研究者にとってのノーベル賞

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こんにちは!科学コミュニケーターの梶井です!

もうそろそろ10月......
早いもので、平成最後の年度も残り半年になろうとしていますね。

と、しんみりした入りになってしまいましたが、10月と言えば?!
そうです、あのビッグイベントが近づいてまいりました!


ノーベル賞 です!!


※今年のノーベル自然科学3賞の発表は、10月1日(月)に生理学・医学賞、10月2日(火)に物理学賞、10月3日(水)に化学賞となります。


みなさんにとってノーベル賞はどんな存在ですか?


「なんかすごい賞」

「お金がたくさんもらえる賞」

「受賞者の大学に記念館が立ったり、プロジェクトが動いたりする賞」


などなど、きっと何らかのイメージや思い出をお持ちでは?

ちなみに、僕は、あるノーベル賞受賞者の著書を読んで化学を志したという記憶があります。


では、研究者にとってノーベル賞はどんな存在なのでしょう?ノーベル賞が贈られるということは、その研究分野にどのような影響を及ぼすのでしょうか?



ということで、物質・材料研究機構の主任研究者である有賀克彦(ありが・かつひこ)先生に伺ってきました!


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有賀克彦 氏(撮影: 科学コミュニケーター 梶井)


有賀先生は「超分子」と呼ばれる分野の研究者で、2016年 ノーベル化学賞受賞テーマである「分子マシン」のご研究もされています。



―分子マシンはノーベル賞選考委員会からも「今後に期待」とされた受賞テーマでした。ノーベル賞を受賞して2年が経ちましたが何か変わったことはありましたか?例えば、役に立つかわからないピュアサイエンスという面で「おもちゃ」と言われていた分子マシンですが、研究者の中でも分子マシンの可能性を再認識させたというようなことはあったのでしょうか?



有賀先生
受賞によって研究がしやすくなるような良い流れがきたというのはありますが、分子マシンの科学そのものが変わったというようなことはないと思います。分子マシンの研究者は、この分野の重要性をよく理解しています。それはノーベル賞をとってもとらなくても変わりません。


ただ、周辺分野の研究者が注目してくれるようになったことは大きいです。


従来の分子マシンの分野では、溶液中に無数に存在する分子マシンを動かすものでした。一方、ナノテクノロジーの分野では金属などの硬い表面にのせた分子1つ1つをきちんと見ていました。そういった世界が別々にあったわけですが、これらが結びつき始めたのは比較的最近かと思います。


また、分子のローターを生体膜という柔らかい場に入れ、分子ローターを回して膜に穴を開けて細胞を殺してみるという研究なども出ています。
(James M. Tour and co-workers, Nature 2017, 548, 567)


分子マシンがノーベル賞をとったことで、マニアックな分野で終わらず、「役に立つぞ!」という議論も出ました。そして、生物など周辺分野の人がそういうことに興味を持ち始めれば、人工の分子マシンを生体分子マシンの変わりに使うということも出始めます。そういった意味で進歩があったと思います。


ただ、研究者全員が喜んだわけではなく、自分がノーベル賞を取る可能性が断たれたという意味で悔しんだ研究者もいます。受賞発表後に、「俺は三日三晩、悔しくてなにもできなかった」と、海外の知り合いの研究者からメールがきました。




―研究者どうしのつながりが生まれるきっかけに、ノーベル賞がなり得るというのは面白いですね。少し戻りますが、一番初めの「研究がしやすくなった」というのはどういうことでしょうか?


有賀先生
科学に予算が付くというのは国民が決めることです。現実的には政府が決めていますが、政府は国民の意向を感じ取って「こういったところにお金をつけよう」と動きます。


なので、科学者にとって、一般の人に研究をわかってもらうということはすごく重要です。しかし、これはとても難しいことなのです。


ノーベル賞が贈られた分野は間違いなく注目されます。
すると、世間の人も「分子マシンってなんだ?」とまずはその存在を知ってくれます。それがすごく重要です。


興味を持ってもらって、「分子マシンは日本も頑張っている。みんなでサポートしよう!」という感じになるかもしれないですよね。


また、このような政治的な側面だけでなく、知ってもらうこと自体が研究の裾野をひろげることにつながる。これも、とても重要なことです。


例えば、ノーベル賞をとるまえに「そんな訳のわからんことをやって......」と両親に言われていたとしても、ノーベル賞をとると「お前の研究はすごいね!」と言われるわけです。


こういったことは、私たち研究者だけではできません。私たちがどれだけ「この研究はすごいよ!」といっても、一般の人には伝わりにくい。でも、ノーベル賞をとったら「すごいね!」と言ってくれますよね。ノーベル賞にはそういう力があるのです。




―世間の注目を集めるといえば、2017年4月にフランスで開催されたナノカーレースがありましたね。ちょうど今年の夏休みに未来館で会った小学生がナノカーのことを知っていて、僕もびっくりしました。

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ナノカーは分子の車。写真の球が組み合わさったようなものが日本チームのナノカーです。本物のナノカーを10億倍大きく、あるいは人を10億分の1小さくすると、写真のようなサイズ感になります。第一回ナノカーレースでは、日本はフェアプレー賞を受賞しました。第二回も計画されているとか・・・


有賀先生
私たちも、研究所の一般公開のときにポスターの前でナノカーの話をすると、子どもが集まってくるんですよ。最終的に、隣に置いてあるミニカーに夢中になりますけど(笑)


レース自体は受賞発表前から計画していたので全く意図していなかったことですが、ノーベル賞受賞半年後にナノカーレースをやったことは非常に良かったです。ノーベル賞は分子マシンそのものが対象でしたが、今は、ナノカーのように1つの分子をコントロールできるということが一番大事。それを伝えられました。




―あの取り組みは面白かったですね!ちなみに、日本だと日本人がノーベル賞を受賞すると大学に記念館やホールが建つことなどもありますが、分子マシンの時にそういったことはありましたか?


有賀先生
面白いところだと、分子マシンで2016年のノーベル化学賞を受賞されたBen Feringa博士は、大学内に専用の自転車駐輪スペースをプレゼントされたそうです。
※Feringa博士の所属するフローニンゲン大学が公開している動画を本記事末尾の【参考】にのせました。とても微笑ましいのでぜひご覧ください。


日本で分子マシンの予算が増えたかということはちょっとよくわかりませんが、日本ではノーベル賞を贈られた分野には大きなお金がつきやすいという傾向があります。もちろん、研究者の中には「なんで終わった研究にお金をつけるの?」という人もいます。


実際の研究と政治的にやられているところにはギャップがあります。


ノーベル賞はそれを埋めるきっかけにもなり得ると思いますが、ノーベル賞という形でなくとも、もっとそういったところに研究者がかかわった方が良いと思います。みんな、研究の方が楽しいので、あんまりそういうほかのことをやらないのですが。


―基礎研究への寛容さなど日本の科学の在り方が議論されていますが、今後は研究者がもっと積極的にかかわっていくことが大事なのですね。研究者の研究の時間が減っているということも問題になっているので難しいことではありそうですが。


―他の人に説明をすることで考えが整理されることがありますよね。分子マシンの研究者は、ノーベル賞をきっかけにして自分の考えが改めて整理されたといったことはあったのでしょうか?


有賀先生
みんな聞かれたと思います。「分子マシンって、最終的に一般の人になんの役に立つんですか?」って。


今までは聞かれることがなかったので、役に立とうが立たまいが関係なかったのに、今は「役に立ちます」と答えなくてはいけなくなった。ただ、それが次のモチベーションになっているとも感じます。ノーベル賞は、研究者が改めて自分の研究を考え直す、そういう機会にもなっていると思います。


分子マシンのように、役に立たつかわからないベーシックなものがノーベル賞を貰ったら、次のステップに行く良いきっかけになると思います」




―最後に、有賀先生にとって思い出深いノーベル賞は何ですか?


有賀先生
今回の話の流れだと、2000年の白川英樹博士です。白川先生の研究のように、すごく根本の概念を創ったことに対して贈られることが一番良いと思います。一般には良く知られていないけど化学的に重要なことがノーベル賞をとると、一般にも知られることになる。そういった研究がノーベル賞を取るということはとても重要です


もちろん白川先生の研究以外にもたくさん当てはまりますが、私の学科の大先輩にあたるということもあり、とても思い出深いですね


―未来館にも電気を通すプラスチックの展示があります。あの研究がどれだけ世界を変えてきたかということを、僕ももっと来館者と話せればと思います。分子マシンも今後の発展を楽しみにしています。ありがとうございました。




さて、今回の記事はいかがでしたか?


もちろん、有賀先生の考え方がすべての研究者の考えていることにはなりません。


ですが、


ノーベル賞は研究者と研究者、
研究者と一般の人をつなぐ良い機会


こういう見方もできるということを知っていただければと思います。


みなさんもぜひ、ノーベル賞をきっかけに、ふだんあまり身近でない研究に親しんでみませんか?



【おまけ:未来館での2018年ノーベル賞関連イベントについて】
未来館では今年もノーベル賞を取り上げます!


9月5日(水)から科学コミュニケーターブログに受賞予想記事を載せていますが、9月19日(水)からは展示フロア内でも特別パネルや特別トークなどが始まります。また、10月1日(月)~10月3日(水)の受賞発表当日には速報解説、10月14日(金)には受賞後解説をニコニコ生放送で行います。
(詳しくはこちらのページをご覧ください → http://www.miraikan.jst.go.jp/info/1808291723250.html


今回の記事と関係しますが、未来館のノーベル賞関連活動は、その年のノーベル賞を当てることを目的にはしていません。ノーベル賞をきっかけに「こんなに面白い、こんなにすごい研究が世界にはあるんだよ!」ということをみなさんと共有したいという思いでやっています。そのため、日本に関係のない海外の研究者も積極に取り上げています。


ぜひ、今年のノーベル賞も私たちと一緒に楽しみましょう!



【参考】

2016年のノーベル化学賞を受賞されたBen Feringa博士の専用駐輪場に関する動画
https://www.youtube.com/watch?v=kdT0oiYmmkc


■ 物質・材料研究機構(NIMS)のHP
http://www.nims.go.jp/


■ NIMS 超分子グループHP
http://www.nims.go.jp/super/HP/home.htm


■ 科学コミュニケーターブログ「未来館でパブリックビューイング!~世界最小の国際大会~」
http://blog.miraikan.jst.go.jp/topics/20170412nims.html


2018年ノーベル賞を予想する!

生理学・医学賞
その① アミノ酸、足りてますか?あなたの体の栄養分の見張り番
http://blog.miraikan.jst.go.jp/topics/201809102018-4.html

その② 腸内細菌が医療を変える!?
http://blog.miraikan.jst.go.jp/topics/201809132018-9.html
その③ 適応免疫に必須なリンパ球と器官の発見
http://blog.miraikan.jst.go.jp/topics/201809262018-12.html

物理学賞
その① 光を自在に操る人工素材!
http://blog.miraikan.jst.go.jp/event/201809122018-8.html
その② カーボンナノチューブの発見から実用まで(Coming Soon!)

化学賞
その① 脂質なしには成り立たない細胞内シグナル伝達
http://blog.miraikan.jst.go.jp/event/201809052016-14.html
その② ほしいものは折りたたんで作る!DNAオリガミ
http://blog.miraikan.jst.go.jp/topics/201809182018dna.html
その③ 発想の転換でDNA解読の新時代を開く(Coming Soon!)

番外編:研究者にとってのノーベル賞(この記事)