みなさんこんにちは!
科学コミュニケーターの小玉昂史です。
今回は10月13日(月)に日本科学未来館で開催したイベント「研究者とめぐる未読の宇宙〜加速器実験で宇宙を“つくる”」の後半で行った「研究者による展示ツアー」の様子をお届けします。イベント前半のトークイベントの様子はこちらをご覧ください。(研究者とめぐる「未読の宇宙」イベント第3回レポート(前半) 加速器実験で宇宙を“つくる” https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20260121post-577.html)
「未読の宇宙」で加速器実験!
この展示ツアーは、前半のトークイベントに登壇された高エネルギー加速器研究機構(KEK)の中山浩幸さんが、参加者とともに常設展示「未読の宇宙」をめぐるというものです。
中山さんは展示の中でも加速器実験に関する部分の監修を務めてくださっています。
「未読の宇宙」は宇宙の謎に迫る最先端研究を紹介する展示なのですが、入り口には物質・宇宙・天体のことを、科学的にも情緒的にも捉えようとした人間の営みを想起させる、本展示のために書かれた文章が掲げられています。その中のひとつに、以下の言葉があります。
閃光が走り、宇宙が目覚めた。
ビッグバン———。
天体も生命も存在しない、極小の宇宙。
無数の高エネルギー素粒子が飛び交う、
その小さな点に、無限の可能性が凝縮されていた。
この文章は、宇宙の誕生について情感豊かに書かれたもの。4行目にある「無数の高エネルギー素粒子が飛び交う」極小の宇宙でいったい何が起こったのかを探る実験こそが加速器実験なのです。
「未読の宇宙」では加速器実験に加え、「多波長観測」「ニュートリノ観測」「重力波観測」の研究を紹介しています。展示では、それぞれの研究に次のようなキーワードを当てはめています。
「多波長観測」:LOOK 宇宙をみる
「ニュートリノ観測」:CATCH 宇宙をつかまえる
「重力波観測」:LISTEN 宇宙をきく
そして
「加速器実験」:PRODUCE 宇宙をつくる
それぞれのキーワードは、それぞれの観測手法にちなんでいます。多波長観測はさまざまな光で宇宙を「みる」、ニュートリノ観測はニュートリノを巨大な観測器で「つかまえる」、重力波観測では時空のさえずりを「きく」ことでこの宇宙の謎を解明しようとしています。そして加速器実験は宇宙からやってくるものを観測するのではなく、宇宙誕生直後の状態を人工的に再現しようとしています。それはまるで宇宙を「つくる」かのような実験です。この宇宙をつくる実験によって、いつか人類は宇宙誕生の謎を解明できるかもしれません。
研究者と一緒に加速実験を体験してみよう!
「未読の宇宙」の中には、加速器実験を体験できる展示があります。茨城県つくば市の高エネルギー加速器研究機構(KEK)にある SuperKEKB をモデルに、加速器内を回る粒子ビームの太さや位置を調整し、ビーム同士を衝突させる疑似体験ができます。
装置のつまみを回してビームの太さや位置を調整し、ビームをうまく衝突させられるように操作します。うまく衝突させると、新しい粒子が生まれる様子を見ることができます。
イベントでは中山さんのアドバイスを受けながら、参加者のみなさんに加速器実験に挑戦していただきました。
中山さんのお話によると、
加速器のビームは細くすればするほど衝突しやすくなりますが、一方で不安定になってしまいます。加速器実験では、ビームの衝突のしやすさ(ルミノシティ)を少しでも上げるため、安定させつつできる限り細くするという、非常に高度な調整が行われています。実際のSuperKEKBでは、ビームは髪の毛よりも細く絞られているそうです。
「加速器は遠くの地域で起きた地震の振動さえ実験に影響するほど繊細な装置で、精密な制御が必要です。」と中山さん。より多く粒子を衝突させるために日夜研究者がビームを精密に制御している、そんな研究者の苦労が垣間見えるお言葉でした。体験装置を通して参加者の皆さんも加速器実験の大変さを感じることができたのではないでしょうか。
粒子を観測する巨大な測定器!
加速器実験では粒子を加速・衝突させるだけではなく、衝突によって生まれた粒子を正確に測定することも極めて重要です。SuperKEKB実験では、Belle II 測定器という巨大な装置で測定を行っています。未来館ではBelleⅡ測定器の一部を実物展しています。
中山さんには、展示の前で装置の詳しい解説もしていただきました。
Belle II測定器は複数の検出器が組み合わさってできており、それぞれ測定できる粒子やパラメーターが異なります。その情報を組み合わせることで、衝突時にどのような反応が起こったのか、その全貌を捉えることができます。
未来館で展示しているのは、シリコンバーテックス検出器(SVD)とエアロゲルRICH検出器です。
SVDはシリコン半導体を使った検出器で、通過する粒子の位置を精度よく測ることができます。複数の層で粒子の通過位置をとらえ、それらを組み合わせることで粒子の飛んできた方向を推定します。
エアロゲルRICH検出器は粒子の種類を識別するための検出器です。特殊な素材であるエアロゲルの中を電荷を持った粒子が通るとリング状の光が発生します。粒子の種類によってリングの大きさが変わるため、光センサーがそのリングを検出することで粒子を識別します。
中山さんは今回のイベントのために、KEKからBelleⅡ測定器の模型を持ってきてくださいました。この模型は検出器ごとに分解できる構造になっており、BelleⅡ検出器の仕組みを「見て、触って」理解できるようになっています。
イベント前半のトーク終了後の休憩時間には、参加者が模型を手に取って観察する姿も見られ、BelleⅡの複雑な構造を実感してもらうことができました。
実物と模型を合わせて見ることでこれらの検出器がどこでどのように使われているのかイメージしやすかったのではないでしょうか。
マルチメッセンジャービジョンで没入体験!
イベントの締めくくりは、展示空間ぐるりと囲む大スクリーン「マルチメッセンジャービジョン」のダイナミックな映像を、中山さんの解説とともに鑑賞しました。
加速器内で粒子がほぼ光速まで加速され、衝突によって新しい粒子が生まれる、その瞬間を迫力ある映像と音で体感できます。
映像には、Belle II 実験で観測された実際のデータが使われています。
映像では粒子同士が衝突してさまざまな粒子が生まれて飛んでいく様子が見られますが、
中山さんが参加者への解説の中で粒子の観測についてこんなふうにおっしゃっていたのが印象的でした。
「粒子が検出器の中を飛んでいるとき、実はその軌道全体が直接見えているわけではなくて、 粒子が検出器を通過したときに残す通過位置の情報から、全体の軌道はこうだったはずというのを計算して求めています。 ですから、たまに間違えることもあります。」どんなに精密な測定器を用意しても、実験による観測には必ず誤差がついてくる。そのことが加速器実験の難しさや奥深さを表しているような気がします。
最後に
今回のイベントでは、中山浩幸さんがイベント開始前や休憩時間にも参加者に積極的に声をかけてくださり、研究者と参加者の距離が近いことも印象的でした。また、研究の最前線にいる研究者がふだん向き合っているデータを、研究者自身の言葉で解説していただくことで、「研究者は何を見て、何を考えているのか」という視点を来館者のみなさんも共有できたのではないでしょうか。
加速器実験のおもしろさや奥深さ、そして宇宙の謎に挑む研究者の姿が伝わっていれば幸いです。ぜひまた未来館に遊びに来てください!