核融合発電に投資すべき?~トリチウムの放射線リスクを定量的に考える

サイエンティスト・トーク「1億度のプラズマを閉じ込めろ!地上に太陽をつくる核融合研究の最前線」が5月3日、未来館で開かれました。核融合科学研究所の竹入康彦教授をお招きして、核融合発電のベネフィットとリスクを整理。「今後30年かけて数兆円の負担をしてでも投資すべきか」を参加者と一緒に考えました。今回のブログは、そのレポートです。

さらに、イベントの中で冒頭のような意見が上がりました。可能な限り定量的に、核融合発電の放射線リスクについて考察してみたいと思います。以下のような3部構成です。

「21世紀の未来技術を実現させてやるんだ!」

イベントは、竹入教授が核融合の研究にのめり込んだきっかけの話題から始まりました。竹入教授は中高生のころ、藤子・F・不二雄氏のSF漫画「21エモン」に没頭。その中に登場した人工太陽に憧れて、核融合の研究を志しました。若い研究者の中には「ガンダムを自分で作りたくて核融合の研究を始めた人もいる」とも話していました。

核融合発電では、陽子と中性子が1個ずつの「重水素」の原子核と、さらに中性子を1個加えた「トリチウム(三重水素)」の原子核を衝突。そのときに、ヘリウム原子核と中性子が、莫大なエネルギーとともに生み出されます。飛び出してきた中性子の運動エネルギーを熱エネルギーに変えて、蒸気でタービンを回して発電する構想です。

イベントではベネフィットとして、「地球上に存在する燃料の量」を挙げました。投入する燃料は重水素とトリチウムですが、トリチウムはリチウムから作られるので、必要な燃料は「重水素」と「リチウム」です。この2つの物質は、地球の表面の7割を覆っている「海水」に含まれているんです!そこで、こんなクイズを出題しました。

答えは・・・①のペットボトル2本分。海水3リットルに含まれる0.1gの重水素と、携帯1台分の電池の中に入っている0.3gのリチウムで、日本人1人あたりの年間電気使用量7500kwhを発電できるんです!

続いてリスクについて考えました。最初は「事故リスク」です。原発事故のように、爆発して放射性物質が周りに広がる可能性はどのくらいなのでしょうか?原発は、ウランに中性子が衝突して分裂したときに、エネルギーが生み出されます。そのときに新たに中性子が飛び出し、再びウランにぶつかるという具合に、連鎖的に反応が続いていきます。一方の核融合発電は、どうなのでしょうか?

(プラズマって何?という人は「こちらのブログ」をご覧ください) (リンクは削除されました)

核融合発電の場合は、反応で発生した中性子は次の反応に関係しないので連鎖反応は起きず、暴走はしないと考えられています。また、燃料を1億度という「高温」に加熱し、1立法cmに100兆個という「高密度」にする必要があります。だから、何かあればプラズマがすぐに消えてしまうので、反応が勝手に止まると考えられています。

次に「放射線リスク」を取り上げました。核融合発電にかかわる放射性物質は燃料の「トリチウム」と、発生した中性子によって「放射能をもつようになった核融合炉」です。原子力委員会が2000年にまとめた「核融合エネルギーの技術的実現性~計画の拡がりと裾野としての基礎研究に関する報告書」の中に、「潜在的放射線リスク指数」というデータがあります。放射性物質を許容濃度以下になるまで薄めるのに必要な空気の体積を、リスクのものさしにしています。

緑が原子炉、赤が核融合炉を表しています。薄めるのに必要な空気の量なので、多ければ多いほど、放射線リスクが高いということになります。このデータによると、核融合炉の放射線リスクは、停止直後で原子炉の100分の1。1年後には1000分の1ほどです。また、原子炉から出る放射性廃棄物は、10万年ほど人間の生活環境から隔離しなければいけません。一方の核融合炉は、長期間にわたって放射性リスクが続く「高レベル放射性廃棄物」は出ません。竹入教授によると「100年管理すれば、材料として再利用できる」そうです。

第2部は、「原発とリスクを比べても意味がない」、「定量的に評価すべきだ」との意見を受けて、私がイベント後に調べて補足した内容です。

核融合炉にかかわる放射性物質は、燃料の「トリチウム」と中性子によって「放射化された炉」の2つです。放射化された炉の方は、装置そのものなので、放射性物質が拡散するリスクは低いと思います。一方のトリチウムは気体なので、何らかの要因で拡散する恐れがないとは言い切れません。なので、今回は主にトリチウムの放射線リスクを考えたいと思います。まずはトリチウムの基本的な情報です。

このように、トリチウムはβ線を放ちます。β線の正体は、原子核の中から勢いよく飛び出してきた「電子」です。一般的に衣服や皮膚で遮られるので、体の外にある放射性物質による「外部被ばく」のリスクは小さいと考えられています。なので今回は、体の中に取り込まれた放射性物質による「内部被ばく」を考えます。

(参考:原子力資料情報室) (リンクは削除されました)

トリチウムが体の中に取り込まれると、おもに2つの形態を取ります。ひとつは酸素と結合して水のようになる「水トリチウム」。もうひとつは有機物と結合する「有機トリチウム」です。トリチウムは、どこかの決まった臓器に取り込まれやすい性質はないので、まんべんなく体を巡った後に、徐々に体の外に排出されます。体の中に入った放射性物質は、決まった時間ごとに半分に減っていきます。水の形の場合は10日、有機物の場合は40日ほどで、半分になります。

また、1ベクレル(Bq)が体の中に取り込まれたときに、排出されるまでにどれほど内部被ばくするかは、次の表のようになります。この値に取り込まれた放射能をかけ算すると、被ばく量が計算できます。(出典:ICRP Publication 72)

体の中に入った放射能(単位はベクレル:Bq)が分かれば、もっと深い考察ができますが、それは想像でしかありません。参考までに、将来の核融合炉で使うトリチウムの量を紹介します。原子力資料情報室(CNIC) (リンクは削除されました)によると、将来の核融合炉(1GW)で1年間に使うトリチウムは130kg。これは4.7×10^19 Bqに相当します。

また、原子力委員会の「核融合エネルギーの技術的実現性・計画の拡がりと裾野としての基礎研究に関する報告書」 (リンクは削除されました)によると、炉内にあるトリチウムは4.5kgで、1.7×10^18 Bqに相当します。

可能性は低いかも知れませんが、万が一何か大きな事故があった場合、最大でこの量がまわりに拡散し、空気とともに薄まりながらも運ばれ、その一部が体内に入ってくる怖れがあることになります。

放射線の被ばくと健康への影響については、「やっかいな放射線と向き合って暮らしていくための基礎知識」 (リンクは削除されました)(田崎晴明氏)が参考になると思います。ぜひ、読んでみてください。

ベネフィットとリスクを整理した上で、最後にこのような問いを投げかけました。

「今後30年間で、数兆円負担しても

投資すべき科学技術だと思いますか?」

イベントの開始前にも同じ質問をして、比べた結果がこれです。

またイベント後に、「投資すべき」「投資すべきでない」を選んだ理由をふせんに書いてもらいました。まずは「投資すべき」を選んだ人の理由です。

  • 化石燃料は今後枯渇する。安定なエネルギーとしてミニ太陽を!
  • 高レベル放射性廃棄物が出ないと聞いているから
  • 放射能の除去や中性子制御の技術向上になるので

「燃料の豊富さ」「放射線リスクを低く見積もって」「放射線研究の向上」などの理由がありました。次に、「投資すべきでない」を選んだ人の理由です。

  • 大量のエネルギーに依存しない社会づくりを優先すべき!
  • 原発と同じく大きなエネルギーを扱うことに変わりはない
  • 蓄電池の開発に力を入れて、現状の発電能力を最大に上げたほうが良い

「そもそも大量のエネルギーを必要とする社会を見直すべき」「再エネや省エネに優先的に投資すべき」などの理由がありました。皆さんはどう考えたでしょうか? ぜひ「投資すべき」か「投資すべきでない」かを考えて、理由も添えてコメントいただければと思います。ありがとうございました。

▼名前:サイエンティスト・トーク「1億度のプラズマを閉じ込めろ!地上に太陽をつくる核融合研究の最前線」

▼開催日時:2014年5月3日(土)15:00~16:00

▼開催場所:日本科学未来館 3階 実験工房ドライ

▼参加者数:110人

イベントを紹介するアーカイブページはこちら。 (リンクは削除されました)

イベントのYoutube動画もご覧いただけます。

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