content/333/6041/470/tab-pdf
リンドナー博士とシルバー博士が細胞内でRNAオリガミを作り上げた論文です。

(8)"Genetic encoding of DNA nanostructures and their self-assembly in living bacteria", Johann Elbaz, Peng Yin and Christopher A. Voigt, Nature Communications 2016, 7, 11179.
URL: https://www.nature.com/articles/ncomms11179
フォイクト博士が細胞内でDNAオリガミを作り上げた論文です。

(2)~(8)の論文はオープンアクセス、つまりお金を払わなくても誰でも読める論文です。今回DNAオリガミを調べるにあたり、オープンアクセスの論文の多さに助けられました!ぜひ皆さんも読んでみてください!!

2018年ノーベル賞を予想する!

生理学・医学賞
その① アミノ酸、足りてますか?あなたの体の栄養分の見張り番
http://blog.miraikan.jst.go.jp/topics/201809102018-4.html

その② 腸内細菌が医療を変える!?
http://blog.miraikan.jst.go.jp/topics/201809132018-9.html
その③ 適応免疫に必須なリンパ球と器官の発見
http://blog.miraikan.jst.go.jp/topics/201809262018-12.html

物理学賞
その① 光を自在に操る人工素材!
http://blog.miraikan.jst.go.jp/event/201809122018-8.html
その② カーボンナノチューブの発見から実用まで(Coming Soon!)

化学賞
その① 脂質なしには成り立たない細胞内シグナル伝達
http://blog.miraikan.jst.go.jp/event/201809052016-14.html
その② ほしいものは折りたたんで作る!DNAオリガミ(この記事)
その③ 発想の転換でDNA解読の新時代を開く(Coming Soon!)

番外編:研究者にとってのノーベル賞
http://blog.miraikan.jst.go.jp/topics/20180919post-824.html