SDGsリレーブログ ブラジル編 大アマゾンがそのまま展示物! 「フィールドミュージアム」が人々と自然をつなぐ(後編)

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南米アマゾンの熱帯雨林の中心に位置する大都市マナウスを拠点に、生の自然環境を生かした環境教育プロジェクト、「フィールドミュージアム」構想が、京都大学・幸島司郎教授率いる野生生物研究センターを中心に進められてきました。今回は、同センターに在籍するマナウス出身の大学院生、エリオ・ボルゲザンさんに、アマゾンの自然とブラジルの人びととのつながり、そして彼自身の研究についてお話を伺いました。

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左から、エリオさんと幸島教授

「子供の頃、アマゾン川の"イガラッペ"でよく水遊びをしました」

福井 ご自身について教えてください。

エリオさん エリオと言います。ブラジルのマナウス市から来ました。アマゾナス連邦大学を卒業した後、国立アマゾン研究所(INPA)で修士号を取得しました。今は博士課程の1年目になります。

福井 なぜ日本に来たのですか?

エリオさん 学部学生の頃からアニメやマンガなど、日本文化に興味があって、いつか日本に来たいと思っていました。そんな折、学部生の頃ですが京大野生動物研究センターで熱帯魚として日本でもポピュラーなネオンテトラを研究している、研究員の池田威秀さんにマナウスで会いました。ちょうど幸島先生がプロジェクトをすすめているところだったので、コンタクトを取ってもらったことが、大学院生として研究をスタートするきっかけとなりました。

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アマゾンの渓流・イガラッペ。ブラックウォーターと呼ばれるタンニンを含んだ水が流れている。(写真提供:エリオさん)

福井 アマゾンの自然に関する思い出を教えてください。

エリオさん 子供の頃、家族でイガラッペによく行きました。イガラッペというのは、アマゾン川に無数にある支流を遡ったところにある、小さな渓流の総称です。そこで水浴びしたり泳いだり、魚を調理して食べたりしました。

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マナウスで人気の食用魚、タンバキ(上)と、養殖用のタンバキの幼魚(下)(写真提供:エリオさん)

福井 魚を釣って食べたんですね。

エリオさん いいえ、魚は市場で買って持ってきたものです。よく食べていたのが、マナウスでも人気のタンバキという魚です。図鑑でお見せしましょう。

福井 ピラニアに似てますね。

幸島教授 そうです、タンバキはピラニアと同じカラシンの仲間(新大陸とアフリカの熱帯域に主に分布する淡水魚のグループで、日本にはいない。)で、主に果実を食べる魚です。
エリオさん 魚屋に行けば、日本円で一匹1000円くらいで売っていますね。以前は野生の魚が多かったのですが、最近出回っている魚はほとんど養殖されたものですね。

「マナウスではすべての人が大なり小なりアマゾンに頼って生活しています」

福井 アマゾン熱帯雨林と人間社会とのつながりについて教えてください。

エリオさん 立場によってアマゾンとのかかわり方は全然違うので、ひとくくりで言い表すことは難しいですね。先ほど私自身が家族とイガラッペで過ごした話をしたように、都市生活者にとってはレクリエーションの場として活用されています。ですが生態学的な興味を持って観察する機会や習慣はあまりありませんでした。一方、農家や牧畜業者にとっては、材木などの資源と農地を手に入れるビジネスの場です。そして先住民にとっては、アマゾンは居住地であり、生活の糧を手に入れる場所であり、自然と共に生きる彼らの文化の源でもあります。

福井 どれくらいの人びとがアマゾンの恵みに頼って暮らしているのですか?

エリオさん マナウス周辺では、薬や食品などの様々な生産物を通して、すべての人が大なり小なりアマゾンに頼っています。特に先住民や貧しい人々は、アマゾンの恵みにより深く頼っていると思います。私の調べでは、2009年のアマゾンでの魚の水揚げは3万9千トンにも及びました。

福井 密漁・密猟の問題はありますか?

エリオさん アマゾンの魚は普通年に一回繁殖します。多くの魚の繁殖期である5月から8月に間は禁漁期間になるのですが、密漁者は後を絶ちません。マナティーやカワイルカなどの水棲哺乳類も密猟の対象になっています。

福井 マナティーやカワイルカは何のために密猟されるのですか?

エリオさん マナティー密猟の目的は食用の肉です。カワイルカは魔術やお守りの材料にされたり、ピラカチンガという腐肉食のナマズを集めるための撒き餌にされたりします。アマゾンカワイルカは1994年から2017年までの間に元の90%にまで数が減ってしまいました。

「アマゾンに3000種もの魚がどうやって現れたのかを知ることが私の研究テーマ」

福井 エリオさんはどんな形でフィールドミュージアムプロジェクトに参加されているんですか?

エリオさん 私は研究者として参加しています。アマゾンは世界最大の淡水環境で、知られているだけで3000種以上の魚類が生息しています。実際に何種いるのかは誰にもわかりません。それほどたくさんの種がどのような仕組みで現れたのかを知ることが私の研究テーマです。

福井 実際、どんな仕組みで種分化(あるひとつの種が「分家」して二つの種に分かれること)が起きていると考えられているんですか?

エリオさん ある魚は高いpHなど、特定の化学的環境に適応して種分化を果たしたと考えられています。またある魚は光環境の違いが種分化の原因になったようです。私は光環境の違いが魚のコミュニケーションに、そして種分化にどのような影響を与えるのかに興味を持って研究しています。

「水の色の違いが新しい種を生んだようなんです」

福井 面白そうな研究ですね。具体的な内容を教えてください。

エリオさん 私が研究対象にしているのはセルフィンテトラという魚です。セルフィンテトラはアマゾン流域のイガラッペに広く分布しています。そしてイガラッペのクリアウォーターとブラックウォーターの両方に生息しています。

福井 クリアウォーターというのは澄んだ透明な水ということですね。ブラックウォーターとは何ですか?

エリオさん アマゾンでは流域によっては、土壌や枯れ葉から植物由来のタンニンが染み出して水に色が付きます。これがブラックウォーターです。ちょうど目の前にあるほうじ茶みたいな色ですね(茶やウイスキーの「茶色」はタンニン由来)。セルフィンテトラのオスは水玉模様のついた立派な腹びれを持っています。この飾りでメスを惹きつけます。

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セルフィンテトラ。クリアウォーターに生息するもの(上)と、ブラックウォーターに生息するもの(下)腹びれの模様と目の大きさに注目!(写真提供:エリオさん)

福井 住んでいる水の色の違いで飾りが変化するんでしょうか。

エリオさん そうです! ブラックウォーターに住むセルフィンテトラのオスは、クリアウォーターに住むものと比べてより赤く、より大きな水玉模様をつけているんですよ! それだけなく、目の大きさもブラックウォーターに住むものの方が大きいです。

福井 ブラックウォーターは視界が悪い分、より目立つように進化したんでしょうかね。この二つの環境に住むセルフィンテトラは同じ種と言えるんですか?

エリオさん 今のところ名前の上では同じ種ですが、私たちが出した2018年の論文では別々の種であると結論付けて発表しました。

福井 ちょうど種分化したところを見つけたというわけですね! 研究の上で一番大変だったことは何ですか?

エリオさん 広大なアマゾン流域の様々な場所からサンプルを採取するのには、本当に骨が折れましたね!

編集後記>

  人々とアマゾンとのつながり、生き物を守るためのとりくみ、「フィールドミュージアム」を通じて人々にアマゾンの自然の魅力を伝えるとりくみ、そして留学生のエリオさんによる、アマゾンの生物多様性が生まれる仕組みを知るとりくみについてお伝えしました。

 筆者は以前アフリカ・ケニアで環境教育の仕事をしていたことがありますが、ケニアではサバンナの野生動物が様々な広告の意匠に使われたり、一般市民や学生向けの安価なサファリツアーが催されたり、市民の関心度の高さを感じる機会が多かったことをおぼえています。そのため、アフリカのサバンナと並び野生の王国として有名なアマゾンのほとりに住む人々の多くが、生きた魚が泳ぐ様子を見たことがないという話には驚きを禁じえませんでした。フィールドミュージアムの取り組みが実を結び、地域住民だけでなく人類全体にとっての宝であり、それ自体がかけがえのない価値を持つアマゾンが末永く守られることを祈りたいと思います。

 2時間にもわたる長いインタビューでしたが、自然・野生動物好き同士で盛り上がり、またお二人の温かい人柄もあいまって、あっという間に時間が過ぎてしまいました。幸島教授、エリオさん、ありがとうございました!