ハシボソミズナギドリの渡りとざわざわしちゃう親子関係

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皆さん、こんにちは。科学コミュニケーターの志野 渚(しの なぎさ)です。

今回は星の話ではありません。鳥の話です。

2018年1月8日に未来館で開催された北極イベントにファシリテーターとして参加しました。そこで初めて知った北極の世界!その中でも私が担当した「渡り鳥」についての研究を知ってびっくりしたのです。

私自身、未来館に来るまでは星にしか興味がありませんでした。ですがこのイベントに参加したことで、生き物にも興味が沸いてきたんです。

ということで、星にしか興味がなかった私が「なにこれ、面白い!」と思った渡り鳥についてご紹介したいと思います。どうぞ、お付き合いください。

さて、今回の主役は「ハシボソミズナギドリ」という渡り鳥です。皆さん、聞いたことありますか?私は全く知りませんでした。この鳥は体重が500~600gで翼を広げると1m程度。カラスを細身にしたくらいの鳥です。写真を見てもらうとわかる通り、羽の色は地味だし、アホウドリやダチョウのように格別に大きいわけでもないし、どこにでもいるような鳥です。

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ベーリング海で水面近くを滑空するハシボソミズナギドリ

(撮影:北海道大学水産科学院 西澤文吾)

しかし!、この鳥の凄いところは大きさでも羽の色でもありません!誇るべきはその渡りの距離!累計距離にして約32000㎞!!(どれくらいかピンときますか?)なんとなんと南はオーストラリアのタスマニア島から北は北極海まで。往復するとほぼ地球一周の距離になるんです。この距離を渡るのは鳥類の中でも最大スケールになるそうです(地味なんて言ってごめんね)。

ではまず彼らの渡りのお話です。ハシボソミズナギドリは10月~4月が繁殖期になります。この時期をオーストラリア、特にタスマニア島付近で繁殖します。そして繁殖を終えると越冬のために5月~9月の間、ベーリング海や北極海まで渡ってきます。今まで繁殖地や越冬地でハシボソミズナギドリの研究がされていましたが、どうやって渡ってくるのかは分かっていませんでした。しかも毎年この距離を往復しているわけです。皆さん、考えられますか?毎年地球を縦断するのです。しかも自分自身で!(私にはとてもじゃないけどそんな芸当できません。)考えただけでもうんざりしてしまいそうなこの距離を、この鳥はなぜ毎年渡っているのでしょうか?

この謎について研究しているのが、1月の北極イベントで「渡り鳥」についてお話をしてくださった北海道大学の綿貫豊先生です。綿貫先生の仮説は「渡りをしたほうが、渡らないでとどまるよりも生涯に残せる子孫の数が多くなるから」というものです。つまりは、ハシボソミズナギドリの餌は主に''オキアミ''です。オーストラリアの冬には近郊の海ではオキアミがとても取りづらくなるので、渡りのリスクを考えても、北極海の豊富なオキアミを食べる方が、生き残る確率が上がるから、なんだそうです。では、綿貫先生はこの仮説を調べる第一段階として、どうやってハシボソミズナギドリの渡りを調べたのでしょうか?(気になってきましたか?)先ほどお話したように、以前からハシボソミズナギドリがタスマニア島から北極海まで渡っていたことは確認できていました。でも、どうやって渡っているのかはわかりませんでした(だって彼らをずっと追いかけることなんてできないですよ!)。

そこで、綿貫先生たちの研究チームは「ジオロケーター」という装置をハシボソミズナギドリの足に取り付けて1年間の彼らの移動経路のデータを取得しました。また、この機械は3年間記録できます(データオーバーの心配もいりませんね。)。

このジオロケーターは光の強さを10分毎に記録することができます。この光の強さの変化から、その鳥がいた場所の毎日の日の出日の入り時刻がわかります。これで位置を測定するのです。

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ハシボソミズナギドリの足に装着したジオロケーター

(撮影:北海道大学水産科学院 綿貫豊)

そして、翌年オーストラリアに戻ってきた彼らからデータを取得して研究チームがデータを解析して分かった結果が下の図です。20190315_shino-3.jpg

ジオロケーターでわかったハシボソミズナギドリの移動

一本一本の線が一羽一羽の経路を表しています。また、青色と赤色はそれぞれ2つのグループを示しています。研究チームのデータによって、ハシボソミズナギドリは約2週間休憩をとることなく、ぶっ通しで飛び続けることがわかりました。ですがこんなに長い時間を休みなしに飛び続ける鳥は珍しく、別の種類のミズナギドリは、休憩場所を設けているんだそうです(ハシボソミズナギドリも休めばいいのに!って思いませんか?)。しかし、現在ではなぜ飛び続けるのかの謎はわかっていません。

どうですか、皆さん!これだけでもこのハシボソミズナギドリ、面白いでしょう?でも、私が一番驚いたのはこの鳥たちの繁殖についてです。先ほどもご紹介した通り、彼らはオーストラリアで繁殖します。ハシボソミズナギドリの最初の繁殖期は6歳頃といわれています。そしてこの年から毎年繁殖をするようになります。1年に産む卵の数はたったの1個!しかも生まれた卵のうち巣立つのは約25%だそうです(自然界は厳しい!)。なので、親鳥は大切な1羽のひな鳥を育てていくわけです。子育て期間中、親鳥はもちろんせっせっとひな鳥に餌を運んできます。ところが渡りの時期が近付くと、親鳥は自分の脂肪を蓄えるためにひな鳥の餌やりをやめてしまうのです(マ、マイペースすぎるでしょ!)。なので、もしその年のオーストラリア近辺で餌となるプランクトンが不漁となると、ひな鳥は十分な脂肪を蓄えられないまま初めての渡りにチャレンジしなければならなくなるのです。そうすると、どうなるか。2週間飲まず食わずで飛び続けるわけですから、途中で餓死してしまうのです(なんということでしょう!)。生まれたひな鳥が初の渡りに成功して、またオーストラリアの繁殖地に戻って親鳥になれるのはたったの8%なんです!だったら、ちゃんと親鳥が面倒みなさいよ!って思いませんか?ところが、(いいんだか悪いんだかはわかりませんが)この鳥の平均寿命はなんと30歳!要するに最初の渡りを乗り越えればだいたい30年近くは親鳥として渡りをしながら生きていけるのです。なので、ある年のプランクトンが不漁でひな鳥に餌が十分に与えられなくても、来年も生むからまあいっか。ということになってしまうんです(なんでしょう、自然の摂理だとはいえこのざわざわした感じ)。

しかし、せっかく生んだひな鳥がその年生き残れる確率がとても小さくなってしまう渡りを、どうしてハシボソミズナギドリは選んだのでしょうか?(メリットよりデメリットのほうが大きい気がしますね)。また、他のミズナギドリは北極海まで行かずにパプアニューギニア辺りまでしか渡りをしないことも分かっています。同じミズナギドリでも渡りが異なるのはなぜなのでしょうか?綿貫先生はこれらの謎を解明したい、とイベントでのお話しの最後におっしゃっていました。

宇宙と違い同じ地球に住んでいる人間の近くにいる生き物なのに、まだまだ私たちにはわからないことがたくさんあるんですね。

さて、皆さんどうでしたか?ハシボソミズナギドリ。研究結果の図を見てわかる通り初夏にオホーツク海のほうにやってくる集団もいます。もし初夏にオホーツク海付近に行くことがあれば、ちょっとチェックしてみてください。

なんともマイペースなハシボソミズナギドリ、こちらも以後お見知りおきを!