結局どうなる? アイソン彗星

発見当初は「満月より明るい歴史的大彗星になるかも」と期待されていたアイソン彗星。ここまでのところ、写真にはよく写るようになりましたが、肉眼ではほとんど見えませんでした。そしてこれから太陽に近づくため、観測は小休止です。
では、一番の見ごろと言われる12月上旬には、どんな姿を見せてくれるのでしょうか?
大きな声で、結論から言います。
「分かりません!!」(ごめんなさい)
今のところ一般的な予想は、
「数年に一度は見られる彗星程度の明るさにとどまる」というシナリオ①。尾は多少伸びるかもしれませんが、11月中と同じように肉眼ではあまり見応えがなく、都市部の明るい夜空では見つけることも難しいかもしれません。
ただ、これ以外に大きく分けて2つのシナリオが考えられます。
「彗星本体が消滅して見えない」という最悪のシナリオ②と、
「再び予想を覆し、大彗星に大変身する」という夢のようなシナリオ③です。
「大きくなって帰ってきてね」 静岡県内にて 谷 明洋 撮影 11/22 5:13 NikonD600 ズームレンズを170mm/F4.5で使用
スカイメモR ISO1100 13秒露出の3枚を合成
ぜひ、みなさんの目で確かめてもらいたいと思います。だって、本当に大彗星になったら、とても美しいから。一番の見ごろは12月5日前後から10日過ぎくらいまででしょうか。最新情報に注意し、日の出の2時間くらい前から40分ぐらい前まで、東の空低くに尾を伸ばした風変わりな天体を探してください。
それにしても、なぜこんなにも対照的なシナリオが考えられるのでしょうか?
【「雪だるま」が太陽に大接近】
それは、彗星の正体、そしてアイソン彗星の軌道と大きく関係があります。太陽に大接近する11月29日の前後で、見え方が劇的に変わる可能性があるのです。
彗星の正体は、「汚れた雪だるま」にたとえられます。塵やガスを含んだ氷の塊で、直径は数km程度。太陽系の彼方から飛んできて、太陽に近づくと太陽熱で融かされ、噴出した塵やガスが尾を引くように見えます。
探査機がとらえた別の彗星。正体は「汚れた雪だるま」©NASA
アイソン彗星の最大の特徴は、太陽をかすめるような軌道。ほとんどの彗星が地球軌道の内側にすら入らないことを考えれば、水星より遥かに太陽に近づくアイソン彗星がいかに特別かお分かりいただけるでしょうか。
太陽に大接近するアイソン彗星の軌道(国立天文台提供)
【灼熱の旅路で何が起こるか】
想像してみてください。「汚れた雪だるま」が太陽至近の強い重力を受けながら「灼熱地獄」のようなところを通るのです。
平凡に終わるシナリオ①は、「太陽に接近した彗星が、特に何事もなく、計算通りに氷を融かされて戻ってきた」場合のこと。でも氷が予想以上に融けたり、分裂したり、「何か」が起こっても不思議ではありません。そして、雪だるまの構造のほんの少しの違い──例えば、水と塵の割合がどれくらいか、大量噴出や分裂の引き金となるような亀裂があるか──などが、「何か」の内容や起こるタイミングに影響し、見え方が大きく変わるのです。
アイソン彗星が長い旅路の中で、たった一度だけ太陽に近づく晴れ舞台。それは同時に、とても過酷な時間でもあるのです。11月29日前後は、欧州宇宙機関とNASAによる太陽・太陽圏観測衛星SOHOの画像でその様子を見守るのも面白いかもしれません。
過去の事例では、2000年にリニア彗星が太陽の重力などの影響で崩壊し、見えなくなってしまったことがありました。
2011年のラブジョイ彗星は太陽に大接近してやはり崩壊しましたが、その前後で噴出した大量の塵やガスが長い尾となって見えました。本体がアイソン彗星よりはるかに小さく、ほとんど期待されていなかったにもかかわらずです。ただし、このときは南半球からしか見えませんでした。
分裂・崩壊したリニア彗星© H. Weaver (JHU) et al., WFPC2, HST, NASA
太陽接近後に長い尾を伸ばしたラブジョイ彗星
提供:サザンクロス☆スターウォッチングツアー(ニュージーランド)
発見当初の予想からは、だいぶ「格下げ」された感のあるアイソン彗星。ですが太陽に大接近する以上、「何か」が起こる可能性はほかの彗星より遥かに高いと思います。野球にたとえれば、「三振か、ホームランか」という大振りのパワーヒッターのような性格の彗星です。
「三冠王」クラスの前評判で世間の注目を集めただけに、「三振」ならガッカリ感も歴史的な大きさになるでしょう。打ち損じた「ヒット」でも期待外れと言われてしまうかもしれません。でも、大逆転の「ホームラン」を宙に描く力も持っているはずです。
【12月上旬、夜明け前の東の空で探そう】
見ごろと予想されるのは、12月5日前後から10日過ぎくらいまででしょう。日が早いほど、彗星本体が太陽の近くにあります。その分明るく見える可能性が高いのですが、朝焼け空の低くにあるので彗星が暗ければ見えない可能性もあります。朝焼けに負けないくらいの明るい彗星になるかどうかで、ベストな観測日は変わってきます。
12月のアイソン彗星が見える位置(国立天文台提供)
まず、最新情報に注目してください。そして、天気予報と一緒に日の出時刻もチェックします。観測のチャンスは、日の出の2時間〜40分ぐらい前(早い日ほど昇ってくる時間が遅い)。東京ならば、午前4時半すぎから6時前ぐらいまででしょうか。東の空の低い位置に昇ってくるので、ビルや山などに邪魔されない場所が観察に適します。見上げるというより、水平に見る感覚に近いです。尾が暗めの場合は街明かりのないところに出かけると迫力が増します。彗星の位置を教えてくれるスマートフォンのアプリ(Vixen:Comet Book など)も便利です。
大彗星の魅力は、日々少しずつ、そして時には劇的に変わっていく姿と、肉眼でも分かるほうきのようなユニークな形。私も「期待しすぎてはいけない」と思うのですが、ワクワクする気持ちを抑えられません。同僚に「タニソン彗星」などと呼ばれながら(アイソン彗星に失礼じゃないかなぁ)、12月をとても楽しみにしています。
便利サイト
今朝のニュースによると、どうも崩壊してしまったようですね。ホームランを期待していたので、とても残念です。
谷さんの説明を読んでいたので、ニュースを見た時に汚れた雪玉が太陽の近くで散らばっていくシーンを想像しました(笑)。
いつも観測の参考になる丁寧な解説ありがとうございます。
新しいビックな彗星、来てほしいです!
アイソン彗星は日本時間のきょう29日未明、太陽に接近しました。
その前後で彗星が急激に暗くなる様子が、太陽・太陽圏観測衛星SOHOなどによって捉えられました。
NASAは彗星本体が消滅した可能性が高いことを発表しました。
12月にアイソン彗星を楽しむのは、難しい状況になりました。
下記サイト内に、SOHOが捉えた画像の連続再生があります。
「汚れた雪だるま」の太陽接近による変化をご覧ください。
https://www.nasa.gov/content/goddard/comet-ison-fizzles-as-it-rounds-the-sun/index.html
はらぺこラッコさま
コメントありがとうございます。
残念なニュースになってしまいましたが、私の記事がそれを見る助けになったのだとしたら、それはとても嬉しく思います。
同時に、彗星は「どうなるか分からない」からこそ面白いのだと、再確認しました。
新たな大彗星が、それこそ「彗星のごとく」現れてくれるのを待ちましょう!
12月になってから、子どもと一緒に早起きして見ようと思ったのにとても残念です。
汚れた雪だるまの話しをこれから小2の息子に説明します(笑)
スギヤマさま
コメントありがとうございます。
私も小学生の時に「ほうき星」の存在を知りました。そして、見るチャンスがなかなか訪れなかったので逆に憧れが募りました。
今回は本当に残念でしたが、息子さんと一緒に彗星の魅力や不思議を少しでも感じていただけたらと思います。