SDGsリレーブログ・マレーシア編 養殖池のヘドロから"高く売れるもの"をつくる【後編】

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前編では、やっかいものの養殖池の汚泥をうまく利用して有用な微細藻類(植物プランクトン)を大量培養するプロジェクトの取り組みについて紹介しました。このプロジェクトのメンバーでもあり、東京大学大学院水圏生物環境学研究室に在籍するマレーシア出身の大学院生、ノラジラ・アブド・ラフマンさんから、マレーシアの養殖業や微細藻類の研究についてお話を伺いました。



<インタビュー>

「小さな微細藻類が持つ、巨大なポテンシャルに惹かれた」

小林 ご自身について教えてください。
ノラジラさん 学部から修士課程までは、マレーシアの大学で養殖のための微細藻類について研究をしていました。修士課程のときにSATREPSのプロジェクト「微細藻類の大量培養技術の確立による持続可能な熱帯水産資源生産システムの構築」(COSMOSプロジェクト)に参加する機会があり、それがきっかけで日本に来ました。今は博士課程の2年目 です。(※取材時点。2020年4月より博士課程3年目。)

20200327_kobayashi_08.JPG微細藻類の分離に使う道具を見せてくれたラフマンさん



小林 大学で養殖の分野を選んだきっかけは?
ノラジラさん 高校生の頃から海洋生物に興味がありました。特に魚やエビの養殖が気になっていたので、その生産システムを学ぶために選びました。

小林 養殖は身近な産業だったのでしょうか?
ノラジラさん 私の出身地はパハン(Pahang)というマレー半島の東部にある州です。養殖はよくある産業で、パンガシウスという魚(ナマズ目の淡水魚)の養殖を営む人が多いです。天然物はとても高価ですが、養殖物は安く出回っていますよ。大きな業者だけでなく、副業として小規模にやっている人もいます。

20200327_kobayashi_09.JPGマレーシア(地図:©OpenStreetMap contributors)



小林 微細藻類に興味を持ったきっかけは?
ノラジラさん 学部生のとき、海洋生態系の授業で初めて「微細藻類」を知って、とても面白い生物だと思いました。微細藻類は、観察のために顕微鏡が必要なくらい、ものすごく小さな生物です。でも、食物連鎖の一番はじめにいて、多くの生物に食べられている。つまり、微細藻類がいなければ他の多くの生物も生きられないのです。微細藻類はとても小さいけれど巨大なポテンシャルを持っている、そのことに強くひかれました。


「解析のためのサンプル準備に時間がかかる!」

小林 COSMOSプロジェクトでも微細藻類の研究に取り組まれていますが、具体的にどんな研究をしているのですか?
ノラジラさん 有用な微細藻類の探索を担当しています。具体的には、微細藻類を単離、同定して、その微細藻類の特性などを解析しています。

小林 単離というのは、どういう作業ですか?
ノラジラさん ひとつの個体を取り分けて培養する、ということです。同じ種類の微細藻類でも、個体ごとに違った特性を持っているかもしれません。個体ごとの特性を調べるために、培養する際にはひとつの細胞からはじめる必要があります。培養は小さな試験管からはじめて、だんだん容器を大きくしていきます。ひとつの個体を取り出して十分な数へと増やすのに、2~3週間かかります。

20200327_kobayashi_10.JPG試験管→フラスコ→ボトルと、容器を少しずつ大きなものに変えて培養する。微細藻類は単細胞生物なので、ひとつの細胞=微細藻類1個体

20200327_kobayashi_11.JPGひとつの個体を取り出すための道具。ガラス管をバーナーであぶり、
ピンセットで細く引きのばす



小林 どんな微細藻類を「有用」なものとして選ぶのですか?
ノラジラさん まず評価するのは、増殖に適した温度と光の強さです。微細藻類を大量培養するための装置は、場所を節約するために 養殖池の上に設置される予定です。強い日差しを受ける野外環境に置かれることになるので、そのような環境でも増殖できるものを選抜します。その中から、アスタキサンチンや油分などの有用成分を多く産生するものを選びます。

小林 苦労することは何かありますか?
ノラジラさん 微細藻類がどんな成分を含んでいるかなど、特性を解析する作業ですね。解析用のサンプルを増やすのに時間がかかって大変です。解析したい微細藻類の粉末1グラムを準備するために、大量に培養しなければなりません。また、有用な成分をたくさん産生するように培養環境を変えたら、今度はうまく生育しなかったりして。




「おもしろいと思えることを見つけたら、その道を突き進んで」

小林 ブログの読者へ向けて、なにか一言いただけますか?
ノラジラさん 「おもしろいと思えることを見つけたら、その道を突き進んで!」と伝えたいです。
小林 ニッチな分野に行くと、先人がいなくて怖くなっちゃうこともありそうです。
ノラジラさん そうですね(笑)。でも、その分野の第一人者になれるかもしれませんよ。
小林 マレーシアの微細藻類の分野は、研究者が少ないのですか?
ノラジラさん いいえ、たくさんいます。でも、微細藻類には本当にたくさんの種類がありますし、分野そのものがとても広いんです。なので、培養した微細藻類が実際に餌料として効能を発揮するかどうかなどを調べる応用分野では、まだまだ研究が進んでいない部分がありますよ!




編集後記
 養殖池から出る汚泥をうまく使って価値の高い微細藻類を増やす、というプロジェクトをご紹介しました。この「どうしても発生してしまう"やっかい者"を、どうしたらうまく利用できるだろう?」というポジティブな発想は、日常生活でいつも心に留めておきたいものです。
 取材の準備をしながら、はじめて微細藻類の図鑑を手にしました。私たちの生態系の土台となる部分を支えてくれている微細藻類の姿は驚くほど多様で、そして美しかったです。そんなどこにでもいる微細藻類なのに、いざ人間にとって役立つ株を見つけ出し、大量に培養しようとすると、その作業にはたいへんな繊細さと忍耐強さが求められることに驚きました。
 取材に応じてくださった片山智代先生、ノラジラさんに、この場を借りて厚く御礼申し上げます。


20200327_kobayashi_12.JPG片山智代助教(東京大学大学院水圏生物環境学研究室)