\祝!累計実施数50回!/ 実験教室の特別版を実施します!~先端科学をもっと身近にしたい!

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こんにちは!日本科学未来館 科学コミュニケーターの梶井です。

現在、未来館では9つの実験教室プログラムを実施しています。そのうちの1つ、クラブMiraikan(注1)の会員さま向けに提供しているプログラムに「次世代太陽電池プロジェクト」があります。「有機薄膜太陽電池(以下、OPV)」という次世代の太陽電池(ソーラーパネル)の素子を実際に1人1枚作ります。実際に手を動かしながら、次世代の科学技術がもたらす未来像に思いを馳せ、化学の楽しさやエネルギーとの向き合い方について考えることができます。

白川英樹先生(筑波大学 名誉教授)、松尾豊先生(現・名古屋大学 教授)監修のもと、未来館の先輩たちが苦労して作り上げたこの実験教室。2012年11月の初実施から数えて、累計実施回数がなんと50回となります!累計参加者数は500人!これまでご参加いただいた皆さま、誠にありがとうございます!

「先端研究がもたらす(かもしれない)未来について、もっと皆さんとお話ししたい......!」と常々思っている僕。ある決心をしました。


「この実験教室を一般実施しよう!!」


ということで、化学の日(注2)を記念したイベント「2019年キミ×ケミ~君と見つける化学~」にて、次世代太陽電池プロジェクトの特別版をお届けします!
※化学の日は10月23日ですが、本イベントは10月20日(日)に開催します。実験教室は要申込(9/20~9/30)です。詳細は以下のURLよりご確認ください。
https://www.miraikan.jst.go.jp/event/1910201024758.html
※当日に同時開催する研究者をお招きしたトークセッションは申し込み不要です。
https://www.miraikan.jst.go.jp/event/1910201424759.html

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2019年化学の日ロゴ
画像提供: 公益社団法人 日本化学会)


■ そもそもOPVって何?

OPVは、薄く、柔らかく、軽いという特徴から、これまでの太陽電池では設置できないような場所での活用が期待されています。さらに、さまざまな色や形を作れるデザイン性の高さも、私たちの生活の中に溶け込みやすいと考えられています。一方で、家の屋根や道路の脇などに設置されている濃い青色のシリコン系と呼ばれる太陽電池と比べると、太陽の光を電気に変える能力がまだまだ低いことが課題として残っていて、現在も改良に向けた研究が活発に進められています。

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OPVは薄く、柔らかく、軽い次世代の太陽電池です
(画像提供: 東京大学 特任研究員 中川貴文氏)

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そしてカラフル!この写真以外にも様々な色のOPVが研究されています
(画像提供: 東京大学 特任研究員 中川貴文氏)


■ どんな実験教室なの?

OPVをざっくり説明すると、下の図のように何枚かの薄い層がミルフィーユのように重なってできています。それぞれの層には役割があります。例えば、有機活性層は光を当てると電気の素である電子を出す役割を担っていて、電子輸送層にはその電子を運ぶ役割がある、といった具合です。

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図版作成: 科学コミュニケーター 鈴木毅

参加者は、みんなで白衣を着て、電気を流してつくった薄い膜にペンキのような液体をつけたりすることで、最終的にOPVの素子を1人1枚つくります。

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写真: 電気を流してホール輸送層を作っている様子

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写真: 今回作るOPVの完成形


■ だれでも楽しめるの?

定常的に実施している太陽電池の実験教室は、参加者の約80%が小学4年生~中学3年生で約15%が保護者です。99%の方に「満足」とご回答いただいています。ですが、「まさに今、化学や物理学を勉強している高校生や大学生にとっては簡単で楽しめないかも......?」という一抹の不安が僕にはありました。

そんな折、監修者の1人である松尾先生から「名古屋大学でこの実験教室を講義の一環として実施します」という連絡が入りました。「これはぜひ現場で見なければ!」と、お手伝いがてら取材してきました。工学系の学部1年生11人が参加した、その実験の様子がこちら。

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写真:実際に作った5枚のOPV素子と電子オルゴールを直列につないでいる様子。「小学生でもできる実験教室だからな!」と茶化し合っていて面白かったです。

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写真:太陽電池に光を当てて、電子オルゴールが鳴る様子を楽しむ学生たち

僕の不安を吹き飛ばすように、皆さん実験教室を楽しんでいました。「さすが大学生!」という知識量と手際で実験教室が進行しましたが、小学生と同じポイントで疑問が出ている様子を見ると「やっぱり実際につくってみることで、大学生にとっても新しい発見があるのだなあ」としみじみ感じました。実施後のアンケート結果も満足度100%となり、難易度や実験を通して新たな発見や気づきが生まれたかに関する答えも以下の円グラフのようになりました。

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これはもう、自信をもって「皆さんにお楽しみいただける(はず)!」と言って良いのではないでしょうか。


■ 先端科学をもっと身近にしたい......!

突然ですが、皆さんは科学で心が動いた瞬間はありますか?動いたことのある方はそのきっかけは何でしたか?学校での基礎的な実験や自由研究、身の回りの自然現象に興味を持ったことなどなど、さまざまなきっかけがあると思います。僕は、大学院の時に本物の先端研究を自分の手で進められるようになってようやく科学(化学)に心を動かされました。そういった背景から、実験教室などで先端研究をもっと身近にできないかなあと考えています。そのためには、どうしても研究者にご協力いただくことが必要になります。その点について、監修者の1人である松尾先生に伺いました。

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監修者の1人、松尾豊氏(写真: 筆者撮影)

松尾先生
「今回の実験教室は、白川英樹先生や未来館の科学コミュニケーターがとても努力をされて作り上げたものです。先端科学に関する実験教室をつくるということは、それだけ大きな仕事です。自分でいうのは少し変だと思いますが、これは余裕がないとできません。今、日本の大学の先生はあまり余裕がない状態です。本来、大学の先生は研究をするためにあるべきですが、今は書類書きや事務作業に私たちは相当なエネルギーを費やしているというのが現状です。そこに一番エネルギーを費やして次に研究、という方も多いです。さらに一般の方に向けた活動となると相当厳しい。研究と同じくらい一般の方と科学について語り合うということも大事ということが、もうちょっと根本的なところで伝わっていく必要があるのだと思います。」


なかなか根が深い問題だと改めて感じました。ですが、上記実験に参加した大学生に「自分が研究者になったとして、自身の研究について社会と語り合う取り組みをしてみたいですか?」と聞いたところ、松尾先生の想いが通じてか、以下のような回答となりました。

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なぜかを聞いてみたところ、「自分の研究への理解が増えると嬉しいから」「研究者の仕事は研究するだけでなく、一般の人に伝えることも仕事だと思うから」「研究は一般の人の役に立って完成すると考えているから」「社会と関わることで新たな発見があるかもしれないから」といった声が上がりました。

研究者の卵になっているかどうかすら怪しい学部1年生からの答えではありますが、近い将来に社会で大活躍するであろう学生たちからこれほどポジティブな意見をもらえたことに対して、とても嬉しく感じました。そして、「協力者がいればやってみたい」の割合が大きいという結果を、科学コミュニケーターとして、しっかりと受け止めなければなと気が引き締まりました。


最後が少しまじめな話になってしまいましたが、今回特別に実施する実験教室で、ぜひ皆さんと一緒に科学に心が動く瞬間を見つけられればと思います。ご応募お待ちしています!


【参考】
本実験教室にご協賛いただいているメルク株式会社様の「材料科学の基礎 第4号 有機薄膜太陽電池の基礎」のHTML版に、本実験教室の内容が掲載されています。よろしければ以下のURLよりご覧ください。
https://www.sigmaaldrich.com/japan/materialscience/catalog/zknk/opv.html#appendix

【注1】クラブMiraikanとは?
日本科学未来館のさまざまな取り組みをいち早く体験できる会員制度です。常設展の無料入場、企画展へのご招待、ドームシアターの優先予約のほかに、実験教室をはじめとする未来館のさまざまなイベントに特別にご参加いただけます。詳細は以下のURLからご確認ください。
https://www.miraikan.jst.go.jp/friendship/guide.html

【注2】化学の日とは?
日本化学会、化学工学会、新化学技術推進協会、日本化学工業協会が、2013年に10月23日を「化学の日」制定しました(アボガドロ定数:モルの物質中に存在する粒子の数 = 6.02 × 10の23乗に由来)。化学の日の前後では、化学への理解増進・啓発を目的とした活動が各地で行われています。日本化学未来館では、2017年より化学の日を記念したイベント「キミ×ケミ~君と見つける化学」を実施してきました。

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昨年度実施した実験教室の様子。西原寛先生(東京大学 大学院理学系研究科 教授)とともにつくった実験教室でした。