みえる人とみえない人はアンドロイドに何をみた

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未来館の展示を誰かと一緒に見て語り合ったら、新しい発見があるかもしれません。

それも、自分とは立場が違う人――たとえばそれが、視覚障害者と晴眼者(見える人)だったなら?

 

2015年の12月、「みえる人とみえない人のミライカンバセーション ―ロボットとわたし」というタイトルで行ったイベントの一幕を紹介します。

 

このイベントは「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ」のみなさんと一緒につくりました。
この団体に所属する「視覚障害者であるナビゲーター」と科学コミュニケーターと参加者で10人弱のチームを組み、未来館の展示を見学します。"見学する"と言っても、ナビゲーターは全盲のため展示が見えません。そこで、展示が見える方に、色や形、大きさなどといった「みえるもの」を言葉にしてもらいます。もう1つ大切なことが「みえないもの」です。みえないものとは、展示を見て感じたことや考えたこと。
参加者には晴眼者も視覚障害者もいて、視覚の程度は人それぞれです。それぞれの立場からみえるものを言葉にし、見たことや聞いたことから感じたみえないものを語り合います。

 

ナビゲーターは、展示の姿を想像し、想像しきれない部分を質問していきます。

 

たとえば、Geo-Cosmosを見ていたとき。

20160619kumagai01.jpg(上の写真は、地球の姿を映し出した大きな球型のディスプレイであるGeo-Cosmosとそれを見て語り合うチームの様子)

 

「大きな地球です」、「上からワイヤーで吊されて浮かんでいます」、「青い海が広がっているのが見えます」、という参加者の説明を聞いていたナビゲーターが、こう質問しました。


「海の青は、どんな青ですか?」

問いかけを受けて、参加者は再びGeo-Cosmosを見つめ、言葉を探します。

 

「とても、深い青です」

「すこし緑が入っているような青」

 

きっと、この問いかけがないままGeo-Cosmosを見ていたら、海の青さを意識することはなかったかもしれません。(私はこの説明を聞いて、Geo-Cosmosから深海や植物プランクトンの存在を感じられることに感激しました)

 

ナビゲーターは、参加者がじっくりと展示と向き合う体験を案内する役を担う人です。科学コミュニケーターも、立場の違う参加者の1人として発言します。
2時間かけて、見た展示はたったの3展示。これでも時間が足りないくらいでした。言葉にするつもりで展示と向き合ってみると、日常では「見ているようで見ていないこと」が、いかに多いかに気づかされます。

そして、みんなで語り合っていると、自然と「問い」が出てきます。

 

オトナロイドの展示から生まれた、あるチームの話です。

20160619kumagai02.jpg

(上の写真はイベント中の様子。右のソファに座るピンク色のセーターを着た女の人の姿がオトナロイドです。左側には笑顔で語り合う参加者と視覚障害者であるナビゲーターの姿が写っています)

 

それまで周囲の発言をじっと聞いていた晴眼者のAさんが、おもむろに口を開きました。(以降登場するA~Dさんは、みなさん晴眼者の参加者です)

 

Aさん)僕、オトナロイドをすごく人間っぽいなと思うんですけど、人間ではない。これをロボットだと判断できるのってすごく不思議です。まばたきもするし、人間だと思ってもおかしくないはずなのに。みなさん、どこで判断しているんでしょう?

 

この問いを受けて、チームの参加者がぽつりぽつりと自分の考えを述べ始めます。

 

Bさん)ひとつひとつの動きがなんとなく不自然なのと、単純に肌の質感かなぁ。

Cさん)お人形がお化粧した感じ。

Aさん)じゃあ、人工皮膚を使ったらその差はなくなるんですか?

Dさん)うーん、人間ならば、口を動かした時に顔全体が動きますよね。耳の方とかも全体的に。

Bさん)人間の関節の動きはすごい。アンドロイドは"一応動く"。人間の細やかさはないね。

 

Cさん)...でも、50mぐらい離れたらロボットとはわからない。近くまで来て、細かい動きとかが見えてくると、なんか違うなと感じる。さらに近づくと、人間ではないことがわかる。

Bさん)畑にある人間そっくりのカカシも、遠目だと人間だと思っちゃう。それと同じ感覚なんですかね?

Cさん)うん、見た目が人間と同じだから、「人間だ」って思っちゃう。

 

ここで、Aさんが再度問いかけます。

Aさん)それって視覚の話ですよね。目が見えない人にとってどうなるんだろうって考えると怖くないですか?

 

視覚障害者であるナビゲーターの高橋さんが答えます。

高橋)みなさんはこれをロボットだと思っていますよね。でも、声は人間っぽい受け答えをしています。なので、私にはロボットがしゃべっているイメージはない。

 

そして、こう続けます。

高橋)だから...本当にロボットが受け答えをちゃんとできるようになったら、勘違いしてしまうかもしれない。

Cさん)......実は私がアンドロイドかもしれないですよね。

高橋)ええ、そう言われると、もう私は信じるしかないかもしれない。

 

 
同じ全盲の視覚障害者でも、オトナロイドの認識の仕方はそれぞれでした。
ナビゲーターの1人、木下さんは「マイクを通してしゃべっている人の声にしか思えない」と言う一方で、同じくナビゲーターの瀬戸さんは「僕はみんながロボットだって言うから、ロボットなんだろうなと思える」と言います。

晴眼者の間でも、様々な受け止め方が現れました。中には、オトナロイドに「なおみ」と名付ける人も。どうも眉間のあたりに憂いを見てとったようで、「なんか乗り越えてきたことがあるんだろうな」、「ロボットにも苦しみがあったんだね」などと語り合いながら見ているうちに、このチームではすっかり"なおみ"の人格が出来上がりました。

 

声についても、人間だと思う人、ロボット(合成音声)だと思う人、人間だと信じたい!いや人間ならもっと流暢に話すはずだからロボットだろう、など、感じ方はそれぞれでした。

20160619kumagai03.jpg

(上の写真は、イベント時に見たオトナロイドのアップ。実は、オトナロイドは4月20日より「オトナロイド(二代目)」に代わっていて、この姿はもう見られません)

 

あなたは、このオトナロイドの写真からどんなことを思いますか?
心の中で思うだけでなく、言葉にして誰かと共有してみたら、新しい発見につながるかもしれません。

  

2016年7月2日、10日に、未来館で再びこのイベントを開催します。

7月2日は「きこえる人ときこえない人のミライカンバセーション -ロボットとわたし」。こちらは手話通訳者を招いて、聴覚障害のある人とない人でチームを作り、語り合います。

7月10日は「みえる人とみえない人のミライカンバセーション -地球とわたし」。4月に新規オープンした展示「100億人でサバイバル」の一部を、視覚障害者のナビゲーターを含むチームで見学します。

何度も見ている展示も、誰かと一緒に見たらまた違った見え方をするかもしれません。はじめての方も、じっくりと深く展示を感じるチャンスです。イベントはいずれも事前申込制、応募多数の場合は抽選となります。以下のリンクより詳細をご確認の上、お申込みください。(締切が迫っていますのでご注意を!)

また、イベントは予定が合わない!という方は、未来館の常設展示フロアには科学コミュニケーターが常駐しています。展示を見て感じたことや考えたことを、ぜひ私たち科学コミュニケーターに教えて下さい。もちろん、このブログのコメント欄からも大歓迎です。

 

[イベント詳細はこちら]
2016年7月2日(土)①10:00~11:45、②13:00~14:45 (申込締切:6月27日17時)
だれでもプロジェクト 展示ツアー「きこえる人ときこえない人のミライカンバセーション -ロボットとわたし」
http://www.miraikan.jst.go.jp/event/1606031620067.html

2016年7月10日(日)14:30~16:30 (申込締切:7月4日17時)
だれでもプロジェクト 展示ツアー「みえる人とみえない人のミライカンバセーション -地球とわたし」
http://www.miraikan.jst.go.jp/event/1606031720068.html

※いずれも事前申込制・抽選となります。上記詳細ページ内にあります「イベントの申込」ボタンよりお申込みください。

 
共催:視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ
Facebookページ https://www.facebook.com/kanshows

本イベントは、子どもたちの科学への興味を育むGoogle Field Trip Daysプログラムとして実施されます。

 

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