地球は...ちっちゃな有孔虫ともつながっている

有孔虫ファンの皆様、大変長らくお待たせいたしました。

2014年12月14日(日)、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の北里洋先生をお招きして開催した、サイエンティスト・トークのご報告です。

タイトルは「有孔虫は教えてくれる-生命の不思議と地球のしくみ」。

北里先生は、有孔虫愛に満ちたやわらかな語り口で、"有孔虫が教えてくれたこと"を私たちに伝えて下さいました。

JAMSTECというと、未来館では深海調査船の「しんかい6500」や海底を掘削する地球深部探査船「ちきゅう」で有名ですが、実は、海にすむ小さな生き物「有孔虫」の研究拠点としても世界屈指。北里先生は長年そのチームを率いていらした有孔虫のスペシャリストです。

当日ご参加いただいたお客様にはアンケートをご用意しました。

回収したアンケート用紙には素敵な言葉がたくさん!これを関係者だけに留めておくのはもったいない!!ということで、みなさまにいただいたコメントとともに、この報告をお届けしていきます。

設問は、イベント前・後に分けて次の通り用意しました。

イベント前 

「海の生物と人間のつながり」「海と人間の関係」と聞いて思い浮かぶことは何ですか?思いついたことを、自由にお書きください。

イベント後

「有孔虫」や「生命」、「地球」について感じたことを、「○○は...」に続けて自由にお書きください。

 

 

それでは、紹介をはじめましょう。

1.有孔虫は... "生きている"

...さっそく、名言登場です。

いやいや、そりゃ生き物なら生きているでしょう、と思われるかもしれません。でもね、有孔虫ってこれなんですよ。

沖縄のお土産やさんで手に入れた「星の砂」。

これは、有孔虫である「ホシズナ」や「タイヨウノスナの仲間」が死んで殻になったものなのです。これを、生き物です、と言われてもなかなか想像できませんよね。

と、いうことで当日は、なんと生きた状態のホシズナやタイヨウノスナなどの有孔虫を、先生がはるばる沖縄から連れてきてくださいました!

直径5cmほどのガラス瓶。中の薄茶色をした粒々が有孔虫です。

次の写真で拡大してみましょう。

左が、ホシズナとタイヨウノスナの仲間たち。右は、それより少し大きな「ゼニイシ」という有孔虫です。まず、右の真ん中にいる一番大きなゼニイシを見てください。

ゼニイシの左上のあたりから白い糸のようなものが出ているのがわかるでしょうか。これは「仮足(かそく)」です。これらは海底で暮らす有孔虫。硬い殻の小さな穴から仮足を出して、岩などにへばりついて暮らしています。瓶の上の方にいるのは、仮足を使ってよじよじと上に登っていったやつです。
(右写真、真ん中のタイヨウノスナからも仮足が出ていますが、かなり繊細なのでわかりにくいです)

 

当日は、トーク会場横に有孔虫の観察コーナーを設けました。子どもも大人も、大勢の方にお立ち寄りいただきました。瓶に貼りつく有孔虫の姿に、「本当だ!生きている!」と驚きの声が上がっていました。

 

ちなみに、未来館のすぐ裏、お台場の海にも有孔虫はいます。

 

それがこちら。

(顕微鏡で撮影。いずれも体長は0.2mm程度。)

※採集については、こちら (リンクは削除されました)で愉快に紹介していますのであわせてどうぞ。

 

有孔虫は、世界中の海で今日も生きています。

2.有孔虫は..."単細胞生物だけど、藻類と共生したり穴から光をとりこんだり、けっこうかしこい"

先ほどのホシズナをさらに拡大してみましょう。

丸く膨らんだ部分に、ぽつぽつと穴のようなものが見えますね。

 

これは、窓です。 (仮足を出すのは、別のもっと小さな穴です)

ホシズナは、硬い殻の中に藻類を共生させて生きています。殻で覆われていてもちゃんと中に光が届いて藻類が光合成できるように、この窓があるのです。しかも、この窓は、光が中まできちんと届くように結晶の向きを揃えた透明な結晶構造になっています。

 

さらに。

 

通常、単細胞生物は、酸素の供給を体の表面から自然と入ってくる分に頼っているため、体の大きさに制限がかかります。それを考えると、直径1mmを軽く超えるホシズナは、本来はありえない大きさ。

でも、こうして藻類と共生していれば、光合成で酸素が得られる!大きくなっても大丈夫!というわけ。

私たち人間の体は、たくさんの細胞が分業をすることで生きるために必要な活動をこなしています。一方、単細胞生物は、その全てをたった1つの細胞でやっている...それってすごい!!

"単細胞は1人乗りの宇宙船"

これは、北里先生の言葉。

狭い船体の中、1人でオールマイティに作業をこなす宇宙飛行士の姿が、小さな有孔虫の姿に重なります。現に、コンパクトな中にたくさんの機能を詰め込んだ有孔虫の形の特性を、人工衛星などの宇宙構造物に活かそうという研究もあるのだとか。

 

アンケートにはこんな言葉もありました。

"小さい生物ほど人間が学ぶことが多いと思いました"

3.地球は..."温暖化、海水の酸性化等、深く有孔虫の生活と関わっていることがわかりました"

トークイベントの終盤では、2つの「未来予測シュミレーション」をご覧いただきました。

未来予測シミュレーション 海洋酸性度
青くなるほど海水が酸性に傾くことを表しています。

未来予測シミュレーション 海表面温度
それぞれの場所での1951年~1980年の平均値からの差を色で表しています。

人間活動の影響によって、今後一層海の環境が変化すると予測されています。これらのデータを見るだけでも、なんだか不安な気持ちになってきます。一体、海は、地球は、どうなってしまうのでしょう。

様々な要件が絡み合う複雑な問題ですが、ここでは有孔虫を切り口にみていきました。

この画像の真ん中に3つ並ぶのは、浮遊性の有孔虫の殻の断面図です。海洋酸性化が進む(pHが下がる)と、有孔虫など炭酸カルシウムの殻を作る生物は、殻が作りにくくなります。スライド中、左は酸性に傾いた海洋中の有孔虫の殻。密度が低く、全体的に薄くなっているのがわかります。

会場には、3Dプリンターで作成した有孔虫の殻の拡大模型も登場しました。

殻の密度の違いや薄さを、持った時の重さでダイレクトに感じることができます。イベント後は、多くのお客様が実際に触りにいらっしゃり、「あっ!全然違う!」「これはかなり変わりますね」と、模型の重さの違いに驚き、海洋酸性化の影響へ思いを馳せておられました。

もちろん、これは拡大模型なので実際の有孔虫は目に見えないぐらいに小さなものです。しかし、数がものすごく多いため、地球の炭素循環に大きく関わっています。

 

今回の記事のタイトル

地球は...ちっちゃな有孔虫ともつながっている

これも、アンケートでいただいたお言葉でした。大きな地球と小さな有孔虫のつながりを感じていただいたようです。そのつながりの輪の中には、他の様々な生き物たちも含まれています。もちろん、私達人間も。

 

当日のイベントの様子は、こちら (リンクは削除されました)からご覧頂けます。
あなたが考えるアンケート回答もコメント欄からお知らせ下さい。お待ちしています。

サイエンティスト・トーク
「有孔虫は教えてくれる-生命の不思議と地球のしくみ」

講師:北里洋氏(独立行政法人海洋研究開発機構 上席研究員)

開催日時:2014年12月14日(日) 14:30~15:30
開催場所:日本科学未来館 1階 コミュニケーションロビー
参加者数:着席70名・立見50名
企画・ファシリテーター:熊谷香菜子

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