SDGsリレーブログ・ザンビア編 鉱山国の鉛汚染問題とその解決への道【前編】

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 国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成には、開発途上国を中心に多くの課題が残されています。科学コミュニケーターブログでは、そんな地球規模の課題を日本の研究者が現地の研究者と共同で取り組むSATREPS(サトレップス、地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム)の活動を連載で紹介していきます。
 第一弾は、アフリカ南部の国ザンビア。国の発展を支えてきた鉛などの鉱物資源が、不十分な処理によって住民たちの健康を脅かしています。鉛汚染の実態を調べ、被害を食い止めようと奮闘する日本とザンビアの研究者の取り組みを紹介します。(科学コミュニケーター綾塚達郎)


鉛鉱山による街の発展とその裏側──住民をむしばむ致死レベルの鉛汚染

 「教科書的には子どもにとって致死レベルです。データを初めて見たとき、間違いじゃないのかと聞き返してしまいました」
 人口約22万人の中央州都カブウェで鉛汚染の実態を調べている北海道大学教授の石塚真由美さんは、現地の子どもたちの血液検査結果をみて驚いた。


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カブウェの鉛鉱山跡地
国の発展に貢献してきた一方で、深刻な鉛汚染の発生源となっている


 「鉛の血中濃度が基準値の約20倍、1デシリットルあたり100マイクログラムを超えているケースも珍しくはありませんでした。毒性学的には信じられないくらい高いのです」

 鉛は家電や電池など身近な生活用品に使われており、私たち日本人の身体にもわずかに含まれている。しかし、たくさん体に取り込まれると、特に腎臓や肝臓や骨、脳にたまる。そうした鉛は臓器や神経にとって毒となる。

 カブウェは、100年以上前に見つかった亜鉛・鉛鉱床の採掘で発展してきた。現地住民にとって、そうした鉛鉱山は日常風景だ。鉱山のすぐ隣に住宅街が広がり、街中には鉛の精錬工場もある。工場付近には商店や理髪店、看護学校があり、多くの人たちが行き交っている。

 一方、カブウェの鉛鉱山や精錬工場では、鉱石の不純物を取り除く精錬方法が粗雑で、さらにその過程の廃棄物が野ざらしにされてきた。鉛による環境汚染がすすみ、世界の汚染地域の調査を行っているブラックスミス研究所(現・Pure Earth)によって、今では世界で最も汚染された10の地域の一つとして名前が挙げられている。事態は一刻を争うものだった。


20190728_ayatsuka_01.pngザンビアはアフリカ南部に位置する。ザンビア中央州の州都がカブウェ


 石塚さんもカブウェの鉛汚染を最初から知っているわけではなかった。ザンビア大学の獣医学部設立に北海道大学が貢献した歴史があり、そのつながりから鉛汚染のことを知ったという。当時はまとまったデータがほとんどなく、汚染はどれほど広がっているのか、どのように対策をすればよいのかわからなかった。手探りの状態から調査が始まった。

 2016年、こうした状況を打開するため、北海道大学とザンビア大学が中心となってプロジェクトを立ち上げた。プロジェクト名には、プロジェクト終了時にはみんな笑顔で乾杯したい!という想いが込められ、KAMPAIプロジェクト (KAbwe Mine Pollution Amelioration Initiative)と名付けられた。


トカゲ捕獲が鍵?鉛汚染拡大の謎にせまる

 汚染の広がり方を知るためには、広い範囲を調査しなければならない。プロジェクトの調査対象は鉱山を中心に最大直径約60kmの範囲におよび、環境調査が進められた。直線距離でフルマラソンの距離をこえる広さの調査地で、研究員たちの地をはうような調査が始まった。


20190728_ayatsuka_02.jpg土の採取の様子。鉛汚染の調査対象地も現地住民にとっては日常風景だ
(写真右下:中田さん、写真左下:藤森 崇さん・京都大学大学院工学研究科 助教)


 土、水、生き物に含まれる鉛を調べることで、どこまで、どのように鉛汚染が広がっているか調べることができる。例えば、鉱山から遠く離れた場所に生息するトカゲの肺に多くの鉛が含まれていると分かれば、鉛が粉塵として風によって運ばれている、と仮説を立てることができる。

 「ようやく1匹目のトカゲを捕まえた時の感動は、他では味わえないものでした」

 2017年から家族とともに現地に住みながら研究を進めるJICA在外研究員の中田北斗さんはこのように振り返る。トカゲを捕獲した経験のあるメンバーはおらず、文字通り手探りでサンプル採取に奮闘しなければならなかった。その他、動物のサンプリング時には狂犬病などの感染症に注意は欠かせず、現地住民の協力を得ることも必須だった。

 多くの調査が行われた結果、鉛汚染が広がる様子が見えてきた。カブウェでは概ね年間通じ、南東から北西方向の風が吹く。そして、風下の地域で鉛濃度が高くなる傾向が認められた。鉛鉱山を起点とし、風によって粉塵が飛散していることが主な要因であることがわかってきた。

 プロジェクトでは、鉛が粉塵として広がらないようにする対策の研究も進めている。例えば、現地の材料を使って土の中の鉛を固定し、鉛が広く染み出さないようにする技術の開発も行われた。半焼性ドロマイトという、カルシウムやマグネシウムを含む物質を熱処理したものを土に混ぜ込むことで、鉛を溶け出さないようにすることができる。また、他にも粉塵として鉛が舞い上がらないように植物で土の表面を覆う研究も行われた。レモングラスという植物は、土の鉛濃度が高い中でも育つ。さらに、鉛をあまり吸収しないためハーブとして売ることもできる。鉛の拡散を防ぎ、現地住民の収入にもなる対策方法だ。

 プロジェクトは2021年まで5年間継続される予定だが、これまでの研究によって汚染状況や今後の対策方法が見えてきた。


現地住民との二人三脚によるプロジェクトと残された課題

 これまでの調査結果を含め、現地住民にリスクを知ってもらうことが健康被害を防ぐ第一歩だ。一方で、中田さんはその難しさを肌身で感じている。

 「鉱山からの鉛が問題になっていることも、立ち入らないほうが良い場所があることも、現地の人はすでに何となく知っています。仕事に向かう道として通らないといけないならば通りますし、鉱山周辺の仕事が少しでも現金収入になるということであれば行きます」

 それでも、あきらめずに現地の人への啓発活動を行っていく予定だ。

 「現地の人とどれだけ信頼関係を結べるかが重要です。そのうえで何となく諦めてしまっている人たちに、データを示して本当に危ないということを分かってもらえたらいいなと思っています」

 石塚さんは、「このプロジェクトはザンビア大学や北海道大学の研究者だけでなく、多くの現地住民も関わっている。現地住民の理解や協力なしには、そもそもサンプル採取すらできない。研究者と現地住民の、まさに二人三脚の体制づくりがプロジェクトの成否を握っている」と強調する。貧困削減や開発支援を活動の目的としている世界銀行とも連携し対策を進めていく予定だ。

   ◇
 後編では、ザンビアからの留学生、カタバ・アンドリューさん(35歳)とのインタビュー内容を掲載する。