「円周率の日々」数字を無限に並べて計算してみたら(完全版)

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突然ですが、3月14日は何の日だったかご存知ですか?

そうですね。円周率の日です。昨日の3月14日には私たち科学コミュニケーターが円周率と数学にまつわる記事を書きました。

・森廣がTHE PAGEに書いた記事「アキレスは亀に追いつけない? 「円周率の日」に考える無限とパラドックス」 https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190314-00010000-wordleaf-sctch
・私がブルーバックスのWEBサイトに書いた記事「「円周率の日」に数字を無限に並べて計算してみたら...美しい!」 https://gendai.ismedia.jp/articles/-/63388

そう、今年のテーマは円周率と無限です!

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円周率はp=3.14...と永遠に続く数です。この数字の並びから、3月14日は円周率の日と呼んで差し支えないでしょう。しかし円周率をもう少しよく見てみると、p=3.1415...ということで、本日15日も円周率の日ではないですか。円周率の日々ですね。

本記事では、上記のブルーバックスのWEB記事を掘り下げまして、完全版をお届け致します。昨日に引き続き、現実逃避を楽しんでください!

 

■1.円周率から無限への突入

この記事を書く前に、東京工業大学で数学を研究されている加藤文元先生にお話を伺う機会がありました。「数学という学問は、本来は自由な発想をしてよい学問である」と伺いました。学校のテストで解く「数学」は、数学という学問とは別物といった具合でしょうか。

 

加藤先生のこのお言葉はこの後の「無限桁の数」の話を知って強く納得しました。皆さんもこの視点で円周率「p」を見てみましょう。

 

まず、皆さんは円周率を何桁くらいまで覚えているでしょうか。

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円周率の小数点以下の数字は永遠に続くという話はどこかで聞いたことがあるかもしれません。さらに言えば、永遠に続くだけでなく1/7 = 0.142857 142857 142857...のような数字の繰り返しにもなっていません。割とランダムに数字が表れてくるのです。

※ 本当に0から9の数字がかたよりなくランダムに出てくるかどうかという問題は未解決です。

 

「小数点以下の数字が永遠に続く」と言えば、下の式がときおり話題に上がりますね。

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これを説明する方法は色々あると思いますが、ここでは次の方法で確認してみましょう。

【方針】「0.999999999999...」をxと置いて、10倍してみる

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(ちょっと怪しいですが)1 = 0.999999999999...を理解できたでしょう!10.999999999999...は同じ性質を持っているのだと思ってください。

上の説明がわかりやすかったかどうかはともかく、小数点以下に数字が永遠に続くという数は皆さんも見たことがあるものだと思います。1 = 0.999999...や、1/7 = 0.142857...のようなものがありますし、√2 = 1.41421356...(一夜一夜に人見ごろ)などもなじみ深いかもしれません。そして、円周率p = 3.1415...もあります。

ではそろそろ、加藤先生のメッセージにあったような自由な発想に触れてみましょう。

 

■2.数字が無限に積み上がった数

小数点以下に数字が無限に続く数があるなら、「小数点以上」に数字を無限に続けたらどうなるのでしょうか?例えば、下の数字です。

...999999999999

一番上の桁が無いのでこの数字は読めないですね。無限に続く小数と違って、こんな数は学校で習わなかったと思います。では、この数は何なのでしょう。

2-1.「9」が無限に並んだ無限桁の数

0.999999999999...の場合はxと置いて10倍したので同じようなことをしてみましょう。

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なんということでしょう。無限桁の圧倒的に大きな数のように思えたこの数がなんと0より小さい-1と同じ性質があるという結果になってしまいました。(この違和感については補遺1)

無茶苦茶な計算をしたから無茶苦茶な結果が出たのだろうと顔をしかめてこの記事を読まれている気がします。では、「...999999999999 = -1」がどのくらい妥当なのか検証してみましょう。

(1)-1 + 1 = 0

-1は1を足せば0になります。これを検証してみましょう。筆算で計算してみます。

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0が無限桁並ぶのでこれはもう0でしょう!しかし、無限の彼方に1があるだろうと言われそうです。無限の彼方まで9を足し続けるので繰り上がった1が下に降りてくることはありません!

つまり、

...999999999999 + 1 = ...000000000000 = 0

「...999999999999 = -1」が正しく思えてきたでしょう。ではもう一つ。

(2)(-1) × (-1) = 1

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 ...0000000000000001、これはつまり「1」です。

※ 補遺2:当記事末尾に、この等式をもう一つの方法で検証しています。数列が好きな方は読んでみてください。

 

...999999999999という変な数の性質がわかってきましたね。今度はもう少し複雑な、規則性なく数字が並んだ無限桁の数について調べてみたいです。

 

2-2.二乗しても変わらない無限桁の数

√2 = 1.41421356...のように、数字が不規則に出てくる無限桁の数をつくりましょう。二乗して2になるのではなく、二乗しても変わらない数(元と同じになる数)を考えます。

まず、...000000000001、...000000000000のようなあまり面白くない例はすぐわかります。1と0は二乗しても元と同じ数になりますね。この2つはここで忘れます。

一桁ずつ計算してみましょう。一桁目が二乗しても変わらないのは、0と1以外に、5や6があります。5×5=25、6×6=36というわけで、一桁目は変わらず5と6のままですね。

では、二桁の数字で二乗しても二桁目まで変わらない数字は何があるのでしょうか。5の場合で考えてみます。

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途中で気づきましたが、下二桁はすべて「25」ですね。つまり、25は二乗しても下二桁が25で元の数と同じです。では次に三桁で同じことをしてみます。

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これも途中で気づきましたが、下三桁はすべて「625」です。625は二乗しても下三桁は「625」と元の数と同じです。この先を求めるのは簡単そうですね。次のようになります。

...918212890625

本当に二乗して同じになるかどうか筆算してみましょう。皆さんもやってみてください。

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同じになりましたよ!

では、下一桁が6の場合もやってみます。これを求める計算は読者の皆さんでやってみてください。結果は下のようになります。

...081787109376

 

これで2つの無限桁の数が作れました。

...918212890625

...081787109376

この数には実は、次のような面白い性質があります。(参考:補遺3)

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ぜひ皆さんの手でも計算して確かめてみてください。きっと感動します!

しかし、ここでちょっと問題が起きています。それは、「(2)2つをかけ算したら「0」」という特徴です。0が出てくると割り算の時に困ります。どんな数も0で割ることはできないからです。また、通分するときに分母を掛け算して0になってしまっても困ってしまいます。

無限桁の数の面白い特徴がたくさんわかってきたところですが、割り算で問題が発生するという残念な空気が漂い始めました。

なぜこのような問題が発生したのでしょうか。それは、私たちが自然と使っていた数、9に1を足したら繰り上がって10とするという【10進数】に原因があります。「10」が良くなかったのです。じゃあ、何が良いのか。【素数】であれば良いのです。素数進数です。(補遺4)

素数とは、1かその数自身しか約数を持たない数のことです。例えば、

2, 3, 5, 7, 11, 13, 17, 19, 23, ...

などがあります。

※ 1は定義上、素数ではありません!

素数進数というのは、2進数、3進数、5進数などということです。これらで無限桁の数を作れば、0でない数を使ってどんなかけ算をしても0にならないので、安心して割り算ができます。素数は英語で「Prime(プライム)」というので、この素数進数は【p進数】と呼ばれます。

※ このp進数というのは、「普段私達が使っている10進数をp進数法に変換したもの」とは少し違います。今回お話したような無限桁のp進展開で表される数を指しています。

p進数の世界では無限桁の数で通常の計算ができます。そして、私たちが普段使っている数ではうまく表せなかったような次の数がp進数では書き表せるのです!

 

・-1(私たちの世界ではマイナス記号が必要ですが、無限桁の数を使えばそんな記号は不必要です)

・二乗して2になる数(√2ですが、ルートという記号は不必要です)

・二乗して-1になる数(「虚数」と特別に呼ぶ必要がない世界です)

※ それぞれどのような数になるかは補遺5を参照

 

■3.万物はp進数である、かも

さて、円周率の無限小数から連想した無限桁の数がp進数という新しい数の世界につながりました。しかし、「おもしろい数だけど、数遊びだよね」と思われてしまいそうです。

ところが、最近、私たちのこの世界を理解するにはp進数を使えばよいのではないかという研究が進んでいます。それが、【p進量子力学】です。p進数を使って、量子力学という物理学を研究している分野です。

量子力学という学問は、「物質にはなぜ色があるのか」・「火や電球がなぜ光るのか」・「新しい性質を持つ化学物質はどのようなものか」などを教えてくれます。p進量子力学によれば、この世界の物理法則はp進数で書かれているのではないかというのです。

p進量子力学(1987年頃より発展)は、数学でp進数が発見(開発?)されてから(1900年頃)始まった分野です。数学の研究は誰よりも先にこの世界のことを知ることができる研究なのかもしれません。

 

「数学という学問は、本来は自由な発想をしてよい学問である。」

 

いかがでしたでしょうか。無限桁の数はただの数遊びではありませんでした。無限桁の数の性質を見れば加藤先生のお言葉が皆さんにも納得されたことと思います。その自由な発想が他の科学の発展にも貢献しているのです。読者の皆さんもこの円周率の日々を機に、「数学は面白いなあ」とか「自分独自の発想をしてみよう」とか「数学の世界に入りたいなあ」とか思ってもらえればうれしいです。

 

円周率の日々、いかがでしたでしょうか。この二日を機に、皆さんも数学を詩や文学のように楽しんでみてください。


■ 参考文献

・「天に向かって続く数」 加藤文明,中井保行 日本評論社,2016年9月30日第一版.

■ 謝辞

今回、この記事を執筆するにあたり、東京工業大学理学院数学系の加藤文元先生に大変お世話になりました。この場をお借りしまして厚く御礼申し上げます。

■補遺

(1)非アルキメデス的数学

ここで、次のような矛盾を感じた人がいるかもしれません。

『「...999999999999 = -1」のような性質が成り立つと、どう見ても...999999999999は正の大きな数なのに1よりも小さいというおかしなことになっている』

この印象はごもっともです。しかし、無限桁の数の世界ではそのような「順序」はありません。無限桁の数を他の数と比べてもどちらが大きい、小さいということは言えないのです。この性質を非アルキメデス的であると言います。

冒頭でご紹介しました加藤先生はp進数のような非アルキメデス的な幾何学を研究しています。リジッド幾何学と呼ばれるそうです。

 

(2)...999999999999=-1について:無限等比数列の和

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-1になりました。...999999999999 = -1なのですね。

 

(3)二乗しても変わらない無限桁の数

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(4)p進数であれば積が0にならない理由

※ 厳密な証明ではなく、雰囲気だけ味わってください。

ある2つのp進数A, B(もちろんどちらも0でないです)を掛け算したら0になると仮定して矛盾を導きます。

A × B = ...000000000000

A, Bの各桁の数字のうち、一番右にある0でない数字に注目します。それぞれA_m、B_nとしておきましょう。この2つは0でなく、p進数の桁の数字なので、下のようになります。

1 ≤ A_m ≤ p-1、1 ≤ B_n ≤ p-1

A, Bは掛け算したら0になるので、A_m、B_nも掛け算したら一桁目は0になるはずです。p進数であることに注意すればA_mとB_nの積はpで割り切れる数になると言いかえられます。

しかし、1 ≤ A_m ≤ p-1、1 ≤ B_n ≤ p-1なのでA_mもB_nもpを約数に持ちません。pは素数なのでA_mとB_nの積もpを約数に持ちません。つまり、A_mとB_nの積はpで割り切れないので一桁目は0になりません。矛盾です。

よって仮定は否定されるので0でないp進数の掛け算は0にならないのですね。

 

(5)-1や√2や虚数をp進数で表してみる

答えだけ書いておきます。検算してみてください。

-1 = ...111111111111(2進数) など

√2 = ...421216213, ...245450454(7進数) など

i = ...23032431212(5進数) など

-1と同じ性質を持つ無限桁の数はもう簡単ですね。1を足したら...000000000000になる数を考えればいいのです。

二乗して2や-1になる数(√2と虚数i)は、基本的に記事の中で使用した方法を使って求められます。ただし、どんなp進数でも求められるわけではなく、見つからないp進数もあります。それはどんなときか、という説明は他の記事にあずけます。もし興味がわいたら調べてみてください。p進数の世界が限りなく広がっていると思います。