私たちが感じた新型コロナ

昨年2021年11月1日、全国の新規感染者の発表数が100を割り、東京でもついに1桁まで減りました(NHKのまとめ)。その2日後の11月3日。祝日を未来館で過ごす家族連れやカップルから丸見えの部屋に、新型コロナに関係した活動をしてきたメンバーが集まり、「この2年を振り返る企画」についての会議を始めました。第5波と呼ばれた夏の大波が過ぎ去り、“例年とまったく同じ”とは言えないまでも、ノーベル賞のような“秋の未来館活動”を行っていた時期です。私たち自身が、コロナ禍と言われたこの2年の間にあった出来事をすでに忘れ始めていることに気づきました。今、振り返らなければ、もう忘れてしまうかもしれない。

このときはまだオミクロン株の出現は報告されていません。

年末年始は、クリスマス、忘年会、新年会と皆で集まる“行事”が増え、窓を開けての換気もしにくくなることから、また感染拡大が生じることは予想していました。ですが、ワクチン接種が猛スピードで進み、接種率も高水準に達した日本では、前年の年末年始に迎えたいわゆる第3波よりはマイルドになるだろうという期待もありました。それでも、このコロナ禍の2年を振り返るならば感染が治まった状態のタイミングが良いだろうと考え春休みの企画と設定しました。今から思えば、新しい変異株でまた状況が大きく変わることを予想できていなかったわけでもあります。

こうして、今、秋頃を振り返っているのも、この企画の一部でもあります。

「手を出さない」と決めた科学系以外の分野では

2020年春に未来館の臨時休館を受け、「わかんないよね新型コロナ」と冠したニコニコ生放送を主とした情報発信を始めたときに、いくつかルールを決めました。一番は「担当者がこの仕事に専念できる時間を確保すること。それができなければ「やらない」を選ぶこと」。そして、「科学・医学・医療」の話題にしぼること。これは「経済」などの話には手を出さない、という意味でもありました。専門性も土地勘もない分野に手を出す余裕はないだろうと判断です(実際、科学系の話題に併走するのが精一杯でした)。

もちろん、新型コロナの情報を集めていれば、自然と経済や社会の話も入ってきます。最初にドキッとしたのは、2020年6月15日に公開されたデンマークと米国の研究者による論文でした。「COVID-19関連論文では女性の筆頭著者が少ない」というもの。新型コロナの影響のなかった2019年に発表された米国発の医学系論文8万5373本と、休校やロックダウンが広がった2020年1月1日~6月5日に米国から発表されたCOVID-19関連の論文1893本の筆頭著者の性別を調べ、比較をしたのです。結果は女性の割合が14%減っていたというもの。もともと男女差はありましたが、さらにその差が広がったと書いてあります。学校に行けなくなった子どもの世話や在宅勤務による家事の増加分をおもに女性が担っているせいではないかという分析でした。

Meta-Research: COVID-19 medical papers have fewer women first authors than expected
https://elifesciences.org/articles/58807

当時は気づかなかったのですが、2020年5月11日に経済学の分野でも同じような論文が英国から発表されていました。

The Unequal Effects of Covid-19 on Economists' Research Productivity
https://www.repository.cam.ac.uk/handle/1810/310888

2020年の秋頃になると、日本でも比較的若い層の女性の自殺が増えていることが報道され始めます。数としてこれまで通り男性が多く、とくに高齢男性が多いのですが、「増加分」に関しては若い層の女性が急増といってよい増え方をしていました。

令和3年版(2021年版)の『男女共同参画社会白書』では「新型コロナウイルス感染症(以下,「新型コロナ」という。)の感染拡大は,各国の弱いところを露わにした。我が国においては,男女共同参画の遅れが露呈することになった」とまで踏み込んだ書き方をしています(太字は詫摩による。以下同)。

特集 コロナ下で顕在化した男女共同参画の課題と未来 | 内閣府男女共同参画局
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r03/zentai/html/honpen/b1_s00_00.html

厚労省の「自殺総合対策の推進に関する有識者会議」では第3回(2020年12月21日)と第4回(2021年11月18日)でコロナ禍における自殺について議論が行われています。第4回の議事録を見ると「「子ども(児童生徒)」や「若年女性」等の自殺がコロナ禍において、より深刻化した。そうした自殺の深刻化の速度が速まった可能性があると考えています。大災害が起きると、その地域が抱えていた課題が加速するということがしばしば起こるわけですが、新型コロナ感染症の拡大の影響によって、同様のことが全国的に起きた」という分析が紹介されています。

厚労省「自殺総合対策の推進に関する有識者会議」
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-syakai_396747_00002.html

子どもに関しては国立成育医療研究センターが「コロナ×こども本部」を組織し、こどもや保護者さんの声を集めていました。
国立成育医療研究センター コロナ×こどもアンケート調査報告一覧
https://www.ncchd.go.jp/center/activity/covid19_kodomo/report/

皆さまの声を聞かせてください

新型コロナが私たちの日常生活に影響を及ぼすようになってもう2年以上になります。いろんな影響があり、たくさんの関連した出来事がありました。その時どき、皆さんは何を感じましたか?

未来館では3月19日(土)より5階エスカレーターで上がるとすぐのスペースで、2020年1月からこれまでを振り返るパネル展示を行います。当時の感染者数、ニュースとともに、未来館・科学コミュニケーターや来館者の皆さま、ニコニコ生放送「わかんないよね新型コロナ」の視聴者さんからのそのときの「思い」も加えてあります。ぜひ、ご覧にあり、「あのとき」に皆さまが何をお感じになったかを付箋に書いて共有してください。きっと次に備えるヒントが得られるはずです。

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