皆さん、こんにちは!
科学コミュニケーターの倉田祥徳です。
前回の私のブログ「ダークマターって本当にあるの?」では、ダークマターの存在を示す観測の歴史について紹介しました。その歴史を振り返ってみると、ダークマターは確かに存在すると考えられている一方で、その正体はいまだにつかめていないことがわかります。そうなると、そんなダークマターの正体がいったい何なのか、と気になって夜も眠れません(いえ、実は毎晩、熟睡しています!)。
そんなある日、いつもどおりスマートフォンで「おもろい研究成果ないかな~」と大学や研究機関のプレスリリースをまとめたサイトを見ていたときでした。東京大学のプレスリリースの中に、思わず目を疑うようなタイトルを見つけたのです。
「暗黒物質がついに見えた!?」
この文を見た瞬間、「えっ、暗黒物質(ダークマター)見つかったの? なんだって!」と、本当に声が出てしまいました。正体不明のダークマターがもし“見えた”というのなら、とんでもないニュースになります。こんな驚きの研究を行ったのが、東京大学の戸谷友則先生です。ちょうど戸谷先生が、東京都内にあるこども科学センター・ハチラボで一般向けの講演をされるということで、「これは行くしかない!」と思い、突撃訪問してきました。
※このブログは、こども科学センター・ハチラボで開催された「【ワークショップ】『宇宙の影の支配者ダークマターの正体をつきとめた?!』」の講演内容をもとに執筆しています。
こども科学センター・ハチラボで開催された「【ワークショップ】『宇宙の影の支配者ダークマターの正体をつきとめた?!』」についてはこちらからご覧ください。
https://shibu-cul.jp/event/43643
ダークマターの正体を突き止めた!?
簡単にダークマターをおさらいしてみましょう。宇宙の中で、私たちが直接観測できる星やガスなどの「通常の物質」は、宇宙全体のわずか約5%しかありません。それに対して、宇宙にはその数倍もの量(約27%)の「ダークマター」が存在していると考えられています。このダークマターは星や銀河の動き、宇宙全体の構造を説明するためには欠かせない存在ですが、光を出さず、吸収も反射もしないため直接見ることができません。そのため、今日でさえ、その正体はまだわかっていない“未知”の粒子です。そんな正体不明のダークマターの研究はどのように行われているのでしょうか。ここからは、戸谷先生の研究についてご紹介していきます。現在、正体がわかっていないダークマターの候補粒子としては、さまざまなものが提案されています。例えば、WIMP(Weakly Interacting Massive Particle)、アクシオン、原始ブラックホール……など挙げればきりがない、と戸谷先生は話します。そのなかでも、もしダークマターが WIMP とよばれる粒子だった場合、宇宙のどこかでダークマター同士が出会うと 「対消滅(2つの粒子が衝突して質量がエネルギーへと変換される現象)」 を起こし、そのときにエネルギーの高い光であるガンマ線を放つと考えられています。
つまり、ダークマターそのものは光らないけれど、ダークマター同士が出会ったときに生まれる光なら観測できるかもしれないというのです。このアプローチは、ダークマターの「間接的探索」とよばれています。では、そのガンマ線をどこから探してくればよいのでしょうか。これまで注目されてきたのは、周囲にダークマターが多いとされる天体です。たとえば、星の数が少なく、質量の大部分をダークマターが占めていると推定される小型の銀河である「矮小銀河」や、ダークマター密度が高いと予想される天の川銀河の中心部などです。しかし、矮小銀河からは、いまのところ決定的なガンマ線信号は見つかっていません。また、銀河中心の観測では、星やガス、パルサー(高速で回転しながら強い電波やガンマ線を放つ中性子星)がひしめき合っていて、「普通の天体が出す光」と「もしかしたらダークマターが出す光」をきれいに区別するのがとても難しいという問題がありました。そうした状況のなかで、戸谷先生が目を向けたのが、天の川銀河を包み込むように広がる「ハロー」と呼ばれる領域です。天の川銀河は、円盤状に星やガスが集中する「銀河面」と、その外側に広がる「ハロー」から成り立っています。
戸谷先生は、天体活動が活発な銀河面をあえて避け、その外側に広がるハロー領域に注目しました。このハローは、ダークマターが球状に広く分布していると考えられている一方で、星やガスなどの通常の天体は比較的少ないという特徴があります。つまり、この領域は、「ダークマターは多いのに、雑音は少ない」という、解析するうえでは“もってこい”の場所ということになります。ではどのように、その領域を調べたのでしょうか。戸谷先生は、NASA の人工衛星 Fermi-LAT が約15年かけて集めてきたガンマ線データを解析し、このハロー領域を詳細に調べました。
このときの解析では、「引き算」のアプローチによって、ダークマター由来のシグナルを探しています。詳しく説明をすると、観測されたガンマ線の総量から、すでに知られているガンマ線の成分を一つ一つ「引いた」ときに、最後に“余った”成分の中に、ダークマター由来のシグナルが潜んでいるかもしれないというのです。簡単に「引いた」と言ってしまいましたが、差し引く対象は実に多岐にわたります。下の図のように、銀河系内で生まれた高エネルギー陽子が星間物質に衝突したときに生まれるガンマ線や宇宙線電子が星の光などの低エネルギー光子をはじき飛ばして高エネルギー化することで生じるガンマ線です。さらに、銀河中心から上下に広がる「フェルミ・バブル」から放出や、「電波ループ」とよばれる巨大なシェル状構造からの放射、さらには既知の天体から放出されるガンマ線なども含まれます。
それらを丁寧に「引いた」結果、ハロー全体に広がる約20 GeV付近(GeVはエネルギーの単位)の成分が浮かび上がってきました。そして、この“余った”ガンマ線の分布は、前述したダークマターハローのように球状に広がっています!
さらに、驚くべきことに、得られた値は、WIMP が対消滅したときに放つと予想されるガンマ線の理論モデルとよく一致するというのです。戸谷先生は、今回ご紹介した解析を家でコツコツやっていたそうで、この結果がでてきたときには、奥さまに「顔がニヤついている」と指摘されたそうです。このときの高揚はきっと隠せなかったに違いありません!
まさにこの結果は「余りものには福がある」(現時点では「福がある“かも”」ですが……)。もしこれが本当にダークマターだった場合、ダークマターの正体は「WIMP」とよばれる、いまだに発見されていないタイプの粒子であり、新しい物理の扉を開いたことになります。しかし、まだ「ダークマターを発見した」と断言することはできません。矮小銀河の観測結果との整合性や、第三者による独立した検証が必要です。また、ダークマターが銀河の中でどのように広がっているのかには、まだ大きな不確かさがあるうえ、将来研究が進めば、現時点では知られていない天体現象によって説明できてしまう可能性もあり、慎重に検証すべき点は多く残っていると戸谷先生は話します。それでも、銀河中心のような、ガンマ線で入り組んだ“ごちゃごちゃ”した場所ではなく、ガンマ線源が比較的少ないハロー領域で、ダークマターを思わせる結果が浮かんできたという事実は、ダークマター研究にとって非常に重要な意味をもちます。もしこれがダークマターではなかったとしても、「では、このガンマ線は何なのか?」という新たな問いが生まれます。ダークマターの研究を通じて、新しい物理の扉を開かれる日もそう遠くはないかもしれません。これからのダークマター研究に期待したいと思います!