植物の常識をひっくり返す藻類!

こんにちは!チェンチェンです!

この写真にビックリしましたか?
これらの生き物は藻類(そうるい)といいます。
陸上の植物は5億年の歴史がありますが、藻類はなんと30億年の歴史があります。
こんなにも歴史の長い藻類は、地球の進化、ほかの生物の進化に大きくかかわっています!
第10回みどり学術賞の受賞者 (リンクは削除されました)で、著明な藻類学者である井上勲(いのうえ・いさお)先生は藻類をはじめとする生物の進化の過程を解明し、共生が多様性を生み出す原動力として働いていたことを示しました。
本ブログでは、井上先生の研究をまじえながら、藻類の不思議さを皆さんに紹介したいと思います。

1. 藻類とは?

おおざっぱにいえば、「水中にすむ植物」といってもよいでしょう。
藻類はとても複雑で、植物の常識に当てはまらないものもいるため、
ここまでは藻類でここからは藻類ではないとはっきりと線引きをすることがとても難しいです。
コンブやワカメなどの肉眼でも見えるサイズの海の藻類は「海藻」と呼んでいます。
人間とおなじように身体がたくさんの細胞からできた多細胞生物です。
しかし、眼で見えないほど小さな藻類も圧倒的な数と種類で存在しています。
その多くは1個だけの細胞からなる単細胞生物です。
ほとんどの藻類は海、川、湖などにいて、陸上の乾いた場所にはあまりいません。
生命力が強く、温泉や深さ200メートルの深海などのきびしい環境にも見られます。
井上先生は眼で見えないほど小さな藻類を中心に研究しています。
顕微鏡観察や遺伝子分析での分類、進化過程を調査しています。
このブログではそんな小さな藻類(微細藻類)について説明します。

2. 藻類はどうやって栄養を得ている?

陸上植物のように光合成で栄養を作っていると思う方が多いかもしれません。
それは正しいのですが、光合成に加えて、動物のようにエサを食べることで栄養を得ている藻類もいます!
例えば、図2は藻類の1種であるハプト藻の仲間がエサを捕まえる瞬間の写真です。
井上先生と当時は学生だった河地正伸氏(現在は国立環境研究所)はハプト藻が捕食する現象を発見しました。
ハプト藻は植物のように光合成によって栄養を作ると同時に、
小さなエサ(バクテリア)を動物のように捕まえて栄養を得ています。
図2のようにエサを探して捕まえて、口に入れる糸のようなものはハプトネマと呼びます。
面白いのは、ハプトネマでエサを捕まえてすぐ口に入れるのではなくて、
捕まえたエサを何回か集めてから口に入れるところです。
食べる効率がとてもいいですね。

3. 藻類の進化と多様性

私たちは植物を食べても植物になったりはしないですよね。
でも、大昔の海の単細胞の「真核生物」は違ったのです!

27-35億年前に、光合成を始めて酸素を作り出し、
現在のような酸素に富んだ地球大気にしたのは藍藻(ラン藻、シアノバクテリア)という「原核生物」の藻類でした。
原核生物、真核生物などという難しい言葉が出てきましたが、
たとえば大腸菌などのバクテリアは原核生物です。
一方、動物や植物、菌類(カビやキノコ類)は真核生物です。
ラン藻が光合成を始めて酸素が増えてくるのと足並みをそろえるように(地球の歴史の中でも最大規模の環境変動です)、単純な原核細胞から真核細胞が誕生してきました。
真核細胞の構造は原核細胞に比べるとはるかに複雑で、いろいろな機能が増えました。
原核細胞をテントとすると、真核細胞は家具付のレンガ造りの家です。(図3)

偶然か必然か、真核生物にエサのように取り込まれても消化されなかったラン藻があり、これが細胞の中で共生生活をするようになりました。これは一次共生といいます。
消化されなかったラン藻はやがて細胞内小器官として真核細胞のなかで機能を発揮するようになります。
これが葉緑体の起源と考えられています。
こういった共生によって進化してきた真核生物は「一次植物」と呼ばれています。
緑藻類、紅藻類、灰藻類がこれにあたります。
生命の進化はここで終わりではないです。
一次植物である緑藻類の一部が上陸して、陸上の生態系を生み出しました(陸上の植物も一次植物の仲間です)。
海に残った一次植物は再び真核生物に取り込まれて、二次共生が始まりました。
二次共生によって、「二次植物」である藻類が誕生し、さらに多様性が増していきます。
下の写真に示した珪藻(ケイ藻)や円石藻は、そうした二次植物の仲間です。(図4 珪藻の写真、図5円石藻の写真)

4. 半藻半獣ハテナ(藻類史上の大発見)

例えば恋人どうしの同棲生活でも、始まりにはきっとケンカしたりするというお互いに馴染む段階があると思います。
藍藻と真核生物の共生では、結果的に新しい藻類あるいは陸上の植物になって、
共生する藻類も葉緑体という細胞の器官に完全になりました(葉緑体だけを取り出しても、生きていくことはできません)。
では、藍藻などの藻類と真核生物の"同棲生活"が始まったばかりのときはどうだったでしょうか?
いろんな説がありますが、定論はまだありません。
しかし井上先生と当時は学生だった岡本典子氏(現在はカナダ、ブリティッシュコロンビア大学)が
初めて発見した「ハテナ」という藻類が"同棲生活"初期の一つの可能性を示しています。(図6 ハテナ)

ハテナは二次共生を行う生物です。
一次植物であるプラシノ藻類の仲間(ネフロセルミス)がハテナの共生葉緑体として、真核生物であるカタブレファレス類の鞭毛虫(動物プランクトンの一種)の体に存在しています。
通常、細胞は分裂するときに、中身も等分して、全く同じ2個体になります。
でも、驚いたことにハテナの細胞分裂は普通ではありませんでした。(図7)

図7のようにハテナが2個体に分裂したとき、一方の個体にすべての共生葉緑体が引き継がれ、もう一方の個体は共生葉緑体をもたずに透明です。
とても不思議な現象なので、ハテナという名前が付けられました。
共生葉緑体をもっている個体は植物のように光合成を行うことで栄養を得て生きています。
透明の個体は動物のようにエサを食べて生活します。
面白いことにエサを食べるうちに、共生できるような藻類は消化されず、
逆に大きくなって、また葉緑体のように細胞内に広がります。
共生藻類は大きく改変を受けていますが、娘細胞に等しく分配されることはありません。
つまり、ハテナの二次植物への進化はまだ完成していないのです。
現在の藻類は一次植物と二次植物になる前、つまり"同棲生活"が始まったときに、ハテナと同じようなことを行っていたのかもしれません!
ハテナの発見は藻類の進化過程の解明に大きく貢献したので、
その論文は分野を問わず科学の大きな業績を扱うサイエンス誌に掲載されました。

5. まとめ

地球は46億年の歴史がありますが、その中でも藻類の歴史は30億年あります。
長い歴史と天文学的な細胞数のある藻類は地球の環境と生命にとても大きな影響を与えています。

とはいえ、多くの藻類はとても小さく、いることに気づかない生物なので、その大切さがあまり認識されていません。
多くの人々に藻類のすごいところを紹介するために、井上先生は643ページにもわたる『藻類30億年の自然史』を書きました。
また、大量の藻類の画像もウェブで皆さんに公開しています。(図8)

藻類については未知のことが山ほどありますが、
藻類の世界の一角を発見して紹介してくれる井上勲先生を、私は強く尊敬しています。

番外

井上先生は同じ筑波大学の渡邊信先生と同様に、
藻からエネルギーを作ることに熱意をもっている藻類学者です。(私のブログを参考してくだい) (リンクは削除されました)
現在は福島県南相馬市で藻類からエネルギーを作る大規模開発を行っています。
お二人は藻類が100年後の人類を救うと信じています。
藻類についての話は山ほど多いです。
また藻類シリーズの話をブログで書きたいと思います!

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