SDGsリレーブログ・タイ編 大量のバイオマスが液体燃料になる!?エネルギー不足を救うクリーンエネルギーの開発【後編】

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 富山大学工学部応用化学科、触媒・エネルギー材料工学研究室では毎年多くの留学生を受け入れている。タイからの留学生、ルンティワー・コソ―ルさん(28)もその一人だ。ルンティワーさんは、バンコクにある名門チュラロンコン大学で、パーム油をつかったバイオディーゼル燃料の研究を行っていた。修士号を取得したのちSATREPSの研究プロジェクトを通して来日した。クリーンエネルギーの開発に向けて日夜研究に取り組むルンティワーさんに研究室で話を聞いた。


20200430_ayatsuka_01.JPGルンティワー・コソ―ルさん

「バイオ燃料の利用に熱心だったプミポン前国王にあこがれて今の研究の道に進みました」

綾塚 チュラロンコン大学と富山大学それぞれでバイオマスを液体燃料にする研究を行っていますね。取り組み始めた背景は何ですか?
ルンティワーさん プミポン・アドゥンヤデート前国王へのあこがれが大きいです。プミポン国王は多くの慈善事業を自ら行い、国民から絶大な信頼を得ていました。バイオマスをエネルギー源として利用するプロジェクトもそのうちの一つです。

綾塚 どんなプロジェクトですか?
ルンティワーさん たくさんあるのですが、例えば、バイオエタノール用のサトウキビを王宮に植えて研究を進めていました。こうした研究が活かされ、2001年にはバイオエタノールが広く使われるようになっていきました。E20といって、燃料全体の20%にバイオエタノールを混合した自動車燃料なども今では一般的に使われています。


20200430_ayatsuka_02.JPG自席にはプミポン前国王の写真が飾られている


「二酸化炭素を液体燃料に変換する研究で地球温暖化防止に貢献したい」

綾塚 日本で行っている研究について教えてください。
ルンティワーさん 触媒を使って二酸化炭素と水素の混合ガスを液体燃料に変える研究をしています。一酸化炭素と水素の混合ガスを液体燃料に変える方法としてはFT合成(フィッシャー・トロプシュ合成)が有名ですが、二酸化炭素を使った方法はまだ確立されていません。この研究がうまくいけば、地球温暖化防止にも貢献できるので大きなやりがいを感じています。

綾塚 どんなところが難しいですか?
ルンティワーさん 二酸化炭素はとても安定した気体なので、なかなか狙った通りに液体燃料に変化しません。圧力や温度の条件など調整してはいるのですが、難しいですね。壁にぶつかったときは同じ研究室の大学院生とよくディスカッションをしています。お互いを高め合っていける環境がありがたいです。
綾塚 皆さん熱心ですね。
ルンティワーさん はい、研究生はみんな研究熱心です。実験施設はいつも混み合っています。共同で使っている実験器具はものによっては3か月待ちになることもあるほどです。私も負けられないと思い、この分野の勉強と実験、論文執筆に毎日取り組んでいます。

綾塚 日本での生活はどうですか?
ルンティワーさん 富山の人はとても優しいですし、警察官など街のパトロールの方々も真面目なので安心して過ごせています。町がきれいなのも良いですね。例えば公衆トイレはどこに行ってもきれいです。タイの公衆トイレもきれいなところはありますが、ここまで全てきれいというわけではないです。また、富山の川は昔、公害問題に悩まされていたと聞きますが、克服して元どおりの川に戻せているのが素晴らしいと思います。魚をはじめとした食べ物もとても美味しいです。


20200430_ayatsuka_03.JPG実験室のようす。様々な実験用装置が使われている


「日本で得た知識と技術で広く社会に貢献したい」

綾塚 どのような進路を考えていますか?
ルンティワーさん 博士号取得後もしばらくは日本で研究を続けたいと思っています。日本は技術力が高い上に、研究熱心で責任感のある人が多くいます。こうした環境での活動は自分の人生にとって貴重な財産になります。将来はこうして得た知識や技術をたくさんの人に共有したいと思っています。自分自身や家族だけでなく、社会の役に立ちたいと考えています。

綾塚 最後に、この記事を読む読者、特に日本の高校生へメッセージをお願いします。
ルンティワーさん ときには壁にぶつかって、もう駄目だと思うことがあるかもしれません。ですが、人生はわからないものです。落ち着いて、いつも通りの笑顔で周りの人と幸せに過ごしていれば道は開けます。
Don't be unhappy in your life!(前向きに楽しく生きよう!)


20200430_ayatsuka_04.JPG左:ルンティワー・コソ―ルさん 右:椿範立さん


編集後記
 取材前、私はバイオマスに対して、扱いづらく活用が難しいもの、というイメージを持っていた。しかし、今回の取材を通してそのイメージをひっくり返された。FT合成の原料にバイオマスを使うアイデアと洗練された触媒技術によって、今まで有効に活用するのが難しかったバイオマスもエネルギー源として活用できる。これこそまさに21世紀に求められる技術革新だと感じた。また、タイ王国でのバイオマス活用の裏にはプミポン前国王が主導する地道な取り組みの歴史があったことも大きな学びの一つだ。いざ大きな動きを起こそうと思っても、経済や既存の社会の仕組み、考え方を変えていくのは簡単ではない。私たちも持続可能な開発目標の達成に向け、一歩一歩着実に対策を積み重ねていかなければならない。


取材協力・写真提供
●椿範立さん
富山大学 工学部 応用化学科 触媒・エネルギー材料工学研究室 教授

●ルンティワー・コソ―ルさん
富山大学 工学部 応用化学科 触媒・エネルギー材料工学研究室 博士課程学生