問いから始まる未来の旅へ──未来館の常設展示より

未来館の常設展示を紹介する連載の最後に紹介したいのは、こちら。

3階常設展示の出入り口付近にある「ノーベルQ」です。

「ノーベルQ」は、未来館をお訪ねいただいたノーベル賞の受賞者から、メッセージ代わりの「問い」をいただき、展示しています。具体的なものから哲学的なものまでさまざまですが、何かしらのメッセージが込められているように感じます。

展示より、一部を抜粋しました。

気になる問い、深めてみたい問いを探してみてください。


なぜと問うのはなぜだろう? 不思議に思う心を育もう(白川英樹)

人間とは何か。私達が生きる真の意味は何だろうか(野依良治)

あなたの夢はなんですか? 夢に向かって頑張っていますか?(山中伸弥)

愛される知(益川敏英)

「触媒」って何のこと? どういう役に立つの?(根岸英一)

不思議に思う心を忘れていませんか?(梶田隆章)

いつまでも好奇心を持ちつづけるには、どうしたらいいのかな?(田中耕一)

科学でどうしてもわからないことって、なんだろう?(小柴昌俊)

あなたが本当にやりたいことはなんですか?(赤崎勇)


「そもそもどういう問いなんだろう?」
「これ、『知はどうすれば愛されるんだろう?』という問い、つまり『知を愛されるように使おうね』というメッセージなんじゃないかな」
「これが良い!猫が好きだから」
「僕たちがこれからどうしたいのか、なんていうのは科学だけじゃ分からないね」

一人ひとり、気になる問いも、感じること、考えることも、違うと思います。

それは、この「ノーベルQ」だけでなく、これまでに見てきた展示の中にあった「問い」でも同じこと。

・人間の「共感」という性質と、どう付き合っていこう?

・宇宙から地球を見たら、どんなことを感じるだろう?

・一緒に住むなら、どんなロボットだと心地よい?

入館券の裏面にかかれている問いも、そうかもしれません。

ある日、科学に苦手意識があったというゲストと展示を見ながら語り合った後、次のような感想をもらいました。

 「科学って、正解が決まっているものだと思っていたけど、ここでは何を言っても間違いじゃない気がした」

 「きょうは知識や情報ではなく、問いと視点を持ち帰るね」

科学で「分かる」ことや、技術で「できる」こと、つまり世界観や、未来への選択肢は、ある程度の決まった説明ができます。

でも、それを踏まえて、「どう感じるか」「どうしたいと思うか」。

そこには、決まった答えがありません。

だからこそ、よく考えたいし、そのための「問い」を大切にしたいと思うのです。

これまでの記事も含め、印象的な「問い」はあったでしょうか?

今回の展示紹介の連載は(生命や情報のコーナーもやりたかったのですが)、そろそろ終わりにします。

Geo-Cosmosを振り返りつつ、出口へ向かいましょう。

締めくくりに、3階常設展示の出入口「ミライゲート」にある文章を紹介しつつ、お付き合いしてもらったお礼を言わせてください。


日本科学未来館の展示のなかには、"答え"ではなく、"問い"があります。

なぜなら、未来がどんなものになるのか、答えは決まっていないからです。

(中略)

未来館は、私たちがこれから生きる世界について、科学の視点で考え、語り合う場です。

さぁ、"問い"から始まる未来の旅へと踏み出しましょう。


「問い」を見つけ、考え、語り合い、行動する――。

科学コミュニケーターは「職業」というより、そのプロセスのお手伝いをする「立ち位置」のようなものだと個人的に思っています。

未来へ向けてどうすれば良いか、科学だけで答えが出せないことがたくさんあるから、一緒に考えて、語り合いたいのです。

私がそれに気づき、その楽しさを味わうことができたのも、未来館での対話や、この科学コミュニケーターブログに付き合ってくれるみなさんがいたからこそ。

5年間、本当にありがとうございました。

展示の文章の冒頭を「私たちが生きているこの世界には」と読み替えて、次の旅へと踏み出したいと思います。


【紹介展示】
ノーベルQ
ミライゲート

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