SDGsリレーブログ・モロッコ編 伝統の食薬文化×機能性研究で新たな価値を【後編】

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 食品の機能性研究は日本が得意とする分野。その技術を習得すべくモロッコから十何人もの留学生が日本に来て学んでいます。筑波大学大学院で学ぶ留学生、ムアド・サブティーさんと、その指導教官である筑波大学助教の佐々木一憲先生、そして礒田博子先生に話を伺いました。モロッコでとれるデーツという木の実は日本でもお馴染みのあのソースに入っている、という話や、研究の醍醐味など興味深いお話を聞くことができました。

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左から、佐々木一憲先生、礒田博子先生、ムアド・サブティーさん

『シリコンのタジン鍋があるなんて』モロッコの文化は日本でも人気

森脇 サブティーさんの母国、モロッコについて教えてください。
サブティーさん 私はモロッコの古都マラケシュ出身です。ジャマ・エル・フナ広場は観光客にも人気です。中心にモスクがあり、その周辺にはスークと呼ばれる迷路のような市場が広がっています。また、北部の都市シャウエンは青色の壁の建物しかない「青の街」として、日本人の中で有名ですよね。私は、日本に来て、多くの学生がここを見るためにモロッコに訪れることを知り、大変驚きました。

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モロッコ マラケシュとシャウエン(地図:©OpenStreetMap contributors)

礒田先生 モロッコのアルガンオイルや泥パックは世界的にも有名ですし、日本にもあるファッションブランド「ZARA」はモロッコの工場で作っていたりします。あとは、タジン鍋も日本で流行っている。モロッコ人に、『日本にはシリコンのタジン鍋があるなんて、日本はすごいな!』と言われたこともあります。


実はお好み焼きのソースにも入っている「アレ」を研究

森脇 サブティーさんはモロッコの大学で、どんな研究をしていたのですか?
サブティーさん 修士の時には、ナツメヤシの果実、デーツを研究していました。中でもイスラエルデーツという品種は高価なのですが、苗木の段階ではほかの品種との区別がつかないことが問題でした。植えてから実がなるまで10年ほどかかるので、実がなってから判断していては、時間的にもコスト的にもダメージが非常に大きい。そこで、種子の段階から品種を見分ける方法の確立に取り組んでいました。
礒田先生 ところで、デーツって知っています? 実は日本の「オタフクソース」にも入っているんですよ。

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デーツの実。スーパーフードとしても注目され日本のスーパーマーケットでも購入できる

20191104moriwaki_04.JPGデーツの木(写真提供:SATREPS)

森脇 筑波大学に留学してからはどんな研究をしているのですか?
サブティーさん レモンバーベナという植物について研究しています。ハーブティーとして飲むことが多いのですが、リラックス効果や抗うつ効果があると言われています。しかし、どうしてそういう効果があるのか、そのメカニズムについては分かっていませんでした。そこで、リラックス効果のメカニズムと、成分量によって効果がどう変わるのかを細胞およびマウスを使って調べました。


日本の研究生活で"苦労したことはありません!!"

森脇 日本の研究生活で苦労したことは何かありますか?
サブティーさん 苦労したことはありません!!
礒田先生 指導教官の佐々木先生は苦労もあるんじゃない?
佐々木先生 サブティー君は日本に来るまで、細胞やマウスを実験で扱ったことがありませんでした。その点で、指導に苦労しました。そもそも、モロッコは実験設備が整っておらず、細胞を使う研究には適していませんでした。細胞を扱うときには手袋をはめて、無菌状態の場所で操作を行う、という基礎的なことも一から指導しています。



20191012moriwaki03.jpg今では「実験時には必ず手袋」の習慣がついたサブティーさん

森脇 一緒に研究に取り組むモチベーションを教えてください。
佐々木先生 サブティー君たちと、モロッコの食薬資源研究を進めて来て、学生時代に自分が研究していたローズマリーの研究結果を振り返ったときに、モロッコなどの北アフリカ地域に生えているような食薬資源の効果はかなり強いんだな、ということに気が付くことができました。非常に面白いです。そういう点がこの研究を進めていく上でのモチベーションになっています。
森脇 大学で研究をする研究者にとってはモロッコと共同で食薬資源について研究できること自体が価値になっているのですね。


モロッコで研究できないのはもったいない!!

森脇 サブティーさんは2019年12月に卒業されるそうですが今後どんな活動をしていきたいですか?
サブティーさん 筑波大学で学んだ実験の手法を生かして、母国に眠っている食薬資源の、機能解析をできる限りたくさんやっていきたいです。モロッコの農業に携わる人々は、貧しい人が多いのですが、研究を通して、より農産物が売れたり、高値で売れたりすることを目標にしています。
森脇 留学生への期待をお聞かせください。
礒田先生 モロッコはヨーロッパにも近いですし、アメリカへの留学も一般的です。そんな中わざわざ日本で学位をとるということは、丁寧な実験を心掛けるなど研究への姿勢も「日本式」を学んでいるので、それを忘れずにいてほしい。現段階では大学での就職は難しいけれど、我々も日本の研究環境や技術を移転することで、モロッコに研究基盤を根付かせようとしています。せっかく日本のような異国で学位をとったのに、モロッコでは研究できず、みんな他の国に行ってしまったらもったいないと思います。


20191012moriwaki04.jpg動物やヒトの細胞、細胞を培養するための装置もモロッコに移転する


20191012moriwaki05.jpg実験をするサブティーさん(左)と、見守る佐々木先生(右)
佐々木先生は初めて学生の指導に関わっており、将来的にも母国に帰った留学生たちと共同研究をしたいと考えている

<取材後記>

 取材後、ZARAに行ってみました。襟元のタグを見たところ、確かに「MADE IN MOROCCO」と書いてあり、密かに興奮しました。スーパーに売っているタコの多くがモロッコ産なのだ、という新たな発見もありました。

 よく「相手を知ることが国際協力の第一歩」という言葉を耳にします。私はその言葉を聞くたびに腑に落ちない思いがありました。でも、今回取材をしてみて、「知ること」が「第一歩」の意味がやっと分かったような気がしています。礒田先生のプロジェクトは、モロッコの食薬文化を知り⇒日本の技術を合わせることでモロッコの農業の価値上げに協力し⇒モロッコの食薬文化から学び⇒日本人の健康に生かす、というように「知ること」をきっかけとしていくつもの価値を生み出しています。そして、「国際協力」は、アフリカなどの途上国に一方的に支援することではなく、モロッコと日本がそれぞれの利益のために、お互いに協力し合って初めて成立するのだと納得しました。そのような気づきを与えてくださった、礒田先生、佐々木先生、サブティーさん、本当にありがとうございました。



20191012moriwaki06.jpg左から、佐々木先生、サブティーさん、礒田先生