「利己的」で何が悪い? -人間の不思議!

私の自慢は、仲良しの同期たち!

写真から仲の良さが伝わるでしょうか?

困ったときには一致団結!

落ち込んだ人を全力で励ます(あるいは笑わす)!

おやつは仲良く分け合って!

入社から半年以上の時を経て、自然とお互いを思いやり助け合う関係へと絆が深まりました。

職場にかかわらず、皆さんも様々な集団の中で他の人たちと協力し合い、人間関係を育んでいるのではないでしょうか?

では、なぜ人は助け合うのでしょう。

感情があるから? 理性的な人間だから? 本能的に?

どれも正解です。でも、これら自体は

「自分に利益があるため」

に、進化の過程で残ってきたのです。

説明しましょう。

生き物にはもともと、自分の利益に向けて行動するという性質、つまり「利己的」な性質があります。「利己的」というと自分勝手なイメージがありますが、違います。

自分が生き残ったり、自分の遺伝子を残したりすること。これはどの生物にも当てはまる、その個体にとっての利益です。生存や繁殖に関わる利益を確保するような性質が進化の過程で残り、現在の私たちにも受け継がれています。助け合う性質も、そのような利益を確保するために形作られた性質の一つです。

「結局は自分のためだって!?」

おやおや、こんな声が聞こえてきました。

「人間は、人を思いやって自分を犠牲にすることもあるじゃないか。」

「子供に対する親の無償の愛はどうなんだ?」

「○○(恋人の名前)のためなら何でもできるっ。」(あらあら♡)

一見したところ他人のための行動=「利他的」行動も、実は「利己的」です。どんなに美しい恋人同士の愛の誓いも、最終的には自分のため・・・。

子供など血縁者のための行動は、自分の遺伝子を残すことにつながるから。

恋人への思いは、パートナーを獲得して自分の遺伝子を残すため。

つまり「愛情」は、生存や繁殖という自分に利益となる行動を動機づけるものなのです。

夢を壊しましたか?

では、血縁や配偶者ではない人との協力関係ではどうでしょうか。

私の職場を例に見てみましょう。

①仲間が仕事に失敗して落ち込んでいるのを知る。
②元気づけるために、彼女の大好きなお菓子をあげる(ここで自分は出費している)。
③自分が彼女を励ましているところを、別の仲間が目撃していた。
④別の日、おなかが空いて食べ物を求めている私を、仲間が発見する。
⑤ 仲間が私にチョコレートをくれる。
⑥ 私はタダでチョコレートを手に入れた!

「同情」や「思いやり」から生まれた行為が、めぐりめぐって、私に利益をもたらしました。それは「利他的」な行為が第三者によって評価されたから。

誰かを手助けすると、まわりまわって自分に利益がもたらされる。つまり、手助けをする性質が生存に有利になることにつながり、進化の過程で選択されて広まりました。こうして、私たちは間接的に自分に得となる行為を無意識にとるようになったのです。

生き物には「利己的」な性質が基本的に備わっていると言いましたが、第三者の目を意識するというのは人間に特有の性質です。

たとえばチンパンジーは自分からほとんど手助けをしません。自発的に手助けをしても、相手や第三者が評価してくれなければ、自分に何も利益はもたらされません。そのためチンパンジーの進化の過程では、手助けをする性質が定着しなかったと考えられています。

これに対して人間には、第三者などが評価してくれることで、手助けをすると自分に利益がもたらされることがあったため、進化の過程で手助けをするという利他的な行動が広く定着したのです。

人間の特徴としてもう一つ、言語を使うことが挙げられます。集団の中で助け合いながら繁栄してきた人間は、利害関係の調整において言語コミュニケーション能力を獲得しました。このような能力を含む知性や理性は、脳の発達によってもたらされたものです。一説では、大きな群れを作って集団生活する種ほど脳が発達しているとか。

私が今回このようなお話をしたのは、「他者と関係性を築く性質を持っている生物」としての人間像に光を当てるミニトークの準備を進めているからです。これは、12月22日から当館5階にお目見えする新展示「ぼくとみんなとそしてきみ」との連動企画です。

他者との関係を築く上で、生物として、社会的・文化的存在として、人間は生来的にどのような性質を持っているのでしょうか。

新展示がオープンしたら、ぜひ人間の不思議に迫ってみてください!


<参考>

個体レベルで利他的な行動も遺伝子レベルで見れば利己的であるという説を唱えたのは、イギリスの動物行動学者であるリチャード・ドーキンスです。彼は血縁関係にある個体どうしの利他的行動を、自分の繁殖や生存を高めるための「利己的な遺伝子」によるものだと説明しました。この説の元となったのは、イギリスの進化生物学者W・D・ハミルトンが提唱した「血縁淘汰説」です。利他的な行動であっても、遺伝子を共有する血縁関係にある他の個体(血のつながっている兄弟やいとこなど)の利益となる行為になり、結果として包括的に自分の遺伝子が次世代に残りやすくなるというのが、血縁淘汰説の考え方です。

また新展示では、「自発的な手助け」が無駄に終わるか利益をもたらすか、チンパンジーと人間の社会での結果の違いが「自発性」の違いを生み出し、進化の過程において人間には自ら手助けする性質が定着したという考え方を紹介しています。これは山本真也氏(京都大学霊長類研究所特定助教)の考え方に基づいています。

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