突然、自宅の近くに道路建設の計画がもち上がった。道路の建設予定地は自然豊かな場所で、毎日の散歩ルートにしていたり、美しい景色の写真を撮ったり、週末はピクニックを楽しんでいたりする場所だ。
道路ができると、その場所はどうなってしまうのか……。
こんにちは、科学コミュニケーターの石川です。
以前のブログで自己紹介しましたが、私は建設環境コンサルタントで技術者として働いていた経験があります。簡単にいうと、インフラ整備と環境保全のバランスをとるためにどうしたら良いのかを考えていた者です。
本ブログでは、「大規模な開発事業を行う上で、環境への影響を回避・低減する」ためのしくみについてご紹介します。
このまま開発事業を進めても大丈夫?
道路、鉄道や新幹線、空港、ダム、発電所等といった大きな施設は、開発計画が立てられてから実際にできるまでものすごく時間がかかるなと思ったことはありませんか? 例えば、高速道路だと計画発表から開通までに数十年かかることが多いです。
確かに建設するには大変な労力が必要なのでしょうけれど、なぜこれほど時間を要するのでしょうか?
大規模な開発事業では様々な検討や調整が必要となりますが、時間を要するプロセスの一つに、「環境への配慮」の検討があります。いくら私たちの生活を豊かにするための施設づくりであっても、開発することで環境に悪影響を与えて良いとはいえません。開発事業によって貴重な動植物の生息・生育の場が消失するかもしれませんし、地域の住民が工事中の騒音・振動や大気汚染に悩まされるかもしれません。こうした環境への影響を回避または低減するため、事業の内容を決めるときには事業の必要性や採算性だけでなく、環境への配慮についても計画時から綿密に考慮することが重要そうです。
そこで、生まれたのが環境アセスメント(環境影響評価)制度です。
①環境アセスメントとは?
環境アセスメントとは、開発事業の内容を決めるにあたって、それが環境にどのような影響を及ぼすかについて、工事を行う前に事業者自ら※が調査、予測、評価を行い、その結果を公表して一般の方々、地方自治体等から意見を聴き、それらを踏まえて環境の保全の観点からよりよい事業計画をつくり上げていくという制度です。
とてもざっくりいうと、開発事業を行う前に自然環境や生活環境を調査し、それらに対する事業の影響を予測・評価し、環境を保全するための対策を検討する一連のプロセスを指します。
※多くの事業者は、専門となる環境コンサルタントに依頼して調査・予測・評価を行っています。とはいえ、環境アセスメントの代表(責任者)は事業者自身です。
②環境アセスメントの種類
環境アセスメントには大きく分けて3つの種類があります。
1つ目は、国の法律(環境影響評価法, 1997年制定)に基づいて行うもの。全国一律に適用されるものです。
2つ目は、地方自治体(都道府県や市町村)の制定した条例(環境影響評価条例)に基づいて行うもの。条例は、法律の対象外の事業や、特定の地域の特性に合わせた事業にも適用でき、地域特有の環境保全のためによりきめ細やかな評価を可能にします。2025年12月時点で、47都道府県全てと、22の市で環境影響評価条例を施行しています。
3つ目は、法律や条例の対象外となるような開発事業で、事業者が自主的に環境アセスメント(自主アセス)を行う場合もあります。
③国の法律(環境影響評価法)の対象となる事業
国の法律(環境影響評価法)の場合、環境アセスメントの対象となっている事業は、道路・ダム・鉄道・空港・発電所等の13種類の事業です。開発事業の規模の大きさや種類により、環境アセスメントの手続きを必ず行う「第一種事業」と、環境アセスメントが必要かどうかを個別に判断する「第二種事業」があります。
ちなみに、地方自治体における環境影響評価条例の場合は、対象となる事業は各々の地方公共団体により異なります。
(「環境アセスメント制度のあらまし」(環境省大臣官房 環境影響評価課,2023)をもとに筆者作成)
④環境アセスメント手続きのフロー
ここでは、国の法律(環境影響評価法)を取り上げて一連の流れをご紹介します。
環境アセスメントの手続きには、大きく分けて以下の5段階があります。
- 配慮書:事業内容を計画している段階で、環境保全のために配慮すべきことを検討してまとめたもの(複数案の事業計画を提示する)
- 方法書:これから行う調査・予測・評価の項目や方法を伝えるもの
- 準備書:調査・予測・評価した結果を伝えるもの
- 評価書:準備書で寄せられた意見をもとに、準備書を修正したもの
- 報告書:工事中や開発後に環境保全のために実施した対策を報告するもの
(環境アセスメントガイド, 環境影響評価情報支援ネットワーク(環境省)HP)
ご覧のとおり段階が多くあり、各段階が順調に進んだとしても環境アセスメントが完了するまでに(私の経験上)3~4年かかる場合があります。
環境アセスメントでは、開発事業が計画地周辺の自然環境(動植物、生態系、景観、公園等の人が自然と触れ合える場所)や生活環境(騒音、振動、大気質、水質、土壌等)に与える影響がどの程度ありそうかを調査・予測・評価します。
各段階で作成される配慮書、方法書、準備書、評価書、報告書はインターネット上や役所等で公表(公告)され、自由に閲覧(縦覧)できます。また、事業者は各結果について地方自治体や住民の方々へ説明する必要があります。
説明を聞いた一般の方々や地域の特性をよく知っている住民の方々、地方公共団体等は意見を述べることができるのです。事業者は、寄せられた意見を開発計画の中に取り入れながら、よりよい開発事業を行えるようにします。
環境アセスメントは開発事業を止めさせるもの?
環境アセスメント制度の役割は、開発事業を環境に配慮したより良いものにするための手続き・しくみであり、その事業を認めて良いかダメかを判断するものではありません。そのため、事業に反対する人々や団体がいたとしても、法律や条例で定められた手続きを事業者が適切に進めれば環境アセスメントの手続きを完了させて工事等に着手することは可能です。
ただ、環境アセスメント手続き中に環境大臣や都道府県知事、市町村、地域住民や団体から事業範囲の変更や規模の縮小の検討を求められるような厳しい意見が寄せられることもあり、事業計画の内容によっては中止の判断を迫られる場合もあります。寄せられた意見をもとに、事業者が環境に配慮した事業計画やアプローチを吟味するためにも、環境アセスメントは重要なしくみだといえます。
身近な環境を守るために私たちにできることはあるのか?
風力発電や太陽光発電等の再エネ開発事業によって自然環境が脅かされている等のニュースがよく見られるようになりました。自然エネルギーを使用した発電は、気候変動を緩和するために重要な対策の一つです。しかし、私たちがこれまで大事にしてきた自然環境に悪影響を及ぼすものになっては、本末転倒ですよね。
身近な場所で開発事業計画が持ち上がった際に、私たち一般市民ができることの一つとして「環境アセスメントの住民説明会への参加」があります。方法書の段階、準備書の段階で住民説明会が開催され、意見の収集を行う機会が設けられています。開発事業の内容を理解した上で、自然環境や住環境での心配事や配慮してほしい点を事業者へ伝えていくことが、より良い事業を生み出す第一歩になることでしょう。
もちろん誰もが納得できる結論を出すこと(合意形成)は難しいですが、環境アセスメントは地域住民と事業者がコミュニケーションをとるきっかけになるしくみだと考えられます。住民説明会に参加することで、事業者の説明や意見を理解したうえで、対象の開発に関する心配事や意見を直接述べることができますし、実際に住んでいる当人だからこそ知る地域の概況や改善案を事業者へ提供できると思います。
果たして環境保全と開発事業の調和は図れるのか……?
皆さんと一緒に追究できたらうれしいです。
【お役立ち情報】
①環境アセスメントについてより詳しく知りたい方は、環境省がまとめているサイト
「環境影響評価情報支援ネットワーク」がおすすめです。
環境影響評価情報支援ネットワーク https://assess.env.go.jp/1_seido/1-1_guide/index.html
②各地域でどのような法律・条例等の規制がかけられているのか、希少動植物の生息・生育場所等の
環境情報の把握ツールとして「環境アセスメントデータベース EADAS(イーダス)」が便利です。
環境アセスメントデータベース EADAS https://eadas.env.go.jp/eiadb/ebidbs/
【参考サイト】