新しい2つのシアター
未来館に新しく2つのシアターがオープンしたことはご存知でしょうか?
以前からあったドームシアターに加え、より没入感のある体験を提供すべく、新たにイマーシブ型体験空間「シアタールーム」と、リニューアルした「イノベーションホール」が2026年4月25日(土)から公開されました。
それぞれの空間では没入型インスタレーション作品を楽しむことができます。「シアタールーム」では惑星探査をテーマとした作品を、「イノベーションホール」では気象観測をテーマにとした作品を上映しています。
公開に先駆けて行われたプレス内覧会では、各作品の監修者がそれぞれの内容や魅力についてたっぷり語ってくださいました。このブログではそのお話をもとに、シアタールームで上映中の「Voyage 未踏の向こう」を科学的な観点からの解説を盛り込んでご紹介します。これから見る方も、すでに見た方も、ぜひご一読ください。作品をより深く楽しんでいただけるはずです!
※ 「Sky 雲の旅」編のブログはこちら https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20260608sky.html
データでたどる太陽系「Voyage 未踏の向こう」
「Voyage 未踏の向こう」は、太陽系を舞台にした没入型宇宙体験作品です。まるで宇宙旅行の気分で、壮大なスケールの非日常体験を楽しむことができます。惑星探査データにもとづきながら、実際の映像と想像の映像を織り交ぜて作品を構成しています。監修には渡部潤一先生(京都産業大学 特別客員教授 神山宇宙科学研究所長)をお迎えし、想像の部分にも科学的な忠実さを追求しています。以下に本作品の簡単な解説を掲載します。
旅は太陽から始まる
作品は太陽から始まります。太陽に近づいた先に現れるのは、プロミネンス。水素やヘリウムのプラズマが磁力によって持ち上げられたものです。太陽の表面から、大気の最も外側の薄いガスの層であるコロナへと伸びています。
太陽表面の温度が約6000℃、プロミネンスの温度が数千~数万度であるのに対し、コロナは100万℃以上とはるかに高温であることが知られていますが、その加熱メカニズムはいまだ完全には解明されていません。現在もNASAの探査機「Parker Soler Probe」によって観測が続けられている研究最前線の領域です。この探査機は、太陽が放つ放射線や電磁波が地球に与える影響をより深く理解するための役割も担っています。
「次の目的地」とされる火星
続いて向かうのは火星です。火星は現在、有人探査の有力候補とされており、さらに先は火星への移住も見据えられています。そのため、火星の環境は極めて詳細に調査されています。本作品では、探査機が実際に取得した高解像度データをもとに映像を制作しています。それを大きなスクリーンに映し出すことにより、まるで火星表面に降り立ったかのような感覚を味わうことができます。
火星の最後のシーンでは、青い夕焼けが映し出されます。
火星の表面は赤茶色の酸化鉄の塵で覆われており、これが大気中に舞っています。太陽の高度が低くなると、大気中の塵で赤色の光が散乱し、青色の光だけが届くため、青い夕焼けとなるのです。
夏の季語にも「夕焼け」があるように、私たちは夕焼けに風情を感じるようです。もし火星に住むことになったら、青い夕焼けは私たちの心をどう動かすのでしょうか?
未踏の巨大惑星
木星や土星といった巨大ガス惑星では、構造そのものが地球とは根本的に異なります。木星探査機ジュノーや土星探査機カッシーニの観測データから、これらの惑星は固体表面を持たず、分厚い大気と高圧環境が広がっていることがわかっています。
本作品内では、まずは木星のオーロラを眺めます。木星の強力な磁場、自転の速さ、そして衛星イオから供給される火山ガスの影響により、木星のオーロラは地球のものと比べて数百倍もの明るさを放ちます。非常に強力なため、赤外線や可視光だけでなく、紫外線やX線も放射します。
その後、探査機がまだ直接到達していない大気の内部へ突入します。ここで描かれているのは、観測データと理論計算をもとに推定されている姿です。想像の世界も織り交ぜていますが、現在の科学を用いて限りなく忠実に表現をした映像となっています。
地球外生命への期待
さらに作品の中では木星の衛星エウロパにも着陸します。エウロパは地下に液体の海が存在すると考えられており、地下から間欠泉のように水の柱が立ちあがる様子を表現しています。エウロパの最後のシーンに登場する探査機は、エウロパを探査するためにNASAが開発した「エウロパ・クリッパー」です。
エウロパには地球外生命が存在する可能性が示されています。氷に覆われた地殻の下に広がる海が生命に適した環境であるかを調査することを目的とし、木星を周回しながらエウロパに約50回接近して観測を行います。
2024年10月14日に打ち上げられており、木星付近への到着は2030年4月ごろの予定です。どんな調査結果を届けてくれるのか、待ち遠しいですね。
地球への帰還
作品の最後は、地球に帰還します。このシーンでは夜の地球が映し出されますが、人工の光が輝く地球が他の惑星と違い、「人類が住んでいる惑星」であることを暗示しています。
監修者:渡部潤一先生からのコメント
「火星の映像などの実際のデータも、大きなスクリーンに高精細で投影することで迫力が生まれました。一方、木星の大気に突入するシーンや、エウロパに降り立つシーンは未踏の領域を映像化しています。そのため、最新の知見を基に想像でつくり上げた世界にはなりますが、科学的な正しさを追求しても映像の魅力が削がれるようなことはありませんでした。お子様をはじめとする多くの方にこの映像を見ていただき、宇宙への関心を高めて、そして科学への関心につながってくれるといいなと思っています。」
正しさと魅力の両立
「Voyage 未踏の向こう」は、美麗な映像と立体的な音響を楽しめる体験ですが、徹底した科学的なリサーチをもとに制作されています。渡部先生の「科学的な正しさと映像の魅力は両立される」という言葉通り、これらの作品は自然や宇宙が元来備える美しさを忠実に表現することで、むしろ魅力が増していると感じました。
ここまで読んでいただきありがとうございました。作品を鑑賞した方は、ぜひSNSなどで感想を共有してみてくださいね。
参考資料・参考ページ
参考書籍・参考ページ
『COSMOS 美しき宇宙の図鑑』 , 監修:スミソニアン協会 , 日本語版監修:渡部 潤一 (東京書籍,2025)
Europa Clipper -NASA Science https://science.nasa.gov/mission/europa-clipper/