冷凍マンモスから生命を考える時間旅行、マンモス展内覧会報告

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 世界初公開となるケナガマンモスの鼻など貴重な冷凍標本が大集合した企画展「マンモス展」が東京・お台場の日本科学未来館で始まりました。一般公開に先立ち、監修者が参加して行われた報道機関向け内覧会の様子を報告しマンモス! 冷凍の生々しいマンモスだからこそみえてくる生命の過去から現在、そして未来を考える時間旅行です。

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マンモスの骨格を説明する近藤洋一氏


近藤洋一氏「絶滅の科学的な解明はまだ。冷凍マンモスで解明できると面白い」

 今回の会場は、「過去」「現在」「未来」をテーマに三つの展示ゾーンに分かれています。
 はじめの「過去」の展示ゾーンでは、およそ4000年前に絶滅するまで40万年ほどの間、マンモスがどのように生きてきたのかを紹介しています。
 「オス同士がたたかうとき大きな牙を持っている方が有利。そして牙が大きく曲がっていると相手を威嚇できる。こうしたマンモスが進化して、どんどん増えていったと考えられています」
内覧会では、古生物学を監修した野尻湖ナウマンゾウ博物館の近藤洋一館長が、3メートルほどの巨大なケナガマンモスの骨格標本を前に解説してくれました。大きくまがった牙と、頭の骨がとんがっているのがマンモスの特徴です。
 しかし、「マンモスがいかに世界に分布を拡大させ、絶滅にいたったのかは骨からだけではなかなか分からない」といいます。絶滅した理由としては、氷期が終わってエサとなる草原がなくなってしまった気候変動説と、人類の乱獲によるものという二つの説があるそうですが、いずれも十分解明されているとは言えないそうです。
 近藤館長は、もう一つの可能性として、「マンモスが環境への適応力をなくして絶滅に至ったのではないか」と指摘していました。今回新たに発掘されたケナガマンモスの畳一畳分にもなる大きさの皮膚も展示されていますが、こうした冷凍標本を調べると「どのように寒冷地に適応していったのか分かるかもしれない。生命科学で絶滅の理由を解明できると非常に面白い」とのこと。近い将来、マンモス絶滅の謎に迫れるかもしれません。


セミヨン・グレゴリエフ氏「4万年前に沼に落ちた仔ウマ、世界初のすばらしい保存状態」

 次の「現在」をテーマにした展示ゾーンでは、ロシア・サハ共和国で昨年夏に行われた発掘調査の様子などを紹介しています。マンモス以外の貴重な標本も発掘・展示されていますが、その目玉が4万1000年~4万2000年前の仔ウマの冷凍標本。生後2週間で沼に落ちて死んでしまったと推測されているそうです。
 「内臓もそのまま、体もまったく変形していない。すばらしい保存状態で発見することができたのは世界で初めてです」と監修したロシア・サハ共和国「マンモスミュージアム」のセミヨン・グレゴリエフ館長。液体状態の血液と尿が採取できたということでも話題になりました。ともに発掘調査を行った近畿大学の加藤博己教授は「実はウマの進化や家畜化のことは分かっていない。この冷凍の仔ウマを調べると新しいデータが得られるのではないか」と話していました。
 ちなみに、この仔ウマにはマンモス展の主催者の一つで、発掘調査にも参加したフジテレビにちなんで「フジ」という名前が付けられています。グレゴリエフ館長によると、おとなの個体には発見された地名をつけられますが、子どもの個体には発掘に貢献した人の名前がつけられるのが慣習になっているそうですよ。

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仔ウマ(下段)とマンモスの皮膚を説明するグレゴリエフ氏


松本和也氏「復活プロジェクトを通じて、若い人たちに生命科学の魅力を感じてほしい」

 最後の「未来」をテーマとする展示ゾーンでは、マンモスにとどまらない生命科学の未来を紹介しています。このゾーンのナビゲーター役となった近畿大学の三谷匡教授は「最新の標本、最新の技術で今まで見られなかった生命の不思議に迫りました」と語っていました。
 展示の中心となる近畿大学「マンモス復活プロジェクト」は今年3月、マンモスから採取した細胞核が、2万8000年の時をこえて生命活動の兆候を見せたというおどろきの論文を発表しました。この展示ゾーンでは、多くの研究者がかかわって、この論文を完成させるまでの物語がサッカー漫画のようなタッチで紹介されています。
 生命科学を監修した近畿大学の松本和也教授は「若い人たちに魅力を感じてもらって、将来、生命科学の研究者になってほしいという思いを込めています。マンモス復活プロジェクトを追求することで、いろいろなイノベーションや新しい知見が出てくると思います」と話していました。展示では、マンモスなどの絶滅種を生命科学によって復活させることについては、倫理的な問題や環境的な問題など多くの課題が残されていることも合わせて紹介しています。

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マンモス復活プロジェクトを説明する松本和也氏(左から)、三谷匡氏、加藤博己氏


いとうせいこう氏「マンモスだけの問題ではない。倫理的、哲学的、科学的な問題」

 内覧会に先立つ趣旨説明で、展示構成を監修した作家・クリエイターのいとうせいこうさんは「今回のマンモス展はスケール感が違う。何万年も前の生き物がほとんど1週間前に死んだかのような状態で出てきている」と話していました。
 実現できた理由として、技術開発によって展示用の巨大な冷凍装置が実現したことに加えて、そもそも地球温暖化によって永久凍土がとけて標本が出てきたという「非常に皮肉な状態も含んでいる」と指摘しました。そのうえで、今回の企画展について「マンモスだけの問題でなく、人類が生命とどのように付き合うかという倫理的であり、哲学的であり、科学的である問題をすべて含んでいる」と強調していました。
 企画展「マンモス展」-その『生命』は蘇るのか-は11月4日まで開かれています。

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マンモス展の監修を務めた松本氏(左から)、いとうせいこう氏、グレゴリエフ氏、近藤氏