アイデアは豊饒の海に宿る

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皆さんはじめまして。
ブログは初投稿となります。科学コミュニケーターの生田目(いくため)です。
どうぞ、よろしくお願いします。

今回のテーマは「アイデア」

ゴジラやウルトラマンの生みの親でもある「特撮の神様」こと円谷英二監督は、
それまでの常識からは考えられない作品を世に生み出し、
今なお人々に愛される「特撮」という新たな撮影技法の礎を築きました。

そんな円谷監督の撮影技法の中には、普段の生活からひらめいたアイデアもありました。

たとえば、円谷監督が冷めたみそ汁を飲んでいた時のこと。
お椀に沈むみそ汁の成分が煙のように見えたそうです。

ここから、火山から立ち昇る噴煙の撮影方法をひらめいた逸話があります。
実際には、火山のセットを取り付けた水槽に顔料を注ぎ、カメラを180度回転させて撮影したのだとか。
すると、比重の差で水槽の中の水に顔料がにじみ、
火山から煙が吹き上がる迫力ある様子を再現できたそうです。

みそ汁からアイデアを得るなんて、すごい!
でも、新たなアイデアのヒントが普段の生活の中に隠れているとしたら、
私たちにも、常識を変えてしまうアイデアが見つけられるかもしれません。

そのアイデアを頭の中に眠らせてしまうなんてもったいない!

ここ日本科学未来館には、そんな皆さまのアイデアを表現できる展示があります。
それが、3階「未来をつくる」フロア豊饒の海(ほうじょうのうみ)」です。

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ここは、皆さま自身が、未来の社会のアイデアを提案できる場所。
そのアイデアを、文章や絵で表現することができます。

アイデアを形にするためのヒントになるのが、ここにある「技術マグネット」です。

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"ウェアラブルデバイス"、"リサイクル"、"iPS細胞"、"レーザー"、
"高速化"、"巨大化"、"超小型化" など30個以上の技術マグネットがあります。
1つの技術に注目しても、複数の技術を組み合わせても大丈夫です。

これまで数多くのお客様が、未来を作るアイデアを残していきました。
今回はその中から、いくつか印象に残ったお客様のアイデアをご紹介します。

1. 介護用ロボットウェア

20190530_ikutame_03.jpg使用した技術:ロボットウェア

「力の無い人でも介護が楽にできるようになってほしい。」──これを描いてくれたのは、中学生の女の子でした。
「ロボットが介護をするのでは、人間のような温かみを感じない」と考え、
ロボットではなく、人間自身が身に着け、力仕事を補助するロボットウェアを考えたそうです。
介護に関わる方がご家族にいるとのことで、これも身近なことをヒントにした素晴らしいアイデアですね。

それでは、次のアイデアです。

2. どこでもコンピュータ

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使用した技術:ウェアラブルコンピュータ人体通信空中描画

これは、複数の技術を組み合わせた「どこでもコンピュータ」というアイデアです。

そのきっかけは左上に書いてある
「わざわざ重いノートパソコンを持ち歩きたくない」という日々の暮らしで感じた願いです。

小型のコンピュータがメガネ型のデバイスに取り付けられており、
メガネに浮かぶ空間上の画面を指先やペンで操作して情報にアクセスできるだけでなく、
脳とコンピュータをつなげることで、確かな記憶をメモしたり、待ち合わせ時刻の10分前になると教えてくれたりもします。
さらに、相手の手を握るだけで情報交換もできるようにしたいということでした。

これは、Google glassなど現在のメガネ型のウェアラブル端末がもっと発展すれば、近い将来実現するかもしれませんね。
ここまでの大作を描いて下さる方はなかなかいません。たくさんの絵で分かりやすく教えてくれました。

続いてはこちら。


3. 3Dプリンターの未来

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使用した技術:新材料開発印刷技術超小型化遠隔操作

最近よく耳にするようになった3Dプリンターを使ったアイデアです。
軽い・強い・おいしいなど、様々な性質の素材を作って用意し、
小型化&軽量化した3Dプリンターで物として成形するというアイデアを描いてもらいました。
確かに、これが現実のものになれば、物を運ぶ"輸送"の時代から、物をデータ化して送る"転送・印刷"の時代に変わるかもしれませんね。

ではここで、このアイデアと次のアイデアを見比べてみてください。

4. テレポーテーション

20190530_ikutame_06.jpg使用した技術:超小型化情報化

このお客様には、物体を量子サイズまで超小型化して、データとして送信し、受信先でデータを元のサイズに戻すことで、
遠く離れた距離でも、まるでテレポーテーションのように、一瞬で届けることのできるアイデアを描いてもらいました。

このアイデア、先ほどの「③ 3Dプリンターの未来」と似ていると思いませんか?

実は、先ほどの3Dプリンターのアイデアを描いてくれた方のお連れ様のアイデアなんです。
別々に描いてもらったはずなのに、同じようなアイデアが生まれたところに、お二人の仲の良さを感じます。
せっかくなので、お二人にはお互いのアイデアを見比べてもらいながら、意見を出し合ってもらいました。
お二人の会話の一部を切り取ると、こんなことを話していました。

"―もし仮に物体を転送できたとして、受信側で再構築できなくては意味がありません。
3Dプリンターは素材を出力することで、物体を復元できますが、
様々な素材を事前にそろえる必要があるので、それだけでもかなりの手間がかかります。

一方、テレポーテーションは、事前に個別の素材をそろえておかなくてもいいところに3Dプリンターにはない便利さがありますが、
まずはちゃんとデータを送受信し、その場で再構築ができるかが心配―"ということでした。

"物体の輸送"を"データの転送"の時代に変えるためには、まだまだ課題がありそう。

お客様に描いてもらったアイデアをお客様自身が発展させて、課題の発見へとつながりました。
課題が分かれば、克服するために、さらにアイデアが生まれます。
これを繰り返すことで未来が少しずつ作られるのかもしれません。

課題を克服した先には、人体の転送もできるかも?
満員電車に乗らなくて済むかもしれない、なんて面白おかしくアイデアを広げていました。

最後はこのアイデア

5. 自動シャワーボックス

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使用した技術:
視覚センサにおいセンサ接触センサロボットウェアモーターハイブリッド化

これは、お客様とお連れ様の2人で1つのアイデアを描いてくださった例です。
アイデアを出したお客様は、「毎日シャワーを浴びるのが面倒くさい」とのことで、
シャワーを自動化するためにはどうすればいいのか、お連れ様とのアイデアを描いてもらいました。

視覚センサやにおいセンサを使用して、体の位置やにおいを確認でき、
接触センサを使用して、心地よいと感じる体の洗い方を実現。
細かな手先の動きロボットウェアで再現し、洗剤の買い置きがなくなったらスマートスピーカーで注文できる、
という、まさに至れり尽くせりのアイデアですが、

なんと!お客様とお連れ様が大激論!

「これはいる!」と技術のマグネットを貼り付けては、
「これはいらないでしょ!」とそれをはがすの応酬でした。
自分の体にぴったり合ったものではなく、他の誰かにも合うようにするには、何が必要なのかなど、
いろんな角度に視点を移して議論されていて、まるで、本当に製品を開発しているチームのようにも見えました。

皆さんもお友達やご家族とご来館されたとき、お互いにアイデアを出し合い、
より良いアイデアに変わる過程を楽しんでみてはいかがでしょうか。

また、おひとりで来られたら、私たち科学コミュニケーターが皆さんのアイデアを膨らませるお手伝いをいたします。
白いベストを着て常設展をご案内しておりますので、皆さま遠慮なく話しかけてください。

今回は私が選んだ皆さまからのアイデアを5つご紹介しましたが、豊饒の海では毎日素晴らしいアイデアが誕生しています。
みなさんのこうした声は、未来への期待や現状の課題そのものなのかもしれません。
その声を研究者の方に届ける役割を担うのが、みなさんと研究者の間の橋渡しになる私たち、科学コミュニケーターなのです。

さて、ここに挙げたアイデアの例を見て、こんな感想を抱いた方はいませんか?
「こんな技術は、夢のまた夢だ。できっこない。」
でも、本当にそうでしょうか?

仮に100年前の人々に、様々な情報を瞬時に手にできるインターネットの話をどんなに分かりやすくしたとしても、
「夢のまた夢」の話と片付けられてしまうでしょう。

でも、「夢のまた夢」はいつか叶うときが訪れます。
その証拠に、私たちは、過去の人々には想像もできないであろう技術に支えられて生活しています。

皆さんが描く2019年の「夢のまた夢」は何でしょうか?
皆さんのアイデアが一つ。「夢のまた夢」がまた一つと増えていくたびに、
未来のカタチにまた一つ可能性が加わります。

さて、今日はどんなアイデアが生まれるでしょうか。
未来が来るのを待ちわびるのではなく、皆さまのアイデアで、未来を創造してみてください。