なぜ人は集まるのか、から考える未来社会

こんにちは。科学コミュニケーターの加藤木です。

皆さんはどんな時に集まってきましたか?

正月やお盆に家族や親戚で集まる、学校の友人と遊ぶ、会社でミーティングをする、仲間と飲み会をする、イベントや地域の祭りに参加するなど……ごく日常的なものから数年に1回あるかないかの集まりまで、世の中にはさまざまな「集い」があり、それぞれの人にとって「集い」に対する想いや考えも異なるはずです。

2021年9月23日に日本科学未来館主催、人間文化研究機構共催で

対話イベント 『人が「集う」ことの価値ってなんだろう?~人文知コミュニケーターと一緒に考える未来の社会~』を行いました。

ゲストスピーカーは、人間文化研究機構 人文知コミュニケーター※・国立民族学博物館特任助教の神野知恵(かみの ちえ)さんです。

このイベントを企画・実行した、神野さん(中央)、佐久間(左)、加藤木(右)
未来館シンボル展示のジオ・コスモスの前で

近年、TwitterやFacebookのようなSNSや、zoom、skypeのようなネットでの会議システムなど、オンラインコミュニケーション技術が発達してきました。そして、2020年からの新型コロナウイルスの流行で、人々は生活様式を変化させました。感染の拡大防止のために、実際に集まって共同で作業をしたり、同じ体験を共有する機会は大きく減りました。集まる機会ができたとしても、人数を減らしたり時間を短くしたり、人と人の距離を空けたりと今までのようには集まりにくくなっています。その代わりに、オンラインでの集いが増えてきました。オンラインコミュニケーション技術を活用してどこにいても人とつながることができる時代、人との関係の築き方も変わってきました。

本イベントは、参加者の皆さんがこれまで経験してきた集いと、神野さんがこれまで研究してきた韓国の祭りにおける集いの紹介を手がかりに、私たちの「集い」に対する思いや考えを話し合い、これからどんな社会を作れるのか考えるきっかけにすることを目的にしました。

では早速、人はなぜ集まるのか、神野さんのお話を紹介します。

人はなぜ集まるのか

人が集まる意味はさまざまありますが、その中で「ともに遊び、楽しむ」という観点があります。例えばゲーム・スポーツ・歌やおどりなどの「集団の遊び」、そして食事会・飲み会・お茶会などの「共食」があります。集団の遊びや共食は相手と共感を得たり、親睦を深めたり、ストレス発散にもつながります。

このような「ともに遊び、楽しむ」という行為は、韓国の祭りでも行われてきました。韓国では、悪霊や祖先神などの心のなかには人々に災いや争いなどをもたらすもの(韓国語で「恨(ハン)」)もあると考えられてきており、供物をささげたり音楽を奏でたりすることで「ほどき(プリ)」をします。 「ほどき(プリ)」は、日本語で使うような絡まったり結ばれたりした糸・紐状のものをまっすぐに戻すという意味だけでなく、人間関係でのもつれや葛藤を緩和させることという意味を含んで使われています。

また、祭りでの音楽を奏でるなどの行為が、人々の心のなかに抑制され押し込められている楽しさ(シンミョン)も一緒にほどいてあげることで、厄が祓われると信じられてきました。

旧正月の村祭りで太鼓を叩いて楽しむ人々(韓国全羅北道高敞郡、2013年)

こうした考えは、祭りのような特別なときだけではなく、日々の暮らしにも見て取れます。韓国では何か仕事やプロジェクトなどを行ったあとの「打ち上げ」のことを、「ティップリ(あとほどき)」と言うそうです。仕事をしている間には言えなかった気持ちを、飲食を共にしながら「ほどく」ことが大切にされているんですね。この「ほどき(プリ)」という韓国に古くからある考え方には、現代に生きる私たちの生き方や社会の作り方に通じるヒントがあるかもしれません。

神野さんのお話の後、集いについてみんなで話し合いました。

参加者の皆さんは集いに対してどう感じている?

(2021年9月23日現在)いま、「集い」はどうなっていますか?それに対してどんなことを感じていますか?

この問いから出発し、参加者の皆さんとコミュニケーターで話し合いました。

そこで話題に出てきたトピックをいくつかご紹介します。

参加者とオンラインで話し合っているときの会場の様子
(手前の3台の机で右から)神野さん、加藤木、佐久間

トピック1:集いがオンライン化して良い点、悪い点があるのでは

良い点

「(会場の場所決めなどが必要ない点で)準備が楽で、オンラインが心地よいとも感じる。参加しないことを選ぶのも楽になった」

「時間節約になるし、いろいろな集いに気軽に参加できるようになった」

「海外にいる人でも気軽に会える」


悪い点

「オンラインコミュニケーションをしない人、苦手な人とは集いにくい」

「オンラインの場合、会話内容が本題に集中することには良い点もありそうだが、その場に集まった時の、ちょっとした行動と、そこから生じる温かい気持ちは大事だと思う。例えば集まって同じものを食べたり飲んだりしている時、相手が自分の飲み物がないことに気づいて注いでくれると、嬉しい気持ちになる。このようなことはオンラインコミュニケーションで起こらない」

「オンラインだと音楽を一緒に演奏すると音がずれてしまう」



オンラインの集いは参加しやすい点や、これまでなかなか会えなかった人にも気軽に会える点は良いところですね。一方で、その場にいることで初めて共有できることがある、という意見もありました。相手の気づかいに嬉しくなることや、暑さ・寒さのような体感や場の雰囲気を共有して共に感じることがオンラインではまだできていないようです。このことは今後の集い作りでは重要な視点かもしれません。

トピック2:コロナ禍で集うことへの意見が多様化している

「感染に対する不安から、集いに対してお互いの意見が異なる場面が出てきている。こうすれば絶対に感染予防できるという正解がない状況で、集うことの是非で意見が対立する場面があった」

「集いへの意識の違いを危惧してお互いに気を使いすぎてしまった」

「人が集うことへの意見は、その人がニュースなどの報道をどう捉えているか、またその人の置かれた状況や、考え方によっても違い、集いについて話題にすることも含めて恐さを感じるようになった」


一人ひとり何を信じているか、何を正しいと思うかが違うのですね。コロナ禍で今まで表面化しなかった様々な意見が出てきたと考えられます。

トピック3:今まで見えなかった人間関係が浮き彫りに

「これまでは集うことの価値をあいまいにしたまま集まってきたが、集いに制約が生じ、付き合い方が変化したことで、周りの一人ひとりに対して、自分が感じる心理的距離感は違っていたのかもしれないと気づいた。例えば、知り合いだけれど全然会わなくなった人は、もしかして実はそんなに心理的距離感が近くはなかったのかもしれないと思った」

「オンラインへの感じ方の世代間ギャップにより、集いへの意見の対立を感じた経験がある」

「もともとの心理的距離感に関わらず、オンラインだから仲良くなる場合、オンラインだから仲良くならない場合もある」


人々が集う方法やその文化が変化したことで、コロナ禍前では見えてこなかった周りの人に対する親密さの度合いが見えてきて、思っていた親密さと違ったのかもしれないという意見がある一方で、もともとの親密さに関わらず、集いがオンライン化したために仲良くなる(あるいは疎遠になる)パターンもあるようです。集い方の変化による人間関係の変化に対してどう感じ、どう捉えているかも、人によって違うことが話し合いから見えてきました。

参加者の皆さんの集いに対しての考えや想いをもっと聞きたいと思ったところで終了時刻となりました。

話し合いで見えてきた「集い」に対する思いや考え、コロナ禍の人間関係

ここまでの議論で出てきた論点として、3点にまとめてみます。

・オンライン化した集いではコミュニケーションの感覚も変化している。オンラインではどうしても実現できない人と人のつながりも存在する。

・集いについての様々な感じ方や意見が出てきている時、相手との関係をどのように考えたり、行動したりすればよいのか。

・集いの方法やその文化の変化は、知人たちへの心理的距離感がそれまで自分が思っていたものと実は異なったかもしれないという気づきを与えている。また、オンラインコミュニケーションへの慣れや抵抗感の違いから、集いのオンライン化への意見の相違を生じさせている。

本イベントでの議論が、これからどんな社会を作れるのか考えていく出発点になればと思います。

ここまで読んでくださった皆さんも、これらの論点に限らず、考えてみたい話題を発見していただけたら嬉しいです。

最後にメッセージです。

(神野さん)
こういうイベントはオンサイトでもできたかもしれないですが、オンサイトでは参加できなかったような場所に住んでいる人も今回参加していただくことができたと思います。本イベントで対話のきっかけを得られたことは良かったです。今回のイベントはコロナ禍らしいコミュニケーションになりました。
そして、人々のネットワークをつなげていくことが、コロナ禍を耐えしのぐために重要なことです。長期的な人々や物事とのつながりを作っておき、直接会える世の中になったときに、自分の経験として生きてくればいいと思います。そういうつながりを周りに作っていかれることを願います。


(佐久間)
みんなが使える技術としてZoomなどが出てきて、改めて人間関係どうだったのか、今まで何となくであったことを改めて考えさせられる状況になったと思いました。コロナ禍だからこそ人それぞれ大事にしているポイントが見えてくる、そういうチャンスでもあるかもしれません。新しい技術ができたから使おう、ではなく、自分の中の大事なポイントと新しい技術を照らし合わせ行くようなフェーズ、つまり新しい技術に食いつくだけでなく立ち止まって技術を鋭く見ていただければと思います。科学技術を見る視点としても今日の話を活用していただけたら嬉しいです。


未来館は、今後も皆さんと未来の社会を考えていく場所でありたいと考えています。

ご参加の皆さんありがとうございました。




企画 日本科学未来館 科学コミュニケーター 加藤木ひとみ、佐久間紘樹

   人間文化研究機構 人文知コミュニケーター・国立民族学博物館特任助教 神野知恵

※ 人文知コミュニケーターとは、人間文化の研究成果を発信し、双方向のコミュニケーションを通して社会の要望や評価を研究現場に還元する能力を備えた研究者です。

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