どうする? どうやる? 「国民的議論」

今、エネルギー選択をめぐって国が揺れています。

政府は「国民的議論」を呼びかけ、各地でデモが起こり、ネット上では様々な議論が飛び交う。

何が正しくて何が正しくないのかわからない。議論に参加したくても、どうしたらよいかわからない。

混沌とした状況の中で戸惑っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

エネルギー政策の中身については、池辺が詳しく解説した記事がありますので、今回は国民的議論の方法に焦点を絞って考えます。

今、政府が提示している参加機会は大きく3つあります。

パブリックコメント、意見聴取会、討論型世論調査です。

パブリックコメントとは、政府に対し電子メールやFAXなどで直接、意見を送ることができるシステムです。内閣や省庁など、国の行政機関が法令を定める際に必ず行うことが法律によって義務づけられています。誰でも自由に意見を挙げることはできますが、組織による動員票で意見が二極化するなどの問題点があります。

意見聴取会は様々な形態で行われていますが、今回の場合、応募者の中から抽選で選ばれた人だけが公の場で意見を述べることができます。政策担当者に直接意見を伝えることができますが、参加できる市民は限られており、意見も一方的な形になっています。

そして、討論型世論調査。

実は、今回この手法が取り入れられたのは非常に大きなことでした。

でも、そもそもこの方法はどういったものなのでしょう?

討論型世論調査とは

「世論調査」は聞いたことがあると思います。無作為抽出により選んだ人に質問をする意識調査で、大規模に行うことができ、世の中の大まかな動向を把握できるものです。

しかし、世論調査は時に曖昧で、一面的、一時的な判断結果となっている可能性があります。

過去に、アメリカで面白い実験がありました。

架空の法令、「1975年公共法」の節目にあたり、法律の廃止についてどう思うか、という調査をワシントン・ポスト紙がしたところ、多くの人がそれぞれ何か一言あるように回答しました。実際にはない法令であっても、人は思いつきや感覚で、時には知ったかぶりをして答える傾向があるのです。

また、普段私たちは、自分が興味を持っている、あるいは、知る必要性を迫られているものでない限り、積極的に知識を得ようとはしません。

さらに、考え方や価値観が似た人同士で集まりやすいとも言われています。まさに「類は友を呼ぶ」。当然、収集する情報にも偏りが出て、意識せずとも視野は限られたものになりがちです。

討論型世論調査は、こうした問題を解決するために1980年代にアメリカで考案された新しい調査方法なのです。

この手法は、討論フォーラムと世論調査の大きく二つから成り立っています。

まず、無作為抽出した人々を対象に世論調査を行います。その後、回答者の中から討論フォーラムへの参加者を集め、様々な角度からの情報をもとに少人数グループで討論をしてもらいます。最後に、改めてアンケート調査を行って意見を収集します。

討論型世論調査の流れ

通常の世論調査と異なるのは、意識調査の前に「争点に対する見解の多様性やバランス等を考慮した情報提供」と「多様な参加者同士による議論」が行われること。

様々な角度からの情報提供が十分に行われ、かつ、普段出会うことがない多様な人々と討議をすることで、参加者に視野の広がりが生まれ、より熟慮の上での意思表示ができると考えられるのです。アンケート調査は情報提供と討議の前後で行うため、討論による意見の変化も読み取ることができます。

今回のような、非常に複雑な問題を含む政策を決める際、市民が参加する方法のひとつとして有効と考えられ、これまでに日本を含む世界20カ国以上で試みられてきました。

もちろん、問題もあります。

参加者の選出方法や会議運営方法の正当性、提供する情報内容の公平性、政策決定における位置づけなどは厳しい目で検証されるべきですし、開催には多額の費用もかかります。

今回政府が行う討論型世論調査に関しても、専門家により問題点が指摘されています*4。結果をどのように政策決定に生かすかという点も、非常に大きな問題です。

複雑な課題にどう取り組み、どう決めるのか

討論型世論調査は、手法の一つにすぎません。

提示されている3つの方法だけで国民的議論が成り立つわけはなく、意見書などでも指摘されているように、一人ひとりが問題を自分のこととして考え、様々なかたちで議論し、共有し、結果を発信していくことが大切です。

私たちは国の政策をどのように選び、定め、進んでいったらよいのでしょうか。政策担当者や専門家とどう関わっていけばよいでしょうか。

今回はエネルギー政策が主題となっていますが、他にも社会保障や医療、防災に関する問題など、国の将来を左右する課題はたくさんあります。

個別の課題を検討することはもちろんですが、何を民意とし、社会としての意思決定システムをどうするかということも、私たち一人ひとりが考えなければならない大きな課題ではないでしょうか。

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参考文献等

*1 国家戦略室 エネルギー・環境会議
http://www.npu.go.jp/policy/policy09/archive01.html(リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)

*2 ジェイムズ・S・フィシュキン『人々の声が響き合うとき』 早川書房

*3 篠原一『討議デモクラシーの挑戦』 岩波書店

*4 「革新的エネルギー・環境戦略の策定に向けた国民的議論の推進事業」の問題点について
http://fox231.hucc.hokudai.ac.jp/opinion/(リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)

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