突然ですが、みなさんはどれくらい先の天気まで気になったことがありますか?
今日は傘を持っていくべきかどうか。明日あたりから衣替えすべきかどうか。週末はまだ桜が咲いているだろうか。来月の屋外ライブはどうか晴れてくれないだろうか。
……これくらい先の天気まででしょうか。
このブログでは、100年先の天気や暮らしについて考える、私の大好きな「ウェザーニュース」 YouTubeチャンネル「100年天気予報」(株式会社ウェザーニューズ)を紹介します。
100年天気予報って?
「100年天気予報」は2025年4月から始まった番組で、毎週金曜日12:00 – 12:30にYouTubeにて生配信されています。番組を担当されているのは気象予報士の吉良真由子さん。最新の気象・気候データやシミュレーションを使い「100年後の天気と暮らしはどう変わるのか?」をテーマに、毎回さまざまな角度から未来の気候や暮らしを考えます。
私も金曜日のお昼休みにごはんを食べながら見ているのですが、これがまあおもしろい!
このブログ公開時点でこれまで45回配信されています。どの回も本当におもしろく、叶うなら全部紹介したいところですが、今回はサイエンス、ストーリー、エンゲージメントの3つの視点に絞って「100年天気予報」の魅力を語らせていただきたいと思います。
100年天気予報が伝えるサイエンス
そもそも私がこの番組に出会ったのは、猛暑や豪雨といった極端な気象現象がメディアでどのように報道されているのかリサーチしていたときでした。初めて見たのは、2025年7月4日配信の「100年天気予報 ~100年に一度の大雨とは?~」の回。吉良さんが、キャスターの魚住さんと一緒に「100年に一度の大雨」を次のように解説していました。
❶ 番組冒頭で「2025年6月の平均気温が過去最高だった」という最新の気候トピックを紹介。番組配信の1週間前に極端気象アトリビューションセンター(※)によって発表されたばかりの「6月中旬の記録的高温は地球温暖化が無ければ起こり得なかった」という分析結果も紹介しました。
❷ 今回のテーマである「100年に一度の大雨」に話題転換。ニュースなどでよく聞く「100年に一度」という表現は、100年に一度しか起きないという意味ではなく、1年に発生する確率が100分の1という意味であることを、100面サイコロを振りながら感覚的に押さえました。
❸ 日降水量とその回数(頻度)の関係をヒストグラムで表して紹介。また、年間最大日降水量のヒストグラムが、気候変動によって降水量の多い右側にシフトしてきていることも説明しました。あれ、この「気候変動によって起こりやすさが変わってきている」グラフをどこかで見たような……?
❹ 番組冒頭の分析結果も、❸と同様に理解できることを説明。今回のテーマは「100年に一度の大雨」でしたが、雨にかぎらず、気候変動によって猛暑や大雨といった極端な気象現象が起こりやすくなってきていることを、順を追って理解していくことができました。
(※) 極端気象アトリビューションセンターは、日本各地で発生した極端気象についてイベント・アトリビューションを実施、公表しています。
❶のような、極端気象などさまざまな大気や海に関する出来事 (イベント) に対して、人為起源の地球温暖化がどれくらい寄与 (アトリビューション) しているのか定量的に評価する分析手法をイベント・アトリビューションとよびます。かつてはイベント発生から分析結果が出るまで数カ月から1年近くかかっていたのですが、最近は数日から数週間で分析結果が出るようになってきました (これもすごい……!)。
吉良さんは、6月中旬の記録的高温についてのイベント・アトリビューションをすぐさま速報的に番組で紹介しています。そして❷❸を通して確率、頻度といった抽象的な概念を体験的・視覚的に解きほぐしていきます。❹でイベント・アトリビューションに立ち戻ると、グラフの意味が再解釈されたように感じられました。「説明された」というより「自分で腑に落ちた」というような感覚になります (私自身、そう感じました)。
気候変動と猛暑、豪雨をめぐるサイエンスを、スピード感をもって、しかし精度を落とさずにわかりやすく社会へ翻訳する吉良さんの判断力と設計力に、思わず見ほれてしまいました。
100年天気予報を構成するストーリー
100年天気予報で扱うテーマは、猛暑や大雨といった極端な気象の未来だけではありません。下に上げるように、桜やフルーツ、スポーツなど多種多様な「気候変動のストーリー」に出会うことができます。
どの回もとても面白いのですが、ここでは私のおすすめの4つのストーリーをご紹介させていただきます。
A 「GWはもう真夏?」(2025年5月2日配信):気候変動による桜の開花日や雪解けの変化などから、2100年の行楽地を吉良さんが独自予想(妄想?)。吉良さんが「温暖化が抑制された未来を目指したい」「私の妄想は2100年には外れてほしい」と締めくくっていたのも印象的でした。
B 「田植えで感じる100年後の環境」(2025年6月13日配信):自然共生サイト堂谷津の里で、田植えをしながら気候変動と稲作について考える番外編。インタビューで語られる、堂谷津の里での気候変動の影響やその対策のお話もリアルであり、希望が感じられるものでした。
C 「温暖化が奪う“実りの色”ブドウに迫る危機」(2025年9月26日配信):秋の実りブドウに注目。着色不良や日焼けなど、温暖化がブドウに与える影響や、その適応策を紹介する回です。番組の終わりでは、ブドウを実食しながら温暖化の影響に思いを巡らせていました。
D 「COP30って何? 地球の未来、ブラジルで話しています」(2025年11月14日配信):国連気候変動枠組条約のCOP30 (第30回締約国会議) の開催に合わせて、その歴史や近年の動向を紹介しつつ、後半ではCOP30と私たち市民の暮らしとのつながりまでお話していました。
気候変動は、ひとつの巨大な問題であると同時に、無数の小さな物語の集合でもあります。100年天気予報は、その無数の入口を惜しみなく提示してくれます。このストーリーテリングの豊かさこそが、100年天気予報の大きな魅力だと感じます。
100年天気予報が生み出すエンゲージメント
ここまで、サイエンス、ストーリーの視点で100年天気予報の魅力をご紹介してきました。3つ目の視点はエンゲージメント。つまり、関わり、ともに考えるということについてです。100年天気予報には、私たち市民 (ここでは視聴者) が番組に積極的に参加できる仕掛けがたくさんあり、気候変動へのエンゲージメントを促すきっかけになっています。
まず、生配信中のチャットの盛り上がりがすごい。追いきれないほどひっきりなしにコメントが流れていきます。そしてその一部は、配信中にピックアップされます。先ほどの「100年に一度の大雨とは?」の4コマの画像❷❹下部のコメントがまさにそれです。❹のシーン「さきほどの!」のあとも「さっきのやつや!」「つながった」とコメントが続々とピックアップされ、キャスターの魚住さんがそれを拾い、視聴者といっしょに納得感を高めている様子が伝わりました。
また下の表に示すように、番組では蚊や衣替えといった季節の変化について、あるいは身近に感じる海面変動の影響についてなど、さまざまなアンケートを実施しています。アンケートでは非常に多くの回答が寄せられていて、そのおかげで地域による季節の変化の違いが浮かび上がってきたり、気候変動の具体的な影響が感じられたり、意外な発見がたくさんあります。
さらに、たとえば「幻想の光が早くなった?ホタルが語る“気候変動”」(2025年6月20日配信)の回では、下のAのように視聴者が撮影したホタルの写真を一緒に鑑賞したり、Bのようにホタルの出現日の経年変化を地域ごとに比較したりしていました。Bのデータは視聴者からのリポートで作成されています。リポートが日本中から、そして10年以上も集まることで大きなひとつのデータとなり、ホタルの出現日が少しずつ早まっていることがわかりました。ほかにも全国からのリポートをもとに、衣替えの日が年々早まる傾向や紅葉の様子の移り変わりなど、さまざまな議論が展開されています。
チャット、アンケート、リポート。これらの仕掛けを通して、私たち視聴者は知らない間に「情報を受け取る人」から「番組を一緒につくる人」になっているのではないでしょうか。気候変動は遠い未来の話でも、専門家だけの議論でもありません。100年天気予報は、私たち市民の暮らしと気候変動が密接につながっているという感覚を自然と湧き起こし、気候変動という課題へのエンゲージメントをうながしています。
吉良さんご本人とお話したい!
ここまでサイエンス、ストーリー、エンゲージメントの3つの視点で「100年天気予報」の魅力を、思うがままに語らせていただきました。
この気持ちを、ぜひご本人にお伝えしたい!
ということで「100年天気予報」をご担当される気象予報士の吉良真由子さんを訪ねてきました。
ブログ後編では、吉良さんに番組の設計やそこに込める想いを根掘り葉掘りお聞きします!
| 参考
Otto FEL. 2023. Attribution of weather and climate events. Annu. Rev. Environ. Resour. 48, 813–28.
https://www.annualreviews.org/content/journals/10.1146/annurev-environ-112621-083538