SDGsリレーブログ・インドネシア編 イネ科の作物ソルガムがカギ!見捨てられた草原の持続可能な利用をめざして【前編】

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 インドネシアのいたるところに広がる一見美しい草原は森林伐採の象徴です。伐採の跡地にはえる草原で、アランアラン草原と呼ばれます。地元住民にとって利用用途も限られ、元の森林に戻すことも難しいため荒廃草原とも呼ばれています。
 SDGsブログ第4弾では、そんなインドネシアの草原を貴重な生活資源を生み出す土地として生まれ変わらせようとしている研究者たちの取り組みを取り上げます。国連の持続可能な開発目標(SDGs)の目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」、目標15「陸の豊かさも守ろう」、目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」に注目して取材しました。(科学コミュニケーター綾塚達郎)


20191226_ayatsuka_01 アランアラン草原 バリクパパン.jpgインドネシア・カリマンタン島にあるアランアラン草原


20200106_ayatsuka_02 SDGs 7 15 17ロゴ再編集.jpg取り組みに関するゴール(SDGs 7番, 15番, 17番目のゴール)


地下茎が張り巡らされたアランアラン草原利用の難しさ

 アランアランとは現地語で多年草のチガヤのことを指す。日本でも河原の土手や田畑など日当たりの良い場所でみられる、白い穂が特徴的な身近な植物だ。
 栄養状態が悪い環境でも育ち、丈夫な地下茎を持つため火災にも強い。人為的な火入れや自然火災がよくおこる草原では特にアランアランはしぶとい。ほかの植物がなかなか育たたず、簡単に森に戻すことはできない。丈夫な地下茎が張り巡らされた土地は耕すのにも大きな労力がかかる。


20191226_ayatsuka_03チガヤ接写.jpg白い穂を出すチガヤ。日本でも身近な植物だ


 インドネシア政府の研究機関、インドネシア科学院(Indonesian Institute of Sciences (LIPI);以下本文ではインドネシア科学院とのみ表記)の研究員スパトミさん(34)はジャワ島中部のスコハルジョ県出身だ。スパトミさんによると実家近くにもアランアラン草原が広がっていた。森林を切り開いて農地にしたものの、乾季の間にチガヤが侵入して、農地としても使いづらくなったという。

「生産性が低く、特に雨が降らない乾季は使い道がほぼない。こうした土地を有効活用して生産性を高める方法を見つけたい」と話す。

 アランアラン草原は今やインドネシア全土に広がっており、北海道の面積を超す約1,000万haもが荒廃草原として放置されている。

 このアランアラン草原に注目し「地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)」の研究プロジェクトが立ち上がった。このプロジェクトを率いている一人が京都大学生存圏研究所教授の梅澤俊明さんだ。アランアラン草原を生産性の高い畑として再活用する計画だ。

「アランアラン草原になるとわかっていても森林伐採が行われるのは、生活の糧として必要としている人が多くいるからです。ただやめろと言うことはできません。これからはアランアラン草原のような荒廃草原をうまく使いながら、持続的な解決策を見つけたい」


20201226_ayatsuka_04SATREPSグループ写真.jpg研究プロジェクトメンバー。インドネシアと日本から多くの研究者が参加している。梅澤さんは前列左から8番目


ソルガムが窮地を救う? 「茅場」のような持続可能な利用をめざして

 アランアラン草原を活用するために選ばれたのがイネ科のソルガムだ。コムギ、トウモロコシ、イネ、オオムギの次に多く生産されている世界五大穀物の一つで、たかきびやコーリャンなどとも呼ばれる。人の食用として栽培されるだけでなく家畜用の飼料や燃料など用途が広く、乾燥にも強く育てやすい。


20191226_ayatsuka_05ソルガム.jpgソルガム。写真の栽培用品種はおおよそ1.5m


20191226_ayatsuka_06ソルガムの利用の様子.jpgソルガムを利用したインドネシアの加工食品


 しかも、プロジェクトで利用しようとしているのはただのソルガムではない。リグニンという物質を通常のソルガムよりも多く含んでおり、燃料としても優れた新しい品種の開発を進めている。植物はセルロースやヘミセルロース、リグニンといった物質で作られた固い細胞壁をもち、それによって体を頑丈にしている。その中でもリグニンは特に大きく複雑な化学構造を持っており、もっとも炭素の量が多い物質だ。燃料として使う際、このリグニンが多いと、より発熱量が多い。こうしたリグニンの研究が梅澤さんの研究室が得意とする分野だ。

 リグニンを多く含むソルガムを開発するために、リグニンを増やす遺伝子を探さなければならない。その際、いきなりソルガムの遺伝子について研究するのではなく、まずはイネの遺伝子情報を調べることから始める。今までの研究で遺伝子情報の多くが解明されており、かつソルガムに近い種がイネだからだ。梅澤さんの研究室では、リグニンの量を変える鍵となっている遺伝子をイネから探しだし、さらにリグニンを多く含むソルガムを選抜することに成功した。


20191226_ayatsuka_07研究室のようす.JPG梅澤さんの実験室。さまざまな研究でイネを使用している


 インドネシア科学院が管理するアランアラン草原を使ったソルガムの栽培試験もすでに始まっている。この栽培試験では特に、アランアラン草原をソルガム畑に変えるために最適な土壌改良方法の研究が進められている。


20191226_ayatsuka_08インドネシア科学院ソルガム試験地.jpgインドネシア科学院にあるソルガム栽培試験地。もとはアランアラン草原だった


 そもそも、森林伐採後にアランアラン草原ができやすいのは、その他の植物にとって土壌の栄養状態が良くないのが原因だ。これを改善することで、チガヤよりも背が高い植物も生えることができるようになる。したがって、土壌の栄養状態がよくなると、森林への転換も容易になるのだ。 梅澤さんのプロジェクトでは基本的にソルガム畑としての利用を考えているが、長い目で見るとアランアラン草原の発生を抑えることにもつながっている。
 さらに、土壌改良の際は環境に負荷がかからないようにすることも重要だ。ソルガムの収穫量を最大にするため肥料を与えすぎて環境を汚すといったことはしない。そのヒントはかつての日本の暮らしにも見ることができる。チガヤのほか、ススキなどの植物が生えている土地は「茅場(かやば)」として管理され、畑の肥料や燃料、家畜の餌、日用品をつくる材料として使われていた。

「茅場では自然にある栄養分で何百年という長い間、持続的に土地を使っていました。今回はチガヤに代わる有用な植物としてソルガムを育てますが、茅場に近い考え方で持続的に土地を利用する方法を考えることが重要です」


世界に広がるアランアラン草原、その解決が地球温暖化対策につながる

 アジアの中で熱帯に属する地域だけ見ても、アランアラン草原は日本の国土面積にほぼ匹敵する約3500万ヘクタールにおよぶと見積もられている。さらに、チガヤの生息域は北緯45度から南緯45度(おおよそ北海道北部からニュージーランド南部まで)と広い地域に生息することが出来る。アランアラン草原は場所によって名前は違うが実は世界中に広がっている。

 このプロジェクトの成果を世界中に応用できれば地球温暖化対策としても有効だ。なぜならソルガムが選ばれた大きな理由に、チガヤなどと比べて約3倍もの二酸化炭素を吸収できることも考慮されているからだ。ソルガムを毎年育て続けて化石燃料の代わりに燃料として利用すれば、その分の化石燃料の消費を抑えることができる。

 こうした活動を広げていくためには、現地で生活する人々にとって利益とならなければ長続きしない。森林伐採跡地だからとただちに森に戻すのではなく、ときには今回のようにソルガムなどを利用した伐採跡地の活用も有効な手段となりえる。梅澤さんはこう強調する。

「自然からいただけるところはいただいて、人間の生活と自然保護の両方をうまく回すことが大事だと思います」



 後編では、インドネシア科学院からの留学生、スパトミさんとのインタビュー内容を掲載する。