2013年ノーベル物理学賞、発表!〜新しい物理学の幕開けだ!〜

こんにちは!本田からバトンを受け取った福田です!

発表が1時間遅れ、じらされました!甘党の福田です!

今年のノーベル物理学賞、

「CERNのLHCを用いたATLASとCMS実験による存在が予想された基本粒子の発見によって、最近確認された素粒子の質量の起源に関するメカニズムの理論的発見」

の詳報を、ノーベル賞の発表直後、興奮冷めやらぬ未来館からお届けします。

とてつもなく長いブログになってしまいましたので、3部構成にしたいと思います。

最後のピースが埋まる!

素粒子の世界の基本理論を表す「標準模型」という考え方があります。その標準模型では、この世の物質をつくる最小の粒々「素粒子」が、下の表のように17種類あると考えられています。そして、最後まで見つけられなかったのが、この「ヒッグス粒子」。最近の発見で、

標準模型のピースがすべて埋まったのです!

ヒッグス粒子を発見したらどうなるの?

「ハァァ〜〜〜〜〜〜!!!」

気が狂ったのではありません...。赤ネズミのぬいぐるみを触れずに倒そうとしています。

物に手を触れずに、力を加えることはできるでしょうか?

実は「場の力」ならば、触れずに力を加えられます!世の中には4つの場の力があります。

身近な電磁気力を見てみましょう。磁石のN極とS極は、離れていてもくっつこうとします。磁石の周りには目に見えない何かがあるのでしょうか?この磁石に、ビニタイと呼ばれる針金を散らすと...。バッ!!

(リンクは削除されました)

何ということでしょう。触ってもいないのに、針金が花を咲かせたように立っています!これが「場の力」です。そしてそれぞれの場の力には、力を伝える粒子があるんです。例えば電磁気力は「光子」、弱い力は「Wボゾン」と「Zボゾン」という粒のように。

これらの力はもともと、全部同じものだったと考えられています。そして今回のノーベル賞を受賞した研究は、

電磁気力と弱い力が分かれた瞬間と深いつながりがあるんです!

光子には質量がないですが、WボゾンとZボゾンには質量があります。しかし、宇宙のできたばかりのころは、WボゾンとZボゾンにも質量がなく、弱い力と電磁気力は同じ力だったと考えられています。しかし、宇宙ができて1兆分の1秒後に、WボゾンとZボゾンが質量を持ち、電磁気力と弱い力が分かれました。

なぜWボゾンとZボゾンは質量を持ったのか?

その疑問に答えたのが、素粒子に質量を与える理論「ヒッグス機構」なんです。ピーター・ヒッグスらが、1964年に提唱しました。そして。もしこの考え方が正しいならば、質量を持つ素粒子があると予言されました。その素粒子こそが「ヒッグス粒子」です。なので今回、ヒッグス粒子が見つかったことで、

素粒子に質量を与えるヒッグス機構が

正しいと証明されたんです!

【コラム】ヒッグス粒子でダイエットできるの!?

素粒子の世界の基本原理を表す標準理論の完成!なんてすごいのは分かったけど、皆さんこれが気になりますよね。

自分とは関係あるの?

大ありです!

私たちの体を作っている材料の原子は、原子核の周りを電子が回っています。もしヒッグス場がなかったら、電子が質量を持たないので、光の速さでどこか遠くにすっ飛んでいってしまいます。

10億分の1秒という一瞬で、体がバラバラになります!

最近ツイッターでこんなつぶやきを見つけました。

ヒッグス場の影響をなくせば、ダイエットできる?

想像しただけで恐ろしいですよね。そんなことしたら一瞬で体がなくなってしまいます!

第2部 ヒントは「超伝導」に隠されていた!

みなさんは、未来館の超伝導の実験を見たことがありますか?超伝導とは、超伝導体と呼ばれるものをある温度より冷やすと、電気抵抗がいきなりゼロになってしまうという現象です。この超伝導の状態になると、磁場が超電導体の中に入り込めなくなり、磁石のN極を近づけても、S極を近づけても反発します。これを「マイスナー効果」と呼んでいます。

そして、2008年にノーベル物理学賞を受賞した南部陽一郎さんは、磁場が入り込めなくなる理由をこう考えました。

「超電導体の中では、光子は質量を持つ!」

光子が質量を持つと電磁気力が近くまでしか伝わらないから、磁場が入り込めなくなると考えたのです。

光子はどのように質量を持つのか?

いきなりですが「光は波であり、粒でもある」って聞いたことありますよね!光子には質量がありません。これは、光が横波しかないことと関係があるんです。そして、光が横波だけでなく縦波も持ったときに、光子が質量を持ちます。

その縦波とは一体何なのか。南部さんがノーベル賞を受賞した

「対称性の自発的破れ」

という考え方と、深い関係があります。

タイショウセイノジハツテキヤブレ・・・。

なんじゃそりゃ。大栗博司さんの著書「強い力と弱い力」によると、南部さんは「体育館にいる人の向き」を例えに出して、説明するそうです。

小学校の体育館を想像してみましょう。まずは休み時間。たくさんの子どもたちが、鬼ごっこをして走り回っています。みんながいろんな向きに走り回っているので、どの方向から見ても違いがありません。これを「対称性がある」と言います。

次に、卒業式を想像してみましょう。みんなが同じ方向を向いて、静まり返っています。先ほどと違って向きがあり、見る方向によって見え方が違います。これを「対称性が破れる」と言います。

(図の人が急に大人になったのは気にしないでください・・・笑)

超電導体の中でも同じようなことが起こっているのです。温度が高いときは、電子の回転がいろんな方向を向いていて、どの方向から見ても同じように見えます。しかし、温度が下がって超電導の状態になると、電子の回転が同じ方向を向きます。全体で見ても向きがあり、見る方向によって見え方が違います。つまり「対称性が破れる」のです。

再び体育館の例えに戻ります。卒業式でみんなが同じ向きを向いていたら、自分だけ激しい動きをするのには、心のエネルギーが要りますよね!?でも、ずっとじっとはしていられません!体を少し崩したり、少しくらいは動いちゃいます。人間だもの!そのわずかな動きが全体に伝わって"さざ波"ができるんです!

(図の人が急にスーツを着だしたのは気にしないでください・・・笑)

このさざ波こそが、光子に質量を与えた正体なのです!

光子が超電導体の中に入ると、さざ波が光子の縦波となり、横波と縦波を持つので質量を持つようになるのです。

そして、今回ノーベル賞を受賞した「ヒッグス機構の解明」は、超電導体の中で光子が質量を持つ理論に影響を受けているんです。素粒子はどのように質量を持つようになったのか。いよいよ核心に迫ります!

いよいよヒッグス登場!

そしてヒッグス博士は、WボゾンとZボゾンに質量を与えるために、光子が質量を持つ逆の流れを考えました。WボゾンとZボゾンが質量を持つためには、縦波になるようなさざ波が生まれれば良い。そのためには、なんらかの「場」の対称性が破れれば良い。そこで、ヒッグス博士は大胆な予想をしました。

「世界は『ヒッグス場』で満たされている!」

最初の宇宙は高温で、ヒッグス場の対称性がありました。しかし、宇宙ができて1兆分の1秒後、宇宙の温度が4000兆度まで低下(めちゃめちゃ熱いですが、宇宙規模だと冷えてるんです・・・(苦笑))。ヒッグス場が同じ方向を向いて"凍りつき"、対称性が破れたのではないか、と考えたのです。

こんなのどうやって証明するんだよ...って感じですよね。そしてヒッグス博士はもうひとつ予言しました。

「ヒッグス場があるとすると、質量を持つ粒子が現れる」

これが、今回の主役のヒッグス粒子です!

「素粒子はなぜ質量を持ったのか」という問いに迫るヒッグス機構が正しいことを証明するために、ヒッグス粒子の探索が始まったのです。

ヒッグス確定!直前で最後のひと押し

なんと発表直前の今月4日、驚きのニュースが一部全国紙に載っていました。

「ヒッグス粒子 存在確定 物理学の標準理論完成」

このタイミングで!と朝刊を見てびっくりしました。何を持って確定したかというと、素粒子の自転を表す量「スピン」がゼロと確認できたことが大きいようです。

今まで見つかっていた17種類の素粒子は、すべて"アイススケートの選手"のようにクルクル回っています。しかし今回見つかったスピンは回っていない。今まで見つかった粒子とまったく違ったんです!

「今まで見つかった素粒子はクルクル回っていて、

見方によって違うように見える。目鼻立ちがある。

しかし、ヒッグスはどこから見ても同じ。のっぺらぼう」

今年6月に、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構(カブリIPMU)の村山斉機構長を取材しました。村山機構長はこのような表現をしていました。

終わりでなく始まり

素粒子の世界の基本原理を表す標準理論が完成したならば、これで物理学の謎は解けてしまったのでしょうか。村山斉機構長に問いかけてみました。

「今回の発見は新しい世界への窓口。

のっぺらぼうな粒子がたくさんあって、

その最初の1個が見つかったのがヒッグスかもしれない。

ヒッグス粒子をきちんと調べていくと、

仲間が見えてくる可能性がある

ヒッグス粒子仲間の中に、暗黒物質があるかもしれない!」

村山機構長は、ヒッグス粒子の発見は終わりではなく始まりだと話していました。

新しい物理学の幕開けだ!

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