青森から未来館のあるお台場まで、電力はどうやって届くのだろう?

みなさん、こんにちは。科学コミュニケーターの廣瀬です。最近、SDGsに関連して、サステナビリティや持続可能性という言葉をよく耳にするようになりました。日本科学未来館もサステナビリティの取り組みを始めています。

日本科学未来館 サステナビリティへの取り組み https://www.miraikan.jst.go.jp/aboutus/sustainability/

20224月より大きく変わったことがあり、それは再生可能エネルギー100%の電力調達を始めたことです。SDGs13番目の目標である「気候変動に具体的な対策を」に向けて、地球温暖化の原因となる温室効果ガスを出さないエネルギーづくりが求められています。電力は生活を支えるためになくてはならないエネルギーの一つで、温室効果ガスを出さない発電方法として再生可能エネルギーが大きく注目されています。

そこで、未来館で使う電力がどこで作られて、どのように届けられているのか。また、なぜ再生可能エネルギーが注目されているのかについてご紹介していきます。

気候変動への対策には電力が重要

 20218月に公表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第1作業部会の第6次報告書(AR6)に、「地球温暖化の原因は人間活動によるものであることは疑う余地がない」1)と踏み込んだ表現が盛り込まれました。地球温暖化の主な原因は温室効果ガスである二酸化炭素やメタンなどの増加であり、それらは私たちが日々の生活で使う電力や鉄製品をつくる場面、農作物や畜産・養殖といった食料生産の現場などで多く排出されています。温暖化を止めるためには温室効果ガスの排出量をゼロにするカーボンニュートラルが重要になります。しかし、温室効果ガスの排出をゼロにできない場面があります。その場合は、ゼロにできなかった分を何らかの方法で吸収することによって、トータルで排出量をゼロにします。日本が目指している2050年カーボンニュートラルは、「温室効果ガスの排出量と吸収量を差し引いて、トータルで排出量ゼロにする」というものです。

 日本で1年間に使われる総エネルギー供給量は、2020年度では12,082ペタジュール(ペタは1015乗)、そのうちの約85%が、石油・石炭・天然ガスといった化石燃料によってまかなわれています。電力は、国内で消費されるエネルギーのうちの約27%、また家庭で消費されるエネルギーの半分を占めていて、一般の人々にとって最も身近なエネルギー源と言えますが、その電力も、そのうちの約76%は、化石燃料によってつくられています。2)

図1 日本の1世帯あたり消費されるエネルギーの割合(左)と日本国内の電源構成(右)
経済産業省 令和2年度(2020年度)エネルギー需給実績(確報)(令和4年4月15日公表)より日本科学未来館が作成
※電源構成のその他は、風力発電と地熱発電を含む。

 IPCCによると、18501900年から20102019年までに上昇した世界平均気温は約1.1℃と推定されました。抜本的な対策をしなければ、さらに気温は上昇し、将来、高温、大雨、干ばつといった異常気象が増加し、より大きな被害になることが予測されています。被害が手に負えないレベルにならないように、国際社会は長期的な気温上昇を2℃、できれば1.5℃以内に抑えようとパリ協定という枠組みをつくって対策を議論しています。そのためには2050年までにカーボンニュートラルの実現が欠かせないと指摘されています。発電時に温室効果ガスを排出しない再生可能エネルギーの電力に切り替えていくことは、家庭でもできる気候変動への対策になります。

 

 未来館でも、使われているエネルギーのカーボンニュートラルの実現に向けた施策の検討を2021年から始めています。図に示したのは、未来館で消費されるエネルギーの内訳です。

 未来館で使っているエネルギーの約46%は電力が占めています。電力以外で供給されるエネルギー源として、お台場地区の地域熱供給システムから供給されている温水と冷水があり、建物の空調に使われています。この地域熱供給については、後日、別のブログで紹介をしていこうと思います。

図2 未来館で消費されるエネルギーの割合(2020年度のデータより)
※ガスが0%となっているのは電力等に比べて、非常に小さな消費量だったため。

 未来館が排出する温室効果ガスも電力由来のものが最も多くを占めていました。具体的には2020年度における年間の温室効果ガス排出量は、およそ3000トンで、そのうち2000トンが電力由来のものでした。そこで温室効果ガスの排出量を減らすことを目的に2022年度からゼロワットパワー株式会社と契約をし、再生可能エネルギー100%で発電された電力の購入を始めました。今年度は青森県の深浦風力発電所で発電された電力を実質的に使用しています。

図3 青森県深浦風力発電所

電力はどのようにして供給されるのか?

 当初、私は青森で発電された電気が電線を通って、未来館まで届いている様子を想像していました。しかし、ゼロワットパワー株式会社からは「深浦風力発電所で発電された電力を未来館用に購入している」「風力発電の電力が直接、未来館に届いているわけでない」と説明を受け、「未来館用に購入しているってどういう意味なんだろう?」「青森から未来館に電力が届けられているんじゃないの?」と疑問に思いました。そこで日本の送電線の仕組みや電力供給に関わる事業者がどんな仕事をしているのかを調べてみることにしました。

 私たちが使う電力が家や建物まで届くまでには、次のように3つの事業者が関わっています。発電所を管理し、発電をする発電事業者。発電所から住居や建物までの電線を管理し、停電が起きないように調整をする送配電事業者。そして、電力が住居や建物に届くように消費者と契約を結ぶ小売電気事業者の3者です。以前は、全国10のエリアそれぞれで、これら3つの事業をすべて一括で担う一般電気事業者が存在していましたが、20164月の制度の改正によって、発電・送配電・小売りと事業ごとに、事業者が分かれるようになりました。

図4 電力供給の仕組み

 発電事業者は、いろいろな小売電気事業者から依頼された電力を供給できるように発電をしています。未来館用に発電している深浦風力発電所を運営している株式会社新エネルギー技術研究所は、発電事業者の一つです。

 また送配電事業者は、発電事業者が発電した電力を消費者である私たちの家や建物まで届くように調整をする重要な役割を担っています。関東地方だと、東京電力パワーグリッド株式会社が送配電事業者にあたります。

 小売電気事業者は、私たち消費者に一番近く、電力を建物まで届ける契約をする窓口です。消費者が使う電力量を算定し、発電を発電事業者に、送電を送配電事業者に依頼します。未来館の場合、ゼロワットパワー株式会社が小売電気事業者にあたります。

電力が届くまでにはこんなやり取りがある

 では、実際に未来館に電気が届くまでに、どのようなやり取りが起きているのか。次の図のようになるのではと予想された方が多いかと思います。

図5 未来館への電力供給予想の図

 「1つの発電所でつくられた電力は、変電所などを通って、未来館にやってくる」というイメージ。しかし、未来館の電力消費量は時々刻々で変わっていますし、それを予想して発電機を回すのはとても難しそうです。また、風力や太陽光といった発電方法は、基本的にはお天気任せなので、発電電力量を時々刻々と制御することはできそうにありません。それではどうやって、いつでも必要な電力が届けられているのでしょうか? 

 

 調べてみると、実際の送電線は、特定の消費者と発電所とを結ぶ専用線になっているわけではないことがわかりました。電気を必要とするすべての建物と、電気をつくり出すすべての発電所とは、送配電網(グリッド)という一つのシステムにつながっているのです。

図6 実際の未来館への電力供給の図

 ゼロワットパワー株式会社のような小売電気事業者の役割は、契約している顧客全体で必要としている電力量を予想して、その予想される電力量が必要な時間帯にグリッドに供給されるように、多数の発電事業者から電力購入契約をしているのです。

 小売電気事業者が、顧客の使用電力量と発電電力量をぴったり同じにすることはなかなかできません。グリッド全体でみると、予想よりも電力が足りなかったり、余ってしまったりということがどうしても生じてしまいます。その場合は、送配電事業者が責任をもってグリッド全体の電力の需給バランスを常にとるように調整することになっています。具体的には、調整可能な火力発電所や水力発電所の発電量を増減させたり、揚水発電というエネルギーをためておくことのできる施設から電気の出し入れをしたりします。

 未来館で使う電力を供給している風車は基本的には風のおもむくままに発電をしています。年間を通じてみると、未来館で消費した電力に相当する電力分を購入しているという形をとっているのです。

さいごに

 今回、電力供給に関わるシステムを調べることで、自分が想像していた電力供給とは違っていたことに気づきました。電力供給は〇〇電力会社だけで行われていたのは少し前のことで、今は3つの事業者に分かれているということ。そして、送配電網(グリッド)というシステムのおかげで、私たちは停電になることなく、いつでも電化製品を使える状況がつくられていることを初めて知りました。

 取材や調査を通じて、電力供給に関わる制度や運用の実態などわからないことや悩ましいことが出てきましたので、さらに調べたり、インタビューしたりしてみなさんにブログで紹介できればと思っています。

参考文献

1)IPCC 6 次評価報告書 第 1 作業部会報告書 気候変動 2021:自然科学的根拠 政策決定者向け要約(SPM)暫定訳(2022 5 12 日版)

2)経済産業省 令和2年度(2020年度)エネルギー需給実績(確報)(令和4415日公表)

3)再生可能エネルギーをもっと知ろう(2021) 安田陽 株式会社岩崎書店

4)世界の再生可能エネルギーと電力システム(2018) 安田陽 株式会社インプレスR&D

5)電力自由化がわかる本(2016) 木舟辰平, 柳沼倫彦 洋泉社

6)第3版 電力システムの基本と仕組みがよ~くわかる本 (2022) 木舟辰平 秀和システム

7)図解でわかるカーボンニュートラル(2021) 一般財団公人エネルギー総合工学研究所 技術評論社

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